先日、繊研新聞社が主催する2022年度の「百貨店バイヤーズ賞リビング」で、各部門のベストセラー賞が発表された。全国28の百貨店で、インテリアや住関連の用品を仕入れるバイヤーが部門別に146ブランド・商品を推薦し、各部門の得票上位11ブランドがバイヤーズ賞に輝いた。
部門は「リビングルーム」「ベッドルーム」「キッチン・ダイニング」「バス・トイレタリー」の4つ。筆者が仕事をしたことがあるジャンルでは、リビングルーム部門でイタリア家具の「カッシーナ」、日本の「カリモク」、川島織物セルコンの「フィーロ」、キッチン・ダイニング部門でフィンランドの「イッタラ」、日本の「バルミューダ」が受賞した。
カッシーナは17世紀にイタリアで誕生したモダンファニチャーの名門。日本法人のカッシーナ・イクスシーが輸入総販売代理店として、ライセンス生産およびオリジナル製品「ixc.(イクスシー)」の販売を手掛ける。群馬県桐生市の100%子会社CIXMでは、カッシーナ考案のウレタンの成形をそのまま生かしたソファーを製造している。
カリモクは1940年に愛知・刈谷市で創業した木工メーカー。50年代には高度な技術を必要とするミシンのテーブル部品の製造に携わり、これが国産木製家具の製造・販売に繋がった。64年には全国展開するためにカリモク家具販売(株)を設立し、83年にはハイクオリティブランドの「ドマーニ」を発表。名実ともに日本を代表する高級木製家具のブランドだ。
フィーロは、京都の川島織物セルコンが西陣織の伝統を生かして手がけるハイグレードなカーテンブランド。同社は今年で創業180周年を迎え、製造販売するアイテムは床材、壁装、自動車シート、椅子張、インテリア雑貨、帯、美術工芸品までと多岐にわたる。まさにインテリアファブリックでは日本を代表するブランドと言える。
イッタラはフィンランド・イッタラ村の小さな工場で生まれたガラス器。北欧デザインのパイオニアとして美しいデザインのみならず、日々の生活で使える機能性を大切にし、世代を超えて受け継がれるテーブルウエアを製造する。フィスカースジャパンはその輸入、卸・小売りに携わり、他にもロイヤルコペンハーゲンやアラビアなどの陶磁器・クリスタルを扱う。
バルミューダは2003年設立の新興エンジニアリングメーカー。家電をはじめ、現代の生活に欠かせない様々な道具を企画・製造している。大手メーカーにはない独創的なデザインコンセプトと斬新なアイデアが特徴で、スチームテクノロジーと温度制御により焼きたての香りと食感を実現したトースターは、同ブランドを一気にメジャーにし、海外にも輸出されている。
ただ、この報道で感じたのは百貨店が未だにリビング関連を商材にしていること。なのにブランドは他の業態でも扱っているものばかりだ。146ブランドの中からバイヤーが推薦したと言っても、他でも扱っているのは仕入れに窮しているというか、タマ不足が否めないと感じる。お客は日常で使用する住関連のアイテムにはこだわりたい。だが、店舗に並んでいる商品はどこも同じで変わり映えがしないのは、やはり不満だろう。
今から20年ほど前、東京・目黒通りにインテリアショップが集積し始めた。モダンデザインから北欧や米国の中古家具まで様々な店舗が並んだ。同時期には通り沿いの碑文谷の目黒ホテルが改装し「ホテルクラスカ」として開業。同エリアはリビングライフやリノベーションの情報発信地としての呼び声が高かった。しかし、個店レベルでは品揃えの限界があるし、ホテルクラスカも2020年に閉館し、かつてのような勢いはない。
家電では「アマダナ」が先駆者と言える。こちらも従来の常識にとらわれないアプローチとデザインで新風を巻き起こした。製品はデスクトップオーディオから電卓、リモコン、コーヒーメーカー、電話機、オーブンレンジ、加湿器などと幅広く、最近ではウォーターサーバーも製造している。これらに続くブランドの登場が待たれるわけだが、百貨店の顧客にとってブランドの選択肢が少ないのが難点だ。
リビングルームやキッチン・ダイニングのブランド商材を扱うには、やはり資本力を背景にした信用が不可欠で、百貨店でないと厳しい。だからこそ、ブランド発掘を含めた積極的なリサーチやバイイングに踏み込むことが必要なのである。
比較検討できるラインナップを
今回の受賞ブランドはメディア露出も多く知る人ぞ知るから、店舗で取り扱えば確実に実売に結びつく。今回の受賞もそれが影響したのは間違いないだろう。ただ、他の業態でも同じブランドを扱っているのだから、それだけ競合が多いということ。
ネット通販に抵抗がある高齢のお客は、百貨店の売場で商品を確かめて購入するケースが多い。だが、提案する側はもっとブランドのラインナップを広げ、お客に「こんなものもあるんだ」「デザインを買い替えるのも手だね」と、思わせるような品揃えも必要だと考える。
もちろん百貨店側は十分にわかっているはずだ。バイヤーも仕入れに腐心しているのだろうが、何せいろんな制約があるから如何ともし難い。リビングルームやキッチン・ダイニングは、それほど回転の良い商品ではないから、大量の在庫は置けない。メーカーや販社との仕入れ条件は委託や消化仕入れだろうし、収益を上げるにはどうしても高級ブランド、高額な輸入品になってしまう。そのため、単価は高くて販売点数は限られてしまう。
しかし、お客の側は現状の品揃えでは満足しない。新たなブランドやアイテムの提案を待ち望んでいる。コロナ禍でライフスタイルが変わる中、自宅がオフィス代わりになる人々の間ではリビングルームやキッチン・ダイニングへの投資が進む。お客の方が好奇心が旺盛だから、国内外のブランド、アイテムのチェックを欠かさない。一度でもクリックすれば、逆にSNSには広告が表示される。筆者のところにも以下のようなブランドから広告が送られてきている。
「かなでもの」「DUENDE」「Villeroy & Boch」「MDF ITALIA」「BoConcept」「CASAMANIA」「DEGRENNE」「MAISON SARAH LAVOINE」「HAY」「Established & Sons」「EVA TRIO」「SERAX」「De'Longhi 」
かなでもの、DUENDEは日本ブランドで、HAYやBoConceptは国内にもショップがあるが、他は全て海外ブランド。それぞれ個性的かつ上質で、百貨店のターゲットには合致すると思う。しかし、実際の品揃えには販売代理店や商社の介在が条件となるので、簡単にいかないのは承知の上だ。家電のように日本の電圧(100V)で使えないものもあり(ある輸入雑貨店のオーナーはそれさえ日本規格に変えて仕入れるほどの熱意があった)、簡単ではない。
ただ、バイヤーの仕事は常に国内外のブランドをチェックし、自店の顧客にとって価値がある商品を探し出すこと。そして、国内外のトレードショーや見本市に足繁く通って商品を発掘する。予算や時間、権限という制約があるにしても、その努力を惜しむべきではない。自店だけで仕入れるのは困難だから、まずは百貨店グループでブランドを集積した巡回のポップアップストアを展開する方法がある。
すでに高島屋は行っているが、三越伊勢丹や高島屋G、Jフロントリテイリング、H2Oリテイリングもそれを実施するには商社的な動きをしてもいいのでは。ポップアップストアでの顧客の反応を見ながらバイイングの可能性を探り、ブランド側と根気強く取引交渉をするしかない。
それも難しいのであれば、グループ横断で非定期の販売イベントを開催してはどうか。これに地方百貨店を巻き込む手もある。ホテルクラスカの運営会社はホテルの閉館後も残り、CLASKA Gallery & Shop “DO"を展開して展示会を行なっている。こうした企業などとタイアップする方法もある。かなでものやDUENDEについても同じだ。
百貨店各社はコロナ禍が収束し、収益を回復している。それでも、アパレルは一部の海外ブランドを除けば依然として厳しい。売上げ増に貢献する商材は宝飾品や輸入時計、美術関連品になるが、これらに続くものも欲しいところだ。それがリビングやダイニング関連になる可能性は高い。だからこそ、まずは顧客のニーズを見越しての情報提供、次に商品提案、そして実際のラインナップが必要になる。
高額な商品が動いているのは、生活をグレードアップしたいお客がいるということ。その対象は何も富裕層だけとは限らない。リビングやキッチン・ダイニングのような商材は、趣味の領域でもあるので、それ1点に投資する人々は少なくない。椅子や絨毯、照明、テーブルウエアがそうだ。ブランドのラインナップを広げれば、そうした商品を求める層にとっては選択肢が広がるので、比較検討できる。それが購買意欲を掻き立てるのである。
地方百貨店が次々と閉店し、そごう・西武百貨店にも及ぼうとしている。しかし、高額品を求める一定のマーケットは残るわけで、それを満足させるには新たな提案力が不可欠だ。そのためにはバイヤーが世界中を歩き回って=ネットを活用して情報収集し、商品を発掘するエネルギーを持ち続けること。今はむしろチャンスの時期とも言える。インテリアや住関連からライフスタイルを変えていく。百貨店の提案力が求められている。
部門は「リビングルーム」「ベッドルーム」「キッチン・ダイニング」「バス・トイレタリー」の4つ。筆者が仕事をしたことがあるジャンルでは、リビングルーム部門でイタリア家具の「カッシーナ」、日本の「カリモク」、川島織物セルコンの「フィーロ」、キッチン・ダイニング部門でフィンランドの「イッタラ」、日本の「バルミューダ」が受賞した。
カッシーナは17世紀にイタリアで誕生したモダンファニチャーの名門。日本法人のカッシーナ・イクスシーが輸入総販売代理店として、ライセンス生産およびオリジナル製品「ixc.(イクスシー)」の販売を手掛ける。群馬県桐生市の100%子会社CIXMでは、カッシーナ考案のウレタンの成形をそのまま生かしたソファーを製造している。
カリモクは1940年に愛知・刈谷市で創業した木工メーカー。50年代には高度な技術を必要とするミシンのテーブル部品の製造に携わり、これが国産木製家具の製造・販売に繋がった。64年には全国展開するためにカリモク家具販売(株)を設立し、83年にはハイクオリティブランドの「ドマーニ」を発表。名実ともに日本を代表する高級木製家具のブランドだ。
フィーロは、京都の川島織物セルコンが西陣織の伝統を生かして手がけるハイグレードなカーテンブランド。同社は今年で創業180周年を迎え、製造販売するアイテムは床材、壁装、自動車シート、椅子張、インテリア雑貨、帯、美術工芸品までと多岐にわたる。まさにインテリアファブリックでは日本を代表するブランドと言える。
イッタラはフィンランド・イッタラ村の小さな工場で生まれたガラス器。北欧デザインのパイオニアとして美しいデザインのみならず、日々の生活で使える機能性を大切にし、世代を超えて受け継がれるテーブルウエアを製造する。フィスカースジャパンはその輸入、卸・小売りに携わり、他にもロイヤルコペンハーゲンやアラビアなどの陶磁器・クリスタルを扱う。
バルミューダは2003年設立の新興エンジニアリングメーカー。家電をはじめ、現代の生活に欠かせない様々な道具を企画・製造している。大手メーカーにはない独創的なデザインコンセプトと斬新なアイデアが特徴で、スチームテクノロジーと温度制御により焼きたての香りと食感を実現したトースターは、同ブランドを一気にメジャーにし、海外にも輸出されている。
ただ、この報道で感じたのは百貨店が未だにリビング関連を商材にしていること。なのにブランドは他の業態でも扱っているものばかりだ。146ブランドの中からバイヤーが推薦したと言っても、他でも扱っているのは仕入れに窮しているというか、タマ不足が否めないと感じる。お客は日常で使用する住関連のアイテムにはこだわりたい。だが、店舗に並んでいる商品はどこも同じで変わり映えがしないのは、やはり不満だろう。
今から20年ほど前、東京・目黒通りにインテリアショップが集積し始めた。モダンデザインから北欧や米国の中古家具まで様々な店舗が並んだ。同時期には通り沿いの碑文谷の目黒ホテルが改装し「ホテルクラスカ」として開業。同エリアはリビングライフやリノベーションの情報発信地としての呼び声が高かった。しかし、個店レベルでは品揃えの限界があるし、ホテルクラスカも2020年に閉館し、かつてのような勢いはない。
家電では「アマダナ」が先駆者と言える。こちらも従来の常識にとらわれないアