10月に入った。気温が高めの日が続いて、秋という季節は完全に遠のいてしまった感がある。そして、もう一つ、10月の風物詩だった会社訪問の解禁も今や昔。かつて1日には真新しい紺のスーツを着た学生が早朝から大手町界隈のビルの前に並んでいたが、そうした光景も見なくなってしまった。
今では大学生は3年時からインターンシップに参加し、会社説明会、筆記試験や何次もの面接と長期にわたって就職活動を強いられる。エントリーはデジタル化され、人気企業の説明会はすぐに定員が埋まる。そのため、募集が始まった瞬間にとりあえずエントリーし、後から参加するかを決めるのが就活の定石という。それでも、スマホを絶えずチェックしなければならないから、授業どころではないようだ。
企業は内定を出す学生が本当に自社にふさわしいかどうかを、AIを活用するなどあらゆる方法で見極めている。学生の側もマニュアルに沿って情報武装しているが、企業にとって人間的な魅力がこみ出ているかと言えば、そんなことはないだろう。逆に優秀だと判断して採用しても、数年で退職していくケースもある。つまり、企業にとっては、自社に相応しいと内定を出すことが人材確保の終点ではなくなったわけだ。
そこで、入社前から離職を防止するために様々な策を練る企業がある。米国のハワイで文化交流のイベントを開催し、内定者同士の親睦を深めてもらう。韓国へ2泊3日の視察旅行を実施し、百貨店や美術館を見て文化に触れる。内定者に専任のリクルーターが一人ずつ付いてキャリア形成などの不安を解消する。事前に必要なスキルを学べるイベントやプログラムを用意したり、会社が指定する資格取得や検定によって一時金まで支給する企業すらある。
賃金アップをしなければ、優秀な人材は採用できないという考えが定着する一方、終身雇用がなくなった中で、ジョブ型採用や雇用の流動化が叫ばれている。入社後に配属が希望通りになるかわからない「配属ガシャ」は、学生の間では敬遠する傾向が強い。そのため、2025年の新卒社員から最初の配属先を公募で決める制度を始めた企業もある。だが、自分の思い通りの配属先になるとは限らない。抜本的に離職を防止する策がない中で、企業側も採用や人事についても多面的かつドライに考えていかなければならないのは確かなようだ。
話をアパレル業界に置き換えて見てみよう。就職したい理由としては、今でも「ファッションが好きだから」とか、「服作りに興味がある」とかが多数だと思う。もちろん、デザイナーや企画職は一般大学ではなく、専門学校卒を対象とする。だから、大学生向けの募集職種はメーカーは営業職、小売業やチェーン店は店長やバイヤーなどの幹部候補がメーンだ。それは今でも大きくは変わっておらず、就職活動が前倒しにはなっているものの、会社説明会から採用試験、内定までの流れはいたって普通だと思う。
ただ、デフレの長期化で業界自体に勢いがない。ワールドは卸は縮小気味だし、ブランドはリストラ、再編の途上にある。人材が必要なのはEC部門くらいか。オンワード樫山も同様だろうし、WEGOを傘下に収めたことしか良い話題がない。三陽商会はリストラ効果で一時の危機を脱したが、イトキンは所有ビルの売却など立て直しの最中だ。国内は人口減少でマーケットの縮小は避けられず、インバウンド頼みでは心もとない。再び成長軌道に乗れるか不確定だ。応募する側も慎重になると思う。
小売業もセレクトショップは新業態、チェーン店は新店舗こそ出店するが、今後も売上げが右肩あがりで伸びる保証はない。国内は人口減少が続く中で、競争は激しい。海外進出を図るにしても、成長著しい東南アジアは気候的に重衣料を必要としないため、高単価の商品をいかに販売するかがカギになる。日本企画のアイテムで単純に攻めるだけなら中国だろうが、不動産バブルの崩壊で個人消費が冷え込んでいる。過剰な期待は禁物だ。語学に堪能な学生は海外事業の要員として期待されるだろうが、どこまで実採用に繋がるかはわからない。
業界就職にも意識変化はあるのか
ところで、繊研新聞が6月に実施した「ファッション系サークルや学生団体に所属する学生」を対象にしたアンケート「業界意識調査」によると、以下のような結果が出ている。
