HAKATA PARIS NEWYORK

いまのファッションを斬りまくる辛口コラム

傾中疎米のユニクロ。

2021-05-26 05:35:13 | Weblog
 米国の対中政策はいよいよグローバルSPAにも向けられてきた。CBP(米国税関国境警備局)が公表した文書によると、カリフォルニア州ロサンゼルス港当局が1月5日に押収したユニクロのメンズシャツについて、中国共産党の傘下で新疆綿花の生産団体「新疆生産建設兵団(XPCC)」が原材料の生産に関わった疑いがあるとのことだ。

 米政府はトランプ政権下だった2020年12月、新疆ウイグル自治区の人々を強制労働させている背景にXPCCの関与があるとして、同団体が生産する綿製品の輸入を禁止。並行して、輸入企業には強制労働の製品を使っていないことの証明を義務付けた。バイデン政権でも強制労働製品を排除する姿勢は一貫している。

 ユニクロを運営するファーストリテイリングは3月末、輸入差し止め措置は不当だとする反論手続きで、「原材料にはオーストラリア産の綿使用と申請している」と主張した。これに対し、CBPは「強制労働品ではないとの証明が不十分だ」として、ファストリの反論を却下した。

 ファストリはCBPの措置を受けて先日、コメントを発表した。要点は以下になる。

 「当社はいかなる強制労働も容認しないという方針のもと、サプライチェーンにおける人権の尊重を最優先課題として取り組んでいる。サプライチェーンにおいては、強制労働などの深刻な人権侵害がないことを確認している

 「綿素材については、生産過程で強制労働などの問題がないことが確認されたコットンのみを使用している。万一、強制労働などの深刻な人権侵害が確認された場合には、取引停止や調達の見直しを含め、厳正に対処する

 米国、ファストリとも、言い分はあるだろうが、要は米国が輸入したシャツに使われているコットンに新疆綿が混じっているかどうかをどこまで証明できるかだ。米国は毎度のことながら、自分たちがルールのような国だから、ファストリのような中国生産偏重のSPAが新疆綿を使わないはずがない。真偽はともかく、そうした決めつけの方が強いのではないか。

 一方、ファストリは商品製造を中国などの工場に委託しているが、原材料の調達は商社や現地企業が担っているわけで、XPCCの関与無しという証拠も書類レベルでそうなっているだけだろう。実際のところ、中国、しかも現地企業がトレーサビリティを辿り、フェアトレードにまで与しているのかどうか定かではない。

 最近ではサプライチェーンにおける供給網の透明性を高める試みとして、登録した情報を改ざんできない「ブロックチェーン(分散型台帳)」上で、データを管理するルールづくりが進んでいる。だが、中国は堂々と「騙される方がバカだ」と宣う国民性だ。現地企業側が差し出す元の書類にどこまでの信憑性があるのかはわからない。

 白黒をはっきりつけるとすれば、科学的かつ客観的に証拠を出すしかない。手っ取り早いのはDNA検査だろうか。ただ、それをCBP側が行えば膨大な時間とコストがかかり、輸入品の通関が滞って貿易全体に影響が及ぶ。ファストリ側が行うにしても、時間とコストがかかるのは同じだ。

 おそらく、綿材料の調達は為替の変動なども考慮し、固定型の価格で長期契約しているはず。もし証拠が出た場合には輸入差し止めどころではなく、調達そのものの仕組みを変えなければならないから、現実的ではない。米国、ファストリ双方とも、本音ではそこまではやりたくないと思う。


売上至上主義のユニクロに中国批判はできない

 結局のところ、バイデン政権は安全保障、貿易、人権問題などから、対中強行政策では軟化することはないと思う。当然、日本をはじめ同盟国には協力を求めてくる。今回のCBPの措置も、その延長戦上にあるのだ。

 一方、柳井社長はファストリ全売上げのうち、北米事業が占める割合はわずか数%に過ぎないことから、米国の対応を甘く見ていたような気もする。現にXPCCが新疆ウイグル自治区の人々を強制労働させていることについて問われ、「これは人権というよりも政治の問題。われわれは政治的に中立なので、ノーコメントとさせていただきます」と返答している。

