HAKATA PARIS NEWYORK

いまのファッションを斬りまくる辛口コラム

効率主義の産物。

2018-01-03 05:40:23 | Weblog
 2018年を迎えた。業界はすでに春物企画を終え、初夏、夏の動向を探っている状況だ。これから寒さが増す季節と言いながらも、福岡は年末からとても天気が良く、年明けの陽射しが日に日に春らしく感じる。実需ではどうしてもブライトカラーに目が行ってしまうのだ。

 店頭は12月からセールに入っているものの、秋冬物の在庫処分なのでダークカラーの持ち越し在庫が中心になる。だから、とても買う気にはなれず、セールでは夏冬20シーズン以上何も購入しない状況が続いている。

 アパレル業界にいた体質というか、感覚時計というか、どうしても季節前倒しで商品を考えてしまう性だ。実需においても12月に入ると、春向きのライトベージュや生成り、オフホワイトの方が気になる。かと言って、気温は低いので、冬素材であることが条件なのだが。

 そんな我が儘は自分だけかと思いながらも、ネットで商品を検索すると意外にオフホワイトやライトベージュで、レディス、メンズともに冬素材の起毛系コットンなどがプロパーで完売している。自分と同じこと考えているお客さんは意外に多いとの印象を受けるが、その傾向が少しずつ顕著になっているような気がする。

 そこで、理由をいろいろ考えてみた。まず秋冬では配色構成はダークカラー中心になるから、ブライトカラーは差し色になる。暗い色の中に明るい色が混じると、逆に目立つから、お客さんが手に取るケースは多い。手に取った商品を比較検討に移ると、黒やグレー、モスグリーンなどは当たり前過ぎというか、お客さんはほとんどタンス在庫をもっているから購入を躊躇うだろう。

 いざ買い物行動の段階になると、オフホワイトやライトベージュには新鮮味を感じ、多少は購入に心が傾くはずだ。その時、季節が11月ならセールまで待つのか、今買っとかないと売り切れてしまうのか、気持ちは揺れ動く。さらに1月、2月に着用すること考えると、明るい色の方が3月上旬くらいまで着られるとなる。そして、よし買いだと、決断するお客さんがかなりいるのではないか。完売はそうした結果だと類推される。

 メンズアイテムに限ると、バリエーションが多いわけではない。色数も圧倒的にセーブされている。レディスのように1月に上下ブライトカラーで組み合わせるまでの大胆さは持ち得てなくとも、トップ、ボトムのどちらかを明るめにして着こなすのなら、抵抗はないはずだ。そうした心理が購買を誘い、完売アイテムが出ているのではないかと思う。

 完売しているメンズアイテムは、有名ファッションサイトで「モールスキン」「起毛系」「ホワイト」などのキーワードで検索しヒットしたセレクト系のパンツ(上代12,960円)で、売れ筋サイズ(M)のホワイト。他の色ではチャコールグレーもMが完売していた。秋冬カラーのカーキやネイビー、ベージュ(濃い目茶系)は、まだ在庫が残っている。ちなみにこのアイテムは12月31日時点で一切値引きはされていない。つまり、ブライトカラーの中心サイズは、プロパーで在庫を消化したことになる。

 同じ条件で検索した他のブランドでは、某紳士服量販店がヤングアダルト向けに展開するPBがあった。こちらは価格が12,000円で12月からセール対象となったようで、10,800円と10%オフになった段階で、オフホワイトはSSから3Lまでの全サイズが完売していた。12月31日時点では8,400円まで値下がりしているが、グレー、ネイビー、ブラウンの秋冬カラーはMはすべて、他のサイズもほぼ在庫は残っている。

 こうした傾向から導き出される結論は、メンズであっても冬だから必ずしもダークカラーだけが求められるわけではないこと。12月のセール期に入ると、年越し、梅春の実用性を考えてブライトカラーの方に人気が集まること。そして、春に近づくほど上下、どちらかにブライトカラーを組み合わせるコーディネートが好まれること等々。では、ないだろうか。あくまで類推の域を出ないが、信憑性はかなり高いと思う。

 筆者はレディス畑を歩んできたので、メンズはあくまで門外漢だ。ただ、11月からセールが前倒しされていることが批判を受けるが、お客は年越しの秋冬在庫にもそれほど興味がなくなっていることも指摘されるべきではないかと、異論を承知で言わせてもらいたい。メンズでも年内にしかもプロパーでホワイト系などのブライトカラーが売れていることが何よりの証しだ。

 筆者が昨年の11月、12月と多忙だったため、プライベートのショッピングチェックができず買い逃したことを割り引いても、12月でプロパー完売というのはかなりの機会ロスが出ているのではないかとも思う。実際のところはどうなんだろうか。