Q:将来はファッション業界で働きたいか
A:強くそう思う、候補の一つとしてそう思う 22人/42人
大学でファッション関連の活動をしている訳だから、ファッションが好きで、業界での仕事に関心、興味があるのは当然だろう。
Q:ファッション業界で興味がある職種は
A:マーケティング 20人/42人 企画 19人/同 バイヤー 13人/同 複数回答可
回答者の中には、一般大学卒では難しいデザイナーやパタンナー(8人)もいた。サークル活動とは言え、ものづくりへの関心を持てば当然のことだろう。他には生産管理や研究開発(8名)もいて、大学生でもキャリアや専門技術を積める職種への関心があるのは確かようだ。逆に販売員(7名)は大学生の間でも人気はイマイチ。自ら購入する服もネット販売や古着が主流になっているだろうから、接客を受けて購入する機会は少なくなっているはず。当然、販売職の魅力を理解できるまでに至らないようだ。
Q:業界への就職に関して不安や懸念点は
A:給与 労働条件 理想と現実のギャップ ノルマの厳しさ
海外就労の場合のキャリア形成 斜陽産業 不安定
政府は2025年卒の学生を対象にインターンの制度改正を実施。「5日間以上、かつ一定の基準を満たすインターン」で取得した学生情報を採用活動で使用できるようになった。これにより企業は正式に採用目的でのインターンを実施でき、学生も企業に勤め、業務を経験する長期インターンも可能だ。しかし、中にはブラックインターンとも呼ぶべき、悪質なものがある。業界体験した学生からは、「(売場では)他社のブランドを着ることが許されず、無理やり自社ブランドを購入させられた」との話を聞いたこともある。
全部が全部のアパレル企業がそうだとは思わないが、メーカーなら商品企画やマーケティング、卸営業の現場、小売りなら展示会での商談、仕入れなどにも参加できるようにすることが大事ではないか。でないと、インターンシップすら敬遠されてしまう。そのためには業界内でも早急なルール作りが必要になる。
若者の職業観は完全に変わった。仕事よりライフスタイルを充実させた方が多数派である。残業が多い、休暇が取れないなどを不安視するのは当然だろう。また、売場に立つときは最新のファッションに身を包んでいられるが、そうした服の代金は社販援助があっても自分で払わなければならない。貯金ができないどころか、ローンに追われるなどが現実の問題として心配されるのだろう。もちろん、個人に売上げ目標が課されると、仕事の楽しさを見出すことは難しいと感じるのかも。そうした懸念をいかに払拭するかである。
語学が堪能な学生なら、海外で働く目標もあるだろう。生産基地はグローバルサウスなどが多く、主な出店先はアジア、欧米になる。だから、生地調達や縫製に携われば、現地の工場などと直接やりとりするので、外国語が喋れるのはメリットだ。小売業でもインポート商品のセレクトでは、海外の展示会に仕入れに行くケースがある。知り合いのバイヤーは年のうち3分の1は海外出張している。アパレル商社やインポーターだとなおさら。業界自らが若者が強い意志を持って仕事に取り組むことで、チャンスが広がることをもっとアピールすべきだ。
ただ、学生も業績不振の企業は認識しており、それが業界全体の斜陽イメージを醸成している。売上げ、出店とも好調なファーストリテイリングでさえ、2025年春卒業の大学生の就職希望企業(キャリタス就活調べ)では100位以内にも入っていない。同社では新卒が店舗業務からスタートするところに仕事の単調さを感じるのかもしれない。また、店舗で数年キャリアを積んでも転職ではつぶしが効かないと懐疑的にもなる。グローバル企業はどこも同じだが、海外で生産し事業展開も行うと、国際情勢が緊迫する中で地政学的リスク、為替変動の影響は避けられない。商品単価が低いと、なおさら影響が大きいとの不安がよぎるのも確かだ。
アンケートに答えた大学生の中には、服づくりしているものもいるだろうが、パターンや縫製の技術があるわけではない。また、糸や生地、製造卸、仕入れ、販売といった川上から川下までのフローについて詳しく知る学生はいないと思う。むしろ、川上に遡って研究することで、魅力がありやりがいが見つかるかもしれない。なぜなら、日本には原材料の調達から紡績、織布、仕上げ、製品化までを自社で行うところがあり、世界中のラグジュアリーブランドもデザイナーが個性的な服も、それらが作る糸や生地無しでは生まれないからだ。
