HAKATA PARIS NEWYORK

いまのファッションを斬りまくる辛口コラム

衣デュースの薦め。

2020-08-26 06:34:44 | Weblog
 日本国内だけで年間28億着もの衣料品が流通し、約半分の14億着が売れ残って廃棄される問題。地球環境を保全し、SDGs(持続可能な開発目標)に取り組む社会を目指す上で、アパレル業界が取り組むべき最重要課題でもある。

 業界でも少しずつだが、活動が始まっている。その一つが古着をリメイクして新たな衣服に生まれ変わらせるものだ。と言っても、洋裁が得意なおば様の趣味やファッション業界に進みたい若者の手習いではない。プロのデザイナーがリ・デザインして付加価値を付けるアップサイクルで、「2.5次流通」を作り出すビジネスである。

 仕組みはこうだ。完全に不要となった衣料品を用いて、新たな服に作り替え、販売まで行う。もちろん、服を構成する素材自体が古着由来のため、生地を反買いしたような絶対的な用尺はない。限られた素材を活用して、いかに優れたクリエーションを生み出すか。そこにプロのデザイナーの英知と技が生かされる。

 また、リメイクで製造される商品は、二つと同じものがない1点もの。制作段階では一般サンプルのように何度も試作を繰り返すことはできない。素材を無駄にしないためにも完成形を想定した根気のいる作業になる。デザイナーにとっては集中力と粘り強さが必要とされるが、より社会性の高いクリエーションを作り上げる意味で、非常に誇らしい仕事とも言える。

 それを行うには、研ぎ澄まされたセンスと高度な縫製技術が求められる。定石通りであれば、先に生地や副資材(生地やボタンなども含め)の元となる古着を入手しておくことになる。それらを見ながら、頭の中でイメージを広げてスタイル画を描き、こうした絵を元に、服(一般のアパレルではサンプル)に縫い上げていく。逆にスタイル画が先行すれば、その後にイメージに合う素資材の古着を探さなければならない。これは非常に難しいことだ。

 古着の流通チャンネルは路面の個人店から全国チェーンのリサイクルショップ、バッタ屋、海外ルートまであり、探し出すには非常に手間と時間がかかる。昨今では、中古衣料でも通販サイトが作られ、デジタル写真がアップされているが、デザイナーが服作りに使用する場合は実際に現物を見て、素資材の色や質感などを確かめたいはずだ。こうした作業がクリエーションのレベルを左右すると言ってもいいだろう。


古着確保のネットワークやバックアップ態勢


 膨大な数量の古着の中から、クリエーションに使える素資材が簡単に見つかる保証はない。しかも、シーズンやコレクションは、ずっと継続する。そのため、デザイナーの判断である程度、高い付加価値を出せる素資材の古着をシーズンを跨いで確保しておく必要がある。一方で、どんな素資材でも選り好みせずに使うというのであれば、デザイナーのセンスや着想に依拠することになる。

 どちらにせよ、「いい古着が見つかれば、何か作ろう」では、安定したビジネスにはならない。素資材の入手、確保に関わらず、その後の制作プロセスは共通するからだ。リ・デザインから縫製までの作業フローを確立し、古着を確保するネットワーク、そうしたバックアップ態勢も不可欠になる。

 そして、肝心なのは、リメイクには高い縫製技術が必要なことだ。材料に使用する古着は同じものを大量に確保するのは難しく、単品しか入手できない場合は色や素材、デザイン、サイズはみな違ってくる。パターンは異なるため、襟、袖、身頃、細腹などの形はバラバラだ。サイズは着丈、背幅、胸幅、アームホール回り、袖丈、ウエストと、すべて異なる。服の劣化度も素材のクオリティや使用頻度、保存状態で変わってくる。古着なら虫食いや変色、臭いなどがあるのが当然である。

 だが、クリエーションを標榜する以上、Aの古着の身頃にBの古着の袖をつけて、「はい、出来上がり」というわけにはいかない。また、作り替えた製品が中古衣料のレベルでいいと言うことでもない。市販する以上は新品と認識されるし、衛生面などの条件もクリアして然るべきだ。SDGs目的なら商慣習の例外となるのではなく、商売の常識に合わせていくのがビジネスの不文律なのである。

 作業のプロセスは以下のようになる。古着一つ一つを解体し、襟、見頃、袖などの部位パーツに分ける。当然、著作権が絡むロゴマークやテキスタイルは除かなくてはならない。それらをクリエーションのイメージに合わせ端布(はぎれ)に加工(裁断)したり、生地の用尺が多い背中部分などは大胆に切り抜いて、残った部分の布は別のウエアに使用したり。フラットで使いやすい布だけでなく、ニットのリブまで惜しみなく活かすこともあり得る。

