HAKATA PARIS NEWYORK

いまのファッションを斬りまくる辛口コラム

売って出る覚悟。

2020-05-13 04:17:34 | Weblog
 コロナ禍によりアパレル企業の倒産が相次いでいる。4月1日から5月1日までの一月でアパレル関連は10社に及んだ。それを受けてだろうか、ここ数日のメディア報道を見ても、「春商戦壊滅のアパレル業界 残るブランド、消えるブランド」「コロナ倒産はパチンコ店やアパレルにも。広い業界で破綻が相次ぐ」「アパレル業界は「コロナ禍」で、いよいよトドメを刺されるかもしれない」「新型コロナの影響 ファッション・高級品小売には最悪な時期に」等々、業界の先行きを憂える見出しが躍っている。

 ただ、アパレル業界の疲弊は、今に始まったことではない。バブル景気が崩壊した1991年以降、中間層の没落で高級品が売れず、多くのメーカーが低価格品にシフトした。それにより、競争が激化してデフレ禍がまん延しコスト削減圧力を増して、業界を蝕んでいった。低価格品製造のためにコストの安いアジア生産を進めた結果、ロットが増大して製造や輸送に時間を要してしまった。アパレルはリードタイムが長くなるほど、お客の嗜好を外すリスクも増える。トレンドデザインを追いかけても、売れなければ在庫を抱えてしまうのだ。

 また、百貨店が荒利益を確保したい一方で、メーカーは値引きと残品のロスを卸し価格に上乗せなければ利益を出せなくなった。当然、その分の原価を切り下げざるを得ず、商品価値の低下を招いた。クイックレスポンスだの、POS管理だのを声高に叫んだところで、OEMやODMで企画から外部に丸投げすれば、でき上がるのは右に倣えの売れ筋ばかり。目の肥えた顧客からすれば、百貨店のハコに並ぶ商品は陳腐で安っぽい。離れていくのは当然だ。

 活路を見いだすとされたECも、すでに成熟の域に達しようとしている。コロナ禍で4月は一時的に需要が伸びたものの、ユナイテッドアローズは店舗にECを合わせた売上げは62.4%も減少。ユニクロも店舗とECの合計売上げが対前年同月比で56.5%減となった。アダストリアはECの売上が約20%増加したが、既存店の売上高は前年同月比で67.8%減。Amazonや楽天、ZOZOTOWNに出店する中小他社も似たような状況ではないか。

 これまで大半のアパレルがECへの注力や強化を掲げてきた。コロナ禍による巣ごもり消費は絶好の試金石になったわけだが、店舗売上げを補完することはできても、主販路にするのは容易ではない。多くの企業がECに参入すれば、差別化は不可欠になる。舞台はC&C(クリック&コレクト)に移行しており、試着や返品などのサービスを充実しなければ、賢くなったお客はついて来ない。

 さらに物流コストの上昇で、送料負担が重みになれば、増え続けていくとは考えにくい。お客は商品を購入する際に「送料を払うか」「店まで買いに行くか」。商品価値と照らして、どちらが得かを両天秤にかける。一方、アパレル側は送料を負担すれば、コスト増になってしまう。EC専用のブランドと言っても、ローコスト生産で衝動買いを誘う意図しかないのなら、見透かされてしまうだろう。やはりしっかり商品を企画した上で、ECは実店舗との一体運用、オムニチャンネル戦略の中での活用することが重要になる。コロナ禍が終息した後、お客の外出が正常に戻れば、それがますます鮮明になっていくのではないかと思う。

 アパレルにとっては、今後も大量生産によるコスト削減の低価格帯で、マスマーケット攻略を続けるのか。原価率アップによる中高価格帯、適量生産、ミニマム市場の身の丈消費で、手堅くいくか。それともカスタマイズなど全く新しいビジネスモデルに活路を見出すか。どれにしても、これまでのやり方では生き残っていきづらくなると思われる。


稼ぐ手段を広げることも視野に

 コロナ禍は物販や接客サービス業に、「お客さんが来てくれなければ、商売そのものがやっていけない」という「当たり前のこと」をまざまざと見せつけた。飲食店の中には日銭を稼ぐためにテイクアウトに乗り出したところもある。待ちの姿勢だけでなく、お客にアプローチする。それが稼ぐ間口を広げることになる。ただ、家賃負担にはほど遠いので、休業要請に応じたところには、自治体からの「家賃支援」や「協力金」の支給がある。



 筆者が生活する福岡市では5月8日、「緊急事態宣言に伴う事業継続に向けた店舗への家賃支援(新型コロナウイルス感染症対策)」が更新された。この取決めでは、「福岡県から出された協力要請等を受け休業した施設又は時間短縮営業した食事提供施設の賃料の8割」を支給するとある。但し、①令和2年4月7日〜5月6日までの分は上限50万円、②令和2年5月7日〜31日までの分は上限30万円となる。(https://www.city.fukuoka.lg.jp/keizai/kokusaikeizai/business/cotenpo.html)

