HAKATA PARIS NEWYORK

いまのファッションを斬りまくる辛口コラム

プリント表現の終末。

2021-05-19 06:43:35 | Weblog
 アパレルはブランド価値を上げるために、販促には一定の時間とコストをかける。媒体はPVから雑誌広告、駅貼りなどのポスター、電車の中吊り、ビルボード、カタログ、DM、ポストカード、Webサイト、メルマガまでと多様だ。

 また、多店舗化しているSPA、特に量販チェーン店は集客のためのフライヤー、いわゆるチラシを新聞などに折り込む。百貨店も定期催事や新規投入ブランド、季節商材、セールなどの告知にはチラシを活用している。消費者にデジタル媒体がかなり浸透したとは言え、中高年に訴求するには紙媒体の方が良いからとの認識だろう。

 そこで考えたいのが、デジタルと印刷における販促のポジションと優位性だ。ここからは専門的な話になるのだが、その点はご了承いただきたい。通常、デジタルで扱う画像は、ピクセル(pixel/画素数)という小さな正方形の光の点である画素の集まりで表現される。

 画像の細かい部分まで写す解像度は、1インチに並んだピクセル(単位はppi)で表される。1インチに100個のピクセルが並ぶと100ppi。1インチは約25.4mmなので、254ppiだと1pixel(1つの点)の大きさが、約0.1mmとなる。人間の目は0.1mm以下の点は認識が難しいので、254ppi以上の解像度があればグラデーション部分などもほぼ綺麗に見える。

 一方、印刷物では、大小の大きさを持つ点(ドット)で表現するので単位は「dpi」を使用する。ピクセルは色情報の階調(調子の良さ)を持ち、ドットは大小点の集まりで、ネットか、プリントかという媒体による表現の違いになる。ppi、dpiに共通するのはどちらもこの数値が高ければ、画像や写真が高画質になるということだ。

 しかし、解像度が高いとデータ量は多くなる。解像度が2倍になれば面積比では4倍、データ量も4倍だ。その分、画像処理スピードは遅くなって、PCでのデザイン制作に時間がかかり作業効率が悪くなる。ネットでデータを転送するにも時間を要する。また、サーバーの容量がいっぱいになると、増設による設備負担が嵩むのだ。

 そこで、Webサイトに使用する画像は72ppi、印刷に使用するのは300〜350dpiが一般的だ。ただ、問題は提供する情報内容によって、この解像度では限界があることである。


拡大して織りや編み地の詳細がわかる画像はほとんどない




 アパレルのWebサイトの場合、モデルが商品を着たイメージ、商品単体の写真なら72ppiの画像でもいいが、通販まで対応するとなると、利用者に織りや編み地の詳細まで伝えるには、アップに耐えうる鮮明な画像が必要になる。海外のサイトでは写真上に+−のルーぺをが出てきて、+をクリックすると、商品が拡大されて織りや編み地など細部までわかるものもあるが、新たなプログラミングが必要なためか、日本ではZOZOTOWNをはじめとしてほとんど見かけない。

 こうした機能を加える場合、元画像のサイズが小さく、解像度が72ppiのものをそのままアップにすると、ドットの少ないものを拡大することになるから、画質は粗くなって細部まではわからない。生地や編み地を接写した画像を使う方法もあるが、解像度が72ppiのままでは細部を認識するにはやはり限界がある。

 写真を拡大しても画像を鮮明に維持するには、撮影の段階でppi数を高めにした解像度の高い画像にしておかなければならない。そして、Webデザインの過程では写真情報の内容によって画像サイズや解像度を調整し、いろんな画像をリンクさせておくのだ。しかし、そうすると、前出のようにデータ量が多くなる。

 一方、印刷物は通常、300〜350dpiを使用するから、画像はネットより鮮明のはずだが、プリント手法(オフセットやグラビア)や紙質(上質紙やコート紙)にも左右されるので、必ずしもそうとは言い切れない。前出のようにデジタルデザインでは生地や糸の質感までリアルな3D画像になっているが、印刷物は媒体の種類によっても求められる写真情報は異なる。