川上には綿や毛の原材料から糸を紡ぐ「紡績」がある。工場では、原材料の汚れを取り除き、もつれた繊維をほぐして方向を整える。そして、薄く伸ばされた繊維の束に拠りをかけることで、糸が生まれる。完成した糸は織物工場で、アパレルやデザイナーが求める風合いに応じて生地に織り上げられる。生地産地は東日本では米沢や桐生、富士吉田など、東海では尾州や三河、近畿中国では泉州、湖東、西脇、丹後、三備など全国に広がる。東京にもブランド「ミナペルホネン」のプリントなどを手がける織物工場がある。各社とも機械化が進んでいるが、検品は人の目と手に頼らざるを得ない。そうした職人が高齢化で減っている。若手の人材が必要であり、学歴も関係ない。
さらにアパレル側のニーズを聞き取って製品化にフィードバックするマーケティング能力も求められる。テキスタイルコンバーター、いわゆる商品企画力を持った生地問屋の仕事だ。製品がコスト重視なのか、それとも質を求めるのか。最終品の内容に応じて、織り上げる生地も変わっていく。だが、川中のコスト圧力が激しくても、イエスマンで鵜呑みするだけでは仕事にならない。企画提案力に磨きをかけ、いかに妥協点を見出していくかが仕事の妙。これは値段が決まっている川下の小売りでは味わえない仕事の魅力になる。
日本の大学では先端の素材開発、デジタル技術を駆使した服作りや端布を出さないパターン設計、廃棄衣料のリサイクル研究はまだ緒についたばかり。そんな学問に興味があって該当する学部に進学できれば、違った角度からアパレルを見ることもできるし、将来的に専門的な仕事ができる。新卒では何も知らないのだから、自分がこうしてみよう、こうしたら変わるのではないか。いくらでもチャレンジしていいのだ。仕事なのだから。
大学のサークルや団体は、ファッションショーなどを実施するための企画や演出、モデルのキャスティング、音響照明などの活動が中心になると思う。学生だからそれはそれで仕方ないが、活動ではイベントのノウハウを身につける訳で、「糸へん」の仕事とはだいぶズレてしまう。イベントを企画したり、プロデュースしたりといった仕事をしたいのなら、就職先は広告代理店やイベント制作会社になる。ただ、イベント会社は中小零細企業ばかりだし、定期採用をしているわけではない。だから、そこは冷静になって考えた方がいいのかもしれない。
さらにスタイリストを目指したいとなれば、それもメディアの仕事だ。しかし、スタイリストはファッション誌を発行する出版社、CM制作を手掛ける広告代理店、芸能プロダクションなどから仕事が来るもので、フリーランスになる。いわゆる個人事業主だから、新人スタイリストとして就職できるわけではない。大学生がアパレル業界に就職する場合、職種は営業か、販売しかイメージできないだろう。逆にそんな仕事ならあまりやりたくないのではないか。雇う側も商品開発やマーケティング、ジョブ型採用などに間口を広げないと、ますます大学生は志望しなくなると思う。
現に「将来はファッション業界で働きたいか」という問いに、「強くそう思う」はわずか9.5%で、「候補の一つとしてそう思う」が42.9%という結果が出ている。残りは「分からない」(14.3%)、「どちらかといえばそう思わない」(21.4%)、「強くそう思わない」(11.9%)だった点を見ると、選択肢にはあげても特にやりたい仕事とは思っていないようだ。業界が仕事の価値や将来的な可能性を訴えるのはもちろん、多面的な仕事内容やキャリア醸成についても詳しく情報提供をしていく必要がある。
学生の側も、アパレルの仕事が川の流れに例えられる意味を考えるべきだ。知っているのは川下の店舗で見る完成型の服やブランドに過ぎない。だから、鮎のように川中、川上に遡上し、様々な業種、職種を研究してみるのも一手。それまで見ていなかったノウハウ、キャリアを身につけられるチャンスでもある。要は業界側もアパレルの奥深さ、仕事の魅力をいかに多面的に伝え、仕事を若者にどんどん任せていける懐の大きさを持てるか。社員採用と仕事のさせ方を根本から見直さないと、有能な人材は集まらないと言える。