 対象施設は遊興施設、運動施設、劇場、商業施設などが入り、営業時間を短縮した飲食店も家賃支援の対象になる。(https://www.pref.fukuoka.lg.jp/uploaded/attachment/110211.pdf)①については、定休日を含む15日以上休業した施設又は時間短縮営業した食事提供施設。県指定の「基本的に休止を要請する施設」「基本的には休止を要請しない施設のうち食事提供施設(営業時間の短縮については、朝5時から夜8時までの間の営業を要請し、酒類の提供は夜7時までとすることを要請)」。②については、①と対象施設は同じだが、詳細は現在検討中とのことだ。




 アパレル関係の店舗については、「福岡県の新型コロナウイルス感染症一般相談窓口」によると、「基本的に休止を要請する施設」には、「⑴特措法による協力要請を行う施設」があり、これには「百貨店やショッピングセンターなど、床面積の合計が1000㎡を超えるものに限る」とある。つまり、これらの商業施設が直接の家賃支援の対象になる。だから、テナント出店していても個別には家賃支援はなく、デベロッパー側の家賃減額などを待つしかない。

 また、「⑵特措法によらない協力依頼を行う施設」には、床面積の合計が1000㎡以下の商業施設と規定されている。これには300坪以下、30坪以上の大型、中型店舗が該当する。これらも福岡市の家賃支援の対象となる。但し書きには、「床面積の合計が100㎡以下については、適切な感染防止対策を施した上で営業」となっているが、福岡市に確認すると「福岡県が指定した基本的に休止を要請する施設」は、すべて家賃支援の対象となるとの解答を得た。小規模のアパレル小売業にとってはありがたいことだ。

 ただ、自治体頼みだけでは限界があるだろう。今さら言ってもしょうがないが、1カ月先の家賃が払えない商売がはたして健全と言えるのか、である。コロナ禍を契機として自店の近い将来を見渡して、少しでも稼げる術をつけること。店舗やEC以外にも販売チャンネルを持つしかない。それには「外商」「外販」も視野に入れるべきではないか。今後は店舗でお客を待っていても「それほど多くは来ない」「買ってくれる保証もない」ことを前提に小売り側から「売りに出ていく」ということである。


モバイルブティックという業態、販売方法



 だいぶ前、大手アパレルが展開するブランドショップの店長から聞いた話がある。その方は都外に住んで頻繁に買い物に来れない顧客に対し、「外販」に出かけていたという。もちろん、会社の了解も得てのことだ。店舗を夜の8時に閉めると会社のトラックを借りて商品を積み込み、渋滞のない道路を走る。 一言で言えば、「モバイルブティック」とでも言おうか。出張販売のアパレル版である。

 顧客には友人を誘ってもらい、顧客宅がコレクションのバックステージに。スタッフも修学旅行気分でついてきてくれ、夜中まで思い思いのスタイリングを提案するので、テンションが上がって眠気もすっ飛んだとか。それで店売りとは別にそこそこの売上げをオンしていたというから、店長としての数字への執念と、ブランドの良さを顧客に伝えたい気持ちがあれば、そこまでの行動に駆り立てるということだ。

 このモバイルブティックはネット通販などない頃の話だが、平成に入って聞いたのでそんなに昔のことではない。今はPCでクレジット支払いもできるし、スマホ決済も普及しつつある。販売を取り巻くIT整備が増しているからこそ、外販のような人間臭い売り方が逆に顧客との接点を増やし、プラスαの売上げをもたらすのではないか。また、コロナ禍後には、家賃負担を嫌って、こちらにシフトするところが出て来ることも想像される。

 店を昼前に開けてお客を待ち、夜の8時を回ったらレジを締め、終礼をして1日が終わる。楽天やAmazonなどにも出店し、ECでも販売する。しかし、ここまでは多くがやっている当たり前のこと。それでも、大して売上げが積めない中でのコロナ禍である。いつ何時、お客が来てくれなくなるかもしれないから、常に売りに出かける覚悟をもっておく必要があるのだ。飲食業界では多くの店舗が家賃負担の重圧を感じ、コロナ禍後には固定費の削減を念頭に移動販売に舵を切るところも出て来るのではないかと思う。

 アパレル業界も遠からじだろう。幸い、アパレルには食中毒の心配はない。これまではECばかりが注目されてきたが、お客側にお店が売りに行くことも、リスクヘッジの一つになるのは間違いない。コロナ禍後にお客の購買に対する意識変化はあるのか。それに小売り側はどう対応するのか。有事に備えて多面的な販売方法の確立がますます重要になっている。

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