HAKATA PARIS NEWYORK

いまのファッションを斬りまくる辛口コラム

テレコ投入の勝算は。

2020-05-06 04:15:55 | Weblog
 4月はコロナウイルス禍で巣ごもり消費が増え、アパレルではECの比率の高い企業が全体売上げの減少をカバーする傾向だった。

 若年層に支持されているセレクトショップのユナイテッドアローズは、ZOZOTOWNから自社ECに移行しても顧客がついているようで、コロナウイルス禍による売上げ減少をカバーしたようだ。既存店の売上げは40%以上減ったが、ECが25%以上伸びたため、全体の売上げ減少は24%程度に止まっている。

 百貨店系アパレルのオンワードや三陽商会もコロナウイルス禍ではEC売上げが伸び、全体の売上げ減少をそれぞれ30%程度(3月)と、44%に抑えている。だが、両社は主販路である百貨店売上げが激減し、その回復策を打ち出せない中、今回のような有事においてEC販売が健闘したことで、主販路に位置付ける手応えをつかんだのではないかと思われる。

 一方、ZOZOTOWNは2020年3月期決算で、商品取扱高が前期比6.6%増の3450億8500万円だったと発表した。消費増税や天候不順、暖冬の影響で下期の販売が低調に推移し、商品取扱高は予算対比で94%と目標を下回った。実店舗をもつアパレルが軒並み業績を下降させているが、ECを主力する同社に期待は禁物だろう。アパレルからの在庫を預かり、フルフィルメントで発送処理する千葉や茨城の物流センターが「三密」で通常通りの稼働をしていない。人海戦術では自ずと限界があり、コロナウイルス禍で一人勝ちするとは思えない。もちろん、終息後に起きるであろう消費変化も影響する。今期の業績が注目されるところだ。


売上げ減で秋物が作れない

 もっとも、問題はコロナ禍の影響がどこまで続くかである。国は5月4日、6日を期限としていた緊急事態宣言を31日まで延長すると発表した。4月7日の宣言発出から5月4日で約1カ月を経過したが、依然として感染者が出続けており、医療現場の逼迫を見れば已むを得ない措置だ。しかし、企業に対する休業要請や市民への外出自粛も継続される。国が打ち出す緊急経済対策だけでは経済損失には歯止めがかからず、多くの国民の消費マインドは冷え込み、家計支出を控えると見られる。

 アパレル業界にとってもいくらECが好調とは言え、春物のすべてが消化できるとはいかない。そこで余った在庫をどう捌くか。また、資金がショートする場合、秋冬物製造の原資をいかに捻出するか、が問われ始めている。緊急事態宣言が5月31日で解除されたにしても、店頭への客足が通常に戻る保証はない。暫定的に、春物在庫は夏物と入れ替える形でECルートに回してできる限り処分し、残った分はバッタ屋ルートやオフプライスストアに流して現金化せざるを得ないと言われている。

 メーカーが何とか資金繰りがついたところで、小売り側の売上げが激減していることを考えると、今度は秋冬物が例年通りに受注される公算は低い。大手アパレルでは展示会をWebに切り替えるところもあるが、小売り側が発注に二の足を踏んでしまうと、受注が取れず製造には移れない。だが、秋冬シーズンに入った時、店頭やECの品揃えをスカスカにするわけにもいかないだろう。アパレルの悲しい性か、売れなくても商品だけは置きたい。おそらく、多くがジレンマに苛まれるのではないか。

 そこで、試みようとされているのが、春物在庫を秋物とミックスして何とかMDの体裁を整える“奥の手”だ。業界では過剰生産が慢性的なため、前シーズンの持ち越し在庫を新品として、または一部修正を加えて次シーズンに投入されることがある。以前にこのコラムでも書いたが、洋服の青山などの紳士服量販チェーンでは、前シーズンの在庫に新商品を足して品揃えするのは、恒常的に行われているのだ。


春秋両シーズン企画に挑む

 こうした手法はこれまで面と向かってオープンにはされてこなかったが、この秋は苦肉の策として、春物ミキシングを行わざるを得なくなると言われている。というか、筆者はこのコラムでも何度も指摘してきたが、毎年のように春物と秋物が苦戦を強いられているのだから、この際、「肌寒い春」「残暑の秋」に向けた商品を揃えるべきだと思う。そのためには「春秋両シーズンに通用する商品を統一して企画・調達しては」という考え。つまり、春が寒ければ秋物、秋が暑ければ春物と、それぞれの在庫をテレコで当てがえるようにするのだ。