今では大学生は3年時からインターンシップに参加し、会社説明会、筆記試験や何次もの面接と長期にわたって就職活動を強いられる。エントリーはデジタル化され、人気企業の説明会はすぐに定員が埋まる。そのため、募集が始まった瞬間にとりあえずエントリーし、後から参加するかを決めるのが就活の定石という。それでも、スマホを絶えずチェックしなければならないから、授業どころではないようだ。
企業は内定を出す学生が本当に自社にふさわしいかどうかを、AIを活用するなどあらゆる方法で見極めている。学生の側もマニュアルに沿って情報武装しているが、企業にとって人間的な魅力がこみ出ているかと言えば、そんなことはないだろう。逆に優秀だと判断して採用しても、数年で退職していくケースもある。つまり、企業にとっては、自社に相応しいと内定を出すことが人材確保の終点ではなくなったわけだ。
そこで、入社前から離職を防止するために様々な策を練る企業がある。米国のハワイで文化交流のイベントを開催し、内定者同士の親睦を深めてもらう。韓国へ2泊3日の視察旅行を実施し、百貨店や美術館を見て文化に触れる。内定者に専任のリクルーターが一人ずつ付いてキャリア形成などの不安を解消する。事前に必要なスキルを学べるイベントやプログラムを用意したり、会社が指定する資格取得や検定によって一時金まで支給する企業すらある。
賃金アップをしなければ、優秀な人材は採用できないという考えが定着する一方、終身雇用がなくなった中で、ジョブ型採用や雇用の流動化が叫ばれている。入社後に配属が希望通りになるかわからない「配属ガシャ」は、学生の間では敬遠する傾向が強い。そのため、2025年の新卒社員から最初の配属先を公募で決める制度を始めた企業もある。だが、自分の思い通りの配属先になるとは限らない。抜本的に離職を防止する策がない中で、企業側も採用や人事についても多面的かつドライに考えていかなければならないのは確かなようだ。
話をアパレル業界に置き換えて見てみよう。就職したい理由としては、今でも「ファッションが好きだから」とか、「服作りに興味がある」とかが多数だと思う。もちろん、デザイナーや企画職は一般大学ではなく、専門学校卒を対象とする。だから、大学生向けの募集職種はメーカーは営業職、小売業やチェーン店は店長やバイヤーなどの幹部候補がメーンだ。それは今でも大きくは変わっておらず、就職活動が前倒しにはなっているものの、会社説明会から採用試験、内定までの流れはいたって普通だと思う。
ただ、デフレの長期化で業界自体に勢いがない。ワールドは卸は縮小気味だし、ブランドはリストラ、再編の途上にある。人材が必要なのはEC部門くらいか。オンワード樫山も同様だろうし、WEGOを傘下に収めたことしか良い話題がない。三陽商会はリストラ効果で一時の危機を脱したが、イトキンは所有ビルの売却など立て直しの最中だ。国内は人口減少でマーケットの縮小は避けられず、インバウンド頼みでは心もとない。再び成長軌道に乗れるか不確定だ。応募する側も慎重になると思う。
小売業もセレクトショップは新業態、チェーン店は新店舗こそ出店するが、今後も売上げが右肩あがりで伸びる保証はない。国内は人口減少が続く中で、競争は激しい。海外進出を図るにしても、成長著しい東南アジアは気候的に重衣料を必要としないため、高単価の商品をいかに販売するかがカギになる。日本企画のアイテムで単純に攻めるだけなら中国だろうが、不動産バブルの崩壊で個人消費が冷え込んでいる。過剰な期待は禁物だ。語学に堪能な学生は海外事業の要員として期待されるだろうが、どこまで実採用に繋がるかはわからない。
業界就職にも意識変化はあるのか
ところで、繊研新聞が6月に実施した「ファッション系サークルや学生団体に所属する学生」を対象にしたアンケート「業界意識調査」によると、以下のような結果が出ている。
Q:将来はファッション業界で働きたいか
A:強くそう思う、候補の一つとしてそう思う 22人/42人
