HAKATA PARIS NEWYORK

いまのファッションを斬りまくる辛口コラム

OMOに動くセレクト。

2020-05-20 07:16:03 | Weblog
 1976年、米国ロサンゼルス・メルローズアベニュー発祥のセレクトショップ「ロンハーマン」。日本で事業を展開するサザビーリーグは、5月28日からこのロンハーマンでオンラインショッピングをスタートさせる。

 西海岸のビーチハウスをイメージし、カジュアルリラックスにハリウッドセレブ御用達という格式を加えた店が日本初上陸をはたしたのは2009年。セレクトブームがやや落ち着いた時期だっただけに、あのコンフォートでライトなテイストは、日本では新鮮だったと思う。




 以来10年以上が経過し、店舗数は現在12店。サーフボードや子供向けの玩具などを揃え、カフェまで併設した「RHCロンハーマン」も登場し、総数は22店まで拡大した。だが、本家米国ではすでに陳腐化してしまったのか。昨年にはサザビーリーグが米国のロン・ハーマン社から事業を譲り受けている。その日本も少子高齢でファッション市場は縮小傾向だ。ブランドアメカジ主体のセレクトショップがこれ以上伸びる余地はないと言っていいだろう。

 一方で、サザビーリーグとすれば、ロンハーマンの精神、セレクトショップのポジションを守りながら仕入れ主体のMDを貫く上で、荒利益を稼いでいくには販売数量を増やさなければならない。それらを既存の店舗数で按分して捌くにも限界がある。さらに利益を出すには、オリジナルを販売することが必要だ。オンラインショッピングでは店舗在庫を引き当てるかどうかはわからないが、これらの在庫を確実に消化するには新たな販路が求められる。それがオンラインショッピング、いわゆるECに参入した理由と考えられる。

 ロンハーマンの根岸由香里事業部長兼ウィメンズディレクターは、WWDのインタビューでECを始める理由について以下のように語っている。

 「昨年10周年を迎え、この先の10年、そしてもっと先の未来を考えたときに、私たちらしく進化していくために必要だと考えた。どんどんテクノロジーが進化していく中では、実際に体験したい、触れたいという店でしか得られない“特別な体験”と、“利便性”を今まで以上に上手に使い分ける時代がやってくるだろうと話をしていた

 「この出来事によってさらに大きな視野を持つようになった。この先の未来に店を進化させながら守るためには、私たち自身が大切なものを崩さずしなやかに進化する必要があると感じた。いい進化とは大切な人やことを守り、強くしていくことだと思う」(wwdjapan.com 2020/05/11付け記事より抜粋)

 やや遠回しな言い方にはなっているが、「今の時代、セレクトショップと言えど、技術の進化を前提にすれば、お客にとって利便性のある売り方が出来なくはない。店売り以外のECまで視野に入れるのは当然の選択」と、解釈できるだろうか。


在庫を確実に消化し適正利益を出す

 この10年で、ロンハーマンのブランドバリュは日本でほぼ浸透したと思う。ただ、収益の伸長となると、別問題だ。既存店は22店舗もあり、これらを維持、存続させていくには、家賃、仕入れ代金、人件費、販促費などのランニングコストがかかる。それらを店舗売上げで稼ぎなら、余りある利益を出せているとは思えない。おそらく、サザビーリーグ内の優良事業からの持ち出しもあるのではないか。



 雑誌でのプロモーションが奏効し、全国にファン客が拡大したとは言え、どこまでの顧客がショップが提案するライフスタイルを踏襲しているのか。多くはラインナップされているブランドの中から、気に入ったアイテムが見つかれば購入するという「単品買い」ではないか。それはそれで仕方ない。だが、商品の価格は高いし、都市部中心の店舗展開だから、地方に在住する顧客の購入頻度は限られてしまう。

 かといって、ショップロイヤルティの維持、加えてディレクターが全店をくまなく回ってコントロールするには、これ以上店舗が増えると難しくなる。デザイナーのブランドにはエクスクルーシブ(独占販売権)もあるし、仕入れには最低ロットが課されているだろう。また、RHCロンハーマンにはサーフボードなどマニア向けの商品もあり、回転率は鈍くなる。

 そうした中で、ショップトータルで仕入れた在庫などを確実に消化しながら、店舗体制を維持していくには適正な利益を確保しなければならない。ならば、全国どこからでもロンハーマンのセレクションが、またそれが単品買いであっても、購入できるECに舵を切るのは、当然の判断と言える。