 パーツはそれぞれ色や柄、質感が違う。リメイクだからあえて違う色、異素材を組み合わせたり、似た素材を使って肌触りのギャップを減らしたりもできる。量産する服ではないから、型紙はないと思われるが、市販するには仕様はもちろん、細部にわたる始末まで既製服と同レベルでなければならない。当然、異素材であれば「縫い合わせにくい」ことも考えられ、ここでは高い縫製技術がものを言う。そして、出来上がった時に用いた布パーツが見事に調和して服としての主張があるかどうか。そこにデザイナーの技と力量が問われるのだ。

 最後に価格設定はどうするか。素資材は古着由来であれば、コムデ・ギャルソンのような人気ブランドでない限り、調達コストは抑えられる。しかし、作業に時間がかかるし、1点ものという生産効率の低さを考えると、量産品より割高にならざるを得ない。もちろん、コレクションに出品するデザイナーズブランドならそこそこの価格帯なのだが、さらにSDGsを目指すというプレミアをつけた価格に落ち着くと思われる。1点ものだから、ショーと販売を連動すれば、シーナウ、バイナウも可能になる。


廃棄を抑えるには新古衣料の活用も



 このような手法で古着をリメイクし、販売するブランドの代表格が「SREU(スリュー)」。2020年春夏東京コレクションに初参加し、色、柄、素材が異なる生地を用いたワイドパンツ、デニムの布パーツとオーガンジーをウエスト回りにあしらったスカートなどを発表して注目を集めた。2020-21秋冬では、ラグランスリーブの右袖を別布に切り替え、ドローストリングを加えたコートなどを発表している。

 SREUのように古着を新しいウエアに生まれ変わらせる循環を作ることは、大量生産、大量廃棄の構図にくさびを打ち込むことになるが、「新古衣料」のまま廃棄されるものも少なくない。これにも取り組まなければならないが、課題もある。まず一つはアップサイクル、リ・デザインの対象に新古衣料が足るかどうか。大量廃棄の中には、おそらくGAP、H&MやForever21などグローバルブランドも含まれていると思う。

 かつてZOZOTOWNが行った買取サービスでは、これらに加え「ユニクロやGU、無印良品、そして百貨店系アパレルは対象外」となっていた。ブランド古着、2次流通にそぐわないからだが、素資材という意味では違ってくると思う。大量廃棄を少しでも抑えるなら、新古衣料や2次流通から外れたものも活用すべきだし、デザイナー側もそれらをリメイクに活用してこそ、SDGsの目的に合致するというスタンスであってほしい。

 もう一つはSREUに続くブランドの出現である。ブランドが少数では生産量は限られるし、市場に出回る数量もわずかだ。何より製造に手間がかかる割りに収益が上がらないと、ブランドの存続も危ぶまれる。ネットベンチャーとのコラボレーションもあるようだが、後続のブランドとも切磋琢磨し、アップサイクル、2.5次流通で一定規模のマーケットを作り上げれば、プラットフォームなどの1カテゴリーとなって顧客を増やすこともできる。

 また、コンテストを開催してもいいと思う。服飾を学ぶ専門学校生、リストラされた企画スタッフやデザイナー、SDGsに関心があるクリエーターなどを対象にそれぞれのレベルに応じた部門でショーを開催する。専門学校生は学んでいる技術をさらに向上させるチャンスだし、若手デザイナーは目先を変えた服作りが意外な才能を開花させるかもしれない。利権臭くても、環境省が音頭を取ったり、地方自治体が開催する方法もある。三文タレントなんかを呼んだガールズコレクションより、遥かに実利と社会性があるのは明らかだ。

 筆者はほとんど服を買わなくなった。シーズンの変わり目には断捨離を行っているので、タンス在庫は自然に減っている。ただ、過去に購入した高価で上質なブランドは保存状態が良いので捨てきれないが、トレンドが変わり着ていないものがある。昨年は2着ほどリメイクしてまた着始めたが、この秋にも3着目に挑戦しようかと思っている。

 最近は新品の服でも、なかなか飛びつかなくなった。ただ、上質な素材を使ったものであれば、「ここら辺のデザインがもう少しこうだったら、買うのにな〜」というものもある。ならば、そんな商品がセールでも売れ残れば、購入してリメイクしてもいいかとも思う。自分的には「新古品リメイク」だろうか。どちらにしても、無駄に捨てられる服が少しでも減って、アパレルロスの低減、廃棄衣料のリデュースに貢献できればと考える今日この頃だ。

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