大学でファッション関連の活動をしている訳だから、ファッションが好きで、業界での仕事に関心、興味があるのは当然だろう。
Q:ファッション業界で興味がある職種は
A:マーケティング 20人/42人 企画 19人/同 バイヤー 13人/同 複数回答可
回答者の中には、一般大学卒では難しいデザイナーやパタンナー(8人)もいた。サークル活動とは言え、ものづくりへの関心を持てば当然のことだろう。他には生産管理や研究開発(8名)もいて、大学生でもキャリアや専門技術を積める職種への関心があるのは確かようだ。逆に販売員(7名)は大学生の間でも人気はイマイチ。自ら購入する服もネット販売や古着が主流になっているだろうから、接客を受けて購入する機会は少なくなっているはず。当然、販売職の魅力を理解できるまでに至らないようだ。
Q:業界への就職に関して不安や懸念点は
A:給与 労働条件 理想と現実のギャップ ノルマの厳しさ
海外就労の場合のキャリア形成 斜陽産業 不安定
政府は2025年卒の学生を対象にインターンの制度改正を実施。「5日間以上、かつ一定の基準を満たすインターン」で取得した学生情報を採用活動で使用できるようになった。これにより企業は正式に採用目的でのインターンを実施でき、学生も企業に勤め、業務を経験する長期インターンも可能だ。しかし、中にはブラックインターンとも呼ぶべき、悪質なものがある。業界体験した学生からは、「(売場では)他社のブランドを着ることが許されず、無理やり自社ブランドを購入させられた」との話を聞いたこともある。
全部が全部のアパレル企業がそうだとは思わないが、メーカーなら商品企画やマーケティング、卸営業の現場、小売りなら展示会での商談、仕入れなどにも参加できるようにすることが大事ではないか。でないと、インターンシップすら敬遠されてしまう。そのためには業界内でも早急なルール作りが必要になる。
若者の職業観は完全に変わった。仕事よりライフスタイルを充実させた方が多数派である。残業が多い、休暇が取れないなどを不安視するのは当然だろう。また、売場に立つときは最新のファッションに身を包んでいられるが、そうした服の代金は社販援助があっても自分で払わなければならない。貯金ができないどころか、ローンに追われるなどが現実の問題として心配されるのだろう。もちろん、個人に売上げ目標が課されると、仕事の楽しさを見出すことは難しいと感じるのかも。そうした懸念をいかに払拭するかである。
語学が堪能な学生なら、海外で働く目標もあるだろう。生産基地はグローバルサウスなどが多く、主な出店先はアジア、欧米になる。だから、生地調達や縫製に携われば、現地の工場などと直接やりとりするので、外国語が喋れるのはメリットだ。小売業でもインポート商品のセレクトでは、海外の展示会に仕入れに行くケースがある。知り合いのバイヤーは年のうち3分の1は海外出張している。アパレル商社やインポーターだとなおさら。業界自らが若者が強い意志を持って仕事に取り組むことで、チャンスが広がることをもっとアピールすべきだ。
ただ、学生も業績不振の企業は認識しており、それが業界全体の斜陽イメージを醸成している。売上げ、出店とも好調なファーストリテイリングでさえ、2025年春卒業の大学生の就職希望企業(キャリタス就活調べ)では100位以内にも入っていない。同社では新卒が店舗業務からスタートするところに仕事の単調さを感じるのかもしれない。また、店舗で数年キャリアを積んでも転職ではつぶしが効かないと懐疑的にもなる。グローバル企業はどこも同じだが、海外で生産し事業展開も行うと、国際情勢が緊迫する中で地政学的リスク、為替変動の影響は避けられない。商品単価が低いと、なおさら影響が大きいとの不安がよぎるのも確かだ。
アンケートに答えた大学生の中には、服づくりしているものもいるだろうが、パターンや縫製の技術があるわけではない。また、糸や生地、製造卸、仕入れ、販売といった川上から川下までのフローについて詳しく知る学生はいないと思う。むしろ、川上に遡って研究することで、魅力がありやりがいが見つかるかもしれない。なぜなら、日本には原材料の調達から紡績、織布、仕上げ、製品化までを自社で行うところがあり、世界中のラグジュアリーブランドもデザイナーが個性的な服も、それらが作る糸や生地無しでは生まれないからだ。