 そう考えると、メンズでもカラーMDを見直し、ダークカラーは11月までの在庫量とし、12月から遅くとも年明け1月からはブライトカラーのプロパーを強化してもいいのではないかと思うのである。

 一方、グローバルSPAのユニクロは、数年前から冬向けの暖パンシリーズにホワイトを加えている。今シーズンのアイテム名を正確に記すと、「ヒートテックスリムフィットジーンズ」。アイテムはあくまでジーンズだから、デニムの加工、濃淡でバリエーションを出し、それに無色のホワイトを加えたレギュラーと同じ構成である。

 ヒートテックスリムフィットジーンズは、デニムと機能性素材のヒートテックを合体させ、保温性を加えたアイテムということになる。商品説明には「今季はストレッチ性がアップし、裏地もフリースのような柔らかさになり、抜群に柔らかいはき心地にアップデート」とある。混紡率はホワイトで、63%綿、19%ポリエステル、8%レーヨン、8%アクリル、2%ポリウレタン。アクリルやポリウレタンが加えられているので保温性は高いと思う。

 それでもサイトのレビューをみると、メンズアイテムなのに女性に人気があるようで、小さいサイズ27インチのホワイトが完売していることに憤りのコメントが上がっている。サイズ的に同じことを考える女性が購入していると仮定すれば、女性は男性以上に冬場でもブライトカラーに抵抗がないことが見て取れる。

 ユニクロはストレッチジーンズもフリースもそれぞれ独自に開発し、そのノウハウを十分に蓄積しているので、この手のアイテムの開発はそれほど難しくないと思う。ゼロから 新規に開発する必要がなく、素材調達も他と効率的に行えるから、すんなり販売できるわけだ。それは工業生産的発想の商品だからこそ、可能なのだろうが。

 混紡率を考えると、ブラックのタイプは静電気が発生して細かい糸屑が付着するのではないかと思ってしまう。同社のポリエステル混のストレッチパンツでも黒は糸屑が目立ったので、 ヒートテックスリムフィットジーンズでもそれが心配だ。まさか女性がホワイトを選んでいるのは、静電気による糸屑が目立たないことが理由ではないのか。



 ユニクロの店頭を見ると、カジュアルアイテムとは言え冬向けの起毛系コットンやピーチスキンなんかの企画には踏み込む意思はないようである。冬場の代表素材であるコーデュロイも、この秋冬は全く見かけない。H&MのCOSがコーデュロイに回帰したのとは対照的である。ジーンズチェーンなんかも同じ傾向で、コットンの起毛系は全く見かけない。もう企画としては飽きられたのだろうか。

 昨今、商品が売れるにはブランドがどうのこうの、EC、ネット通販サイトによる販路確保が先決のように言われる。しかし、原点である商品の色や素材を抜きにしては成り立たないと思う。実際に完売している商品の背景を探れば、売れる根拠が示されているわけだ。ごくありふれた色や素材は、実店舗だろうとネット通販だろうと山のように在庫が残っている。

 それらを見ると、いくら50%以上割引しクーポンを付与しても、シーズンと色や素材が相関関係にあるファッションアイテムでは、年明けに持ち越し在庫の消化は難しいと言わざるを得ない。やはりMDは秋冬はダークカラーオンリーの固定観念から少し抜け出し、次シーズンにも行けるようなカラー&素材MDを熟考する必要があるのではないか。

 振り返ると、2017年の業界は「原価率の明示」と「EC景気」が注目を集めた。トーキョーベースは原価率50%を謳って商品企画を行い、市場からそこそこの評価を受けた。ただ、原価率は生産ロットでも大きく変化する。理論上ではユニクロが東京ベースと同じ商品を作るなら、トーキョーベース半額、つまり25%でも不可能ではない。もっとも、そうは言っても、ブランドの世界観や企画の方向性、素資材に対する考えが全く違うので、実際にはそうならないと思うが。

 比較することは全くナンセンスである。だから、原価率なんて数字のマジックがおき易い理屈ではなく、素資材そのものを見つめ直してほしいのである。経営効率を追いかけるグローバルSPAとは一線を画する素資材の使い方である。

 一方、ECはどの企業経営者も重要な販路に位置づけ、結果、配送業界へのしわ寄せや返品増加、再販不能という負の効果も露呈した。実店舗、店頭を補完する機能というより、独自のチャンネル、メーンの販路になると、店舗の価値がどうなるのか。皆が通販サイトばかりで商品を探すために、売り切れ、売り逃しが頻発し、店舗はそうした状況にどう対応するのか。そうしたことも考えなければならない1年になりそうである。

 誰がアパレルを殺すのか。今年はその犯人探しの前に、殺伐とした環境とは一線を画する、もの作りを目指すこと、それには原点である素資材の追求が重要ではないかと個人的には思う。まずは自ら実践していこうと考えている。

コメント
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