 例えば、ポスターはモデルが衣服を着用する写真を用いるので、服の色やデザインがわかり、着こなしイメージが訴求できる表現で十分だ。カタログやパンフレットは、商品写真の他に生地の意匠、織りや編み、組織まで詳細を伝えることもあり、その場合は解像度の高い写真を使えばいいのだが、現物を見ればいいからそこまで行うところはあまりない。

 チラシは媒体が価格訴求のツールだから、商品カットや着こなしイメージ、そして価格がわかれば十分だ。商品によっては生地の質感、織りや編みの詳細が判断できると、購入の決め手になることもある。だが、そこまでに対応するチラシはなく、併用されるWebサイトで細部の画像が公開されている場合は、こちらで確かめるしかない。


デジタル画像の方が生地や糸の質感までわかる? 

 先週末、新聞に折り込まれたユニクロのチラシを見て、商品企画と写真による情報提供、そしてWebサイトとの連携について思うことがあった。チラシを構成する要素は、タイトル、売り文句のコピー、カテゴリー別の商品、割引価格、アイキャッチャー、店舗情報などだ。



 だが、ユニクロの商品はほとんどが無地のため、シルエットやデザインに多少の差こそあれ、チラシの写真を見ただけでは詳細がわからない。裏面のルームウエアやTシャツに唯一プリント物があるだけで、他はほとんど同じような生地、質感に見えてしまう。

 これはチラシ制作の巧拙ではなく、商品企画そのものに原因があると考える。人間の視覚は、オブジェクト(対象物)に特徴があればあるほど、注目がいく。商品企画の面でもう少しメリハリや変化をつけないと、写真の撮り方やコピー、レイアウトをいじくったところで、全体的にフラットに見えるチラシは変えようがないということだ。



 かつてユニクロのドキュメント番組で、柳井正社長がチラシ制作にまで口を出すシーンが放送された。スタッフからチェック・決済のために持ち込まれた色校で、地味な色の商品がレイアウトされていると、「何で明るめの商品にしないんだ」と、柳井社長がダメ出しをした。制作者からしても、この指摘は間違っていない。

 AIDMAやAISASの法則からすれば、人間がアパレルを見る時、まず注意をそそられるのは商品の「」だ。それが明るいもの、ヴィヴィッドなものならなおさら。次に関心を持つのは「デザイン」であり、「質感」になる。ユニクロの場合、Life Wearを標榜することから、アイテムの種類は違っても、同じ色調ばかりで、デザインも皆プレーンになっている。


 
 今展開されているカテゴリーは夏物衣料だ。そのため、アイテムはTシャツ、タンクトップ、キャミソールなどが主力で素材のメリハリがほとんどない。業界の人々の中には、それらが「まるで下着のよう」に見てとれる方もいるようだ。

 確かにデザインがプレーン、色調は同じ、織り・柄に変化がないのだから、そう感じる人がいても不思議ではない。それでも売れているのは、商品価値と価格の好バランスが多くの消費者に刷り込まれているからだ。

 連動するWebサイトでは詳細や生地感などを確認できるので、そうしたメディアミックスも販促に貢献していると考えられる。しかも、デジタル画像の高画質、高精細になっているし、PCのディスプレイが4Kに置き換わっているのだから、画質はチラシのような印刷物とは比べ物にならない。

 量販チェーンの販促ツールであるチラシは情報発信はもとより、販促効果、購買喚起のどれをとっても、いよいよ限界に来ているのではないかと思う。古紙としてリサイクルされる点は良いのだが、森林資源を枯渇させていく紙と石油由来のインクを使用する点では地球環境への負荷は避けられない。

 都市部の若年層では新聞を取らない家庭も増えている。地方や高齢者世帯では有効かもしれないが、世帯別で配布を調整できない新聞折り込みはレスポンス率にも影響する。デザインや色で特徴がない商品は写真でも詳細を判別しにくいので、印刷物の次元で販促効果を上げるのは難しい。量販チェーンのプリント表現はいよいよ終末に来たようだ。

コメント
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