川上には綿や毛の原材料から糸を紡ぐ「紡績」がある。工場では、原材料の汚れを取り除き、もつれた繊維をほぐして方向を整える。そして、薄く伸ばされた繊維の束に拠りをかけることで、糸が生まれる。完成した糸は織物工場で、アパレルやデザイナーが求める風合いに応じて生地に織り上げられる。生地産地は東日本では米沢や桐生、富士吉田など、東海では尾州や三河、近畿中国では泉州、湖東、西脇、丹後、三備など全国に広がる。東京にもブランド「ミナペルホネン」のプリントなどを手がける織物工場がある。各社とも機械化が進んでいるが、検品は人の目と手に頼らざるを得ない。そうした職人が高齢化で減っている。若手の人材が必要であり、学歴も関係ない。
さらにアパレル側のニーズを聞き取って製品化にフィードバックするマーケティング能力も求められる。テキスタイルコンバーター、いわゆる商品企画力を持った生地問屋の仕事だ。製品がコスト重視なのか、それとも質を求めるのか。最終品の内容に応じて、織り上げる生地も変わっていく。だが、川中のコスト圧力が激しくても、イエスマンで鵜呑みするだけでは仕事にならない。企画提案力に磨きをかけ、いかに妥協点を見出していくかが仕事の妙。これは値段が決まっている川下の小売りでは味わえない仕事の魅力になる。
日本の大学では先端の素材開発、デジタル技術を駆使した服作りや端布を出さないパターン設計、廃棄衣料のリサイクル研究はまだ緒についたばかり。そんな学問に興味があって該当する学部に進学できれば、違った角度からアパレルを見ることもできるし、将来的に専門的な仕事ができる。新卒では何も知らないのだから、自分がこうしてみよう、こうしたら変わるのではないか。いくらでもチャレンジしていいのだ。仕事なのだから。
大学のサークルや団体は、ファッションショーなどを実施するための企画や演出、モデルのキャスティング、音響照明などの活動が中心になると思う。学生だからそれはそれで仕方ないが、活動ではイベントのノウハウを身につける訳で、「糸へん」の仕事とはだいぶズレてしまう。イベントを企画したり、プロデュースしたりといった仕事をしたいのなら、就職先は広告代理店やイベント制作会社になる。ただ、イベント会社は中小零細企業ばかりだし、定期採用をしているわけではない。だから、そこは冷静になって考えた方がいいのかもしれない。
さらにスタイリストを目指したいとなれば、それもメディアの仕事だ。しかし、スタイリストはファッション誌を発行する出版社、CM制作を手掛ける広告代理店、芸能プロダクションなどから仕事が来るもので、フリーランスになる。いわゆる個人事業主だから、新人スタイリストとして就職できるわけではない。大学生がアパレル業界に就職する場合、職種は営業か、販売しかイメージできないだろう。逆にそんな仕事ならあまりやりたくないのではないか。雇う側も商品開発やマーケティング、ジョブ型採用などに間口を広げないと、ますます大学生は志望しなくなると思う。
現に「将来はファッション業界で働きたいか」という問いに、「強くそう思う」はわずか9.5%で、「候補の一つとしてそう思う」が42.9%という結果が出ている。残りは「分からない」(14.3%)、「どちらかといえばそう思わない」(21.4%)、「強くそう思わない」(11.9%)だった点を見ると、選択肢にはあげても特にやりたい仕事とは思っていないようだ。業界が仕事の価値や将来的な可能性を訴えるのはもちろん、多面的な仕事内容やキャリア醸成についても詳しく情報提供をしていく必要がある。
学生の側も、アパレルの仕事が川の流れに例えられる意味を考えるべきだ。知っているのは川下の店舗で見る完成型の服やブランドに過ぎない。だから、鮎のように川中、川上に遡上し、様々な業種、職種を研究してみるのも一手。それまで見ていなかったノウハウ、キャリアを身につけられるチャンスでもある。要は業界側もアパレルの奥深さ、仕事の魅力をいかに多面的に伝え、仕事を若者にどんどん任せていける懐の大きさを持てるか。社員採用と仕事のさせ方を根本から見直さないと、有能な人材は集まらないと言える。