 サザビーリーグには、苦い経験がある。同社が日本で運営してきた「アメリカンラグシー」が2018年に事業を終了し、20年の歴史に幕を閉じた。本国では1店舗のみの運営だったが、日本では全盛期の2011年には15店舗まで増えた。 アメリカンラグシーのショップコンセプトは、「真性のヴィンテージクローズをセレクトする」だったが、店舗が増えるに従ってそれらしく見せたオリジナルも増えていった。

 オリジナル商品を生産する場合、ある程度のロットが必要になってくる。生産数が少ないと製造コストが嵩んで、販売価格が高騰するからだ。それでも有り余りヴィンテージ性が出せて、ショップが価格応分に足る販売力を持てば言うことはない。しかし、1店舗に生産した商品在庫を積めば、確実にヴィンテージ性は薄れてしまう。結局、生産ロット分を消化するには展開エリアを拡大し、店数を増やして商品を分散しなければならなくなる。

 そうした商品展開が仇になったかどうかはわからないが、2016年には新ディレクター2人が招聘されてブランド力の再強化に注力したものの、浮上することはできなかった。ヴィンテージ&オリジナリティと、在庫消化&多店舗化という二律相反の課題を抱えた運営スタイルが限界点に達していたのは、どうやら間違いない。


セレクトこそ、店舗とECの融合

 ロンハーマンはセレクトショップというポジションを守り、あくまでブランド仕入れでMDを維持するなら、適性利益を出すためにも在庫を確実に消化しなければならない。さらに荒利益を稼ぐにはオリジナルの投入も必要だから、アメリカンラグシーでの経験を生かすとすれば、ローコストで販売できる販路≒無店舗≒ECが必要との判断だったと思う。

 結果として店舗での販売にECによるセールスを加えて、スマートフォンなどで気軽に商品が探せるOMO(Online Merges with Offline)は避けて通れないということだ。ロンハーマンのブランドは揺るがないとの前提でショップ体制を維持していくには、商品面ではブランド仕入れとオリジナルをシンクロさせ、販売面でECを整備強化することで、収益拡大を図ると見て間違いないだろう。

 日本で産声を上げたユナイテッドアローズも、先日発表した新中期経営計画では展開する3つのマーケットのうち、「トレンド」「ミッドトレンド」の2つで「ネット通販」の成長拡大に言及した。新規事業でも既存のアパレル事業を主体に中国市場への本格進出を狙いながら全事業の「越境EC」を開設し、出店を開始するタイミングで順次「ローカルEC」に切り替えていくということだ。
 
 また、 OMOの推進では、商品取り寄せや購入決済などでのオンラインとオフラインを融合したさまざまな購買パターンを実現させる。スマホアプリを刷新して、モバイル購買体験を活性化させ、店舗・EC相互のデータを活用した店舗接客アプリの導入なども予定しているという。販売技術の進化とはそこまでを指すのだろう。

 対して、ようやくECも販売手段と位置付けたロンハーマン。後発のECだけに他社のいろんな利点を取り入れながら、自社なりのOMOに軸足を移していくと思う。スマホのショールーミングで注文した商品を店舗で試着したり、受け取ったりできるC&C(クリック&コレクト)も導入すれば、より優位に立てるのは間違いない。将来的にはアジアへの進出や越境ECもあるだろう。

 その分、実店舗はロイヤルティの維持と広告塔的な立ち位置になると思われるが、根岸ディレクターが語る「便利で快適で、機械的じゃない温度を感じられること――つくっている、関わっている人の情熱や思いが伝わるようなECにしたい」が果たしてどんなものか。

 すでにECでは「G-SHOCK」やWTAPSのデザイナーらが手がける「DESCENDANT」の別注品が先行発売されるという。別注品と言っても、ベースの商品をダブルネームで仕掛けたりするのは、本当にロンハーマンらしさなのか、ビームスなんかとどこが違うのかって一抹の不安もよぎる。サザビーグループが事業を受け継いだので、すべて日本流のやり方でできるわけだが、売り上げ効率を追求するあまり、ロンハーマン本来の西海岸テイストが失われると、名前だけのセレクトショップに堕してしまう。これでは本末転倒だろう。

 「関わっている人の情熱や思いが伝わるようなEC」で、実店舗にはない魅力的な商品や利便性まで揃えてくれるのか。事務所近くの福岡店と完成後のECラインナップを見比べながら、今後のロンハーマンを見ていきたい。

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