 つまり、強制労働は米中摩擦という政治問題の中で作り上げられたもので、我々が与するようなテーマではないと、お茶を濁したとも受け取れる。しかし、中国の人権侵害の実態は目に余るものがある。日本の大手メディアは経済界からの圧力からか、総じて報道にはおよび腰だが、筆者が住む福岡の西日本新聞は2月14日付け朝刊の1面トップでこの問題を報道した。https://www.nishinippon.co.jp/item/n/692640/

 中国政府によるウイグル人100万人以上の強制収容本人の意思に反した不妊手術や強制労働内モンゴル自治区や吉林省でも、昨秋から少数民族が通う小中学校での漢語教育の強化政策に異議を唱えた人々は次々と拘束されている。これらが明らかになった。柳井社長はそうした報道を知らないのだろうか。いや、そんなはずはない。

 今やファストリは中国事業に支えられていると言ってもいい。ユニクロの中国国内店舗は2020年8月期で800店に迫る勢いで、売上げの50%以上を中国事業で稼いでいる。面と向かって中国を批判できるわけがないのだ。



 しかも、ユニクロには前科がある。2012年、日本が尖閣列島を国有化したことで、中国各地で行われたデモの参加者が暴徒化して破壊や略奪をした時、上海の店舗では「尖閣列島は中国固有の領土」と、中国語による張り紙が掲示された。

 ファストリはその後、プレスリリースで「店長は、同日正午頃、独自の判断に基づいて、『支持釣魚島是中国固有領土』との張り紙を行い、デモ隊が過ぎ去った昼過ぎにそれを撤去いたしました。(張り紙が行われていた時間は、約40分間。)」と、発表。さらに「本件は会社の指示によるものではなく、また、他の店舗におきまして、このような事は一切起きておりません」と、釈明した。

 社員が明らかに政治的な発言をしたことは紛れもない事実。ここまでやれば、柳井社長が言うように政治中立でも何でもない。社員教育が徹底されておらず、ガバナンスが機能していないとも受け取れる。



 このところの中国は次々と強権を発動している。昨年12月に施行した「輸出管理法」では、安全保障に関わる製品などの輸出を許可制にしたほか、特定の外国企業などをリスト化し輸出の禁止や制限を課した。この国の法律は、あくまで運用する側の都合でどうとでも解釈される。もし、ファストリが今後他国との取引を増やして中国生産をセーブすれば、逆に中国からの製品輸出ができなくなることだってあるのだ。

 ファストリの中国依存度は異常だ。ある意味、同社の命運を握っていると言ってもいい。取引先1社のシェアが25%を超えると、失った時に倒産する可能性があることから、10%以下を何社も抱えて分散化を図るのが経営のセオリーと言われる。これはマーケットシェアについても似たようなものではないか。

 それだけではない。強かな中国は外国企業のノウハウを得てしまえば、用済みの烙印を押して市場から閉め出すことも考えられる。そうなると、ユニクロだろうが、ひとたまりも無い。

 片や、ファストリの北米売上高は全体の数%に過ぎないため、今回の輸入差し止めも同社にとって大した影響はないだろう。しかし、決算報告では毎回のように「米国事業は早期黒字化を目指す」とぶち上げながら、一向に達成できず赤字を垂れ流し続けている。今回の一件を含め、米国をあまりに軽く見ているのは、経営上大きな矛盾を孕む。

 今回の輸入差し止めで、ユニクロの株価は急落した。上場企業というポジションからすれば、投資家から責任を追及されてもおかしくない状況だ。

 柳井社長は、これまで国内のアパレル業界はもちろん、日本の政治や外交について批判を繰り返してきた。なのに中国の人権弾圧については批判どころか、言及さえしていない。そんな振る舞いを見ると、米中対立におけるジレンマなど微塵もないのだろう。

 むしろ、傾中疎米とでも言うべきか。ただ、中国ビジネスの一寸先は闇でしかない。果たして経営者としてリスクヘッジに向けた軌道修正を試みるのか。期待と不安半々で見ていきたい。

コメント
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