 12月から冬物のセールが始まり、1月に入ると店頭には春物が並ぶ。だが、ニット&カットソーは細番手、布帛は打ち込みが弱く、どちらも軽めで薄い。特に低価格品はコストを下げていることから、薄っぺらで質感に乏しい。ダウンやコートのインナーに着ればいいからという考え方なのだろうが、気温が低く天候不順が続くと必ず苦戦を強いられ、売上げは低迷する。逆に秋物は薄手でもウォーム素材のウールや合繊ものを8月下旬から並べたところで、台風などによる高温、多湿が続くとこちらも全く売れない。

 だから、カットソー(10〜12オンス、裏毛のトレーナー地も)、ニットではコットンやそれをベースにしてウール&麻混のミドルやローゲージ。布帛は中厚コットンで、ピケや起毛したドビークロス、ベロア、コーティングした厚手のデニム、コットンまたは麻を混ぜたギャバ等々。この際、春向け素材は薄手で清涼、秋向け素材は厚手でウォームという固定観念は捨てもいいと思う。むしろ、春秋両シーズンに通用させる統一の素材企画にしてはどうか。好みもあるので無地を基調として、織り地や編みたてで差別化すれば、外れが抑えられるのではないか。

 アイテムはTシャツやパーカー、セーター(ニットジャケット)、布帛はシャツ、テーラージャケットやブルゾン、コート。レディスではレイヤードを想定し、アウターにもなる羽織ものや前開きでジップアップかボタン留めのカバーオールを組み込めば、だいたいラインナップする。

 肝心なのは色。オフホワイト、生成り、ベージュ、ピンク、オレンジ、ネイビー、ワインレッド、ブラウン、ダークグリーン、グレイメランジュ(霜降り) 、ブラック。両シーズンで全色揃えるか、絞り込むか。秋に投入した生成りやオレンジは売れなくても、春には再度消化に向けて投入できるからだ。2シーズン兼用で少量多色を準備し、「買い逃した方は次シーズンまでお待ちを」とすればいい。

 毎年のように異常気象が続いている。地球環境の変化を見れば、春が低温、秋が高温という状態はもう変わらないのではないかと思う。企業の四半期レポートで語られる「気温が低く(高く)て、春物(秋物)が計画通りに消化できなかった」という同じ反省をいつまで言い続けるつもりなのか。いい加減、気づけよである。

 だから、春秋どちらのシーズンにも向くというか、気候不順で気温が逆転しても対応できる統一素材&アイテムを企画した方が対処しやすく、在庫が捌ける確率は高くなると思う。昨今はお客さんも1シーズンで終了するようなトレンドデザインは避け、着回しが利くアイテムをできる限り長く着る傾向になっている。これはコロナ禍による巣ごもり消費とは関係無しに、終息しても続いていくと思う。

 相変わらずネットでの二次流通は盛んだし、オークションでも有名ブランドはデザインに関係なく買い手がついている。春秋両シーズン統一企画なら多めに生産しても消化しやすいし、在庫が余ったにしてもオフプライスストアに流せば、なおさら売れる可能性は高いと思う。素材はコットンベースで着る人のすべてにフィットし、ベーシックアイテムでミニマルデザインならトレンド左右されず着回しが利く。無印良品のアップグレードという感覚でいけば、二次流通でも確実で捌けるのではないだろうか。

 こと消費の変わり目には、いつもエポックがあった。かつて百貨店の経営者は郊外SCが登場した時、「うちとは客層が違うから、影響ない」と豪語していた。だが、違っても利用するお客が増えて、結果的に食われていった。ECも「試着できないから、ファッションは売れない」という見方もあったが、ここまで定着した。まあ、全取引の半分程度が限界だろうが、それでも凄いことだ。

 コロナウイルス禍が去った後には、ウイルスと共存しなければならない消費者は賢くなり、良いものを長く着る傾向にはなるはずだ。まあ、変わらない部分と変わる部分がより先鋭化すると思う。ならば、大量生産、過剰在庫、低価格販売も潮目にしてもいいわけで、それらと決別する勇気も必要だ。お客の変化を先取りするのがアパレルなのだから、終息後の価値観を転換させていくべく、思いきった企画に乗り出すのもありかと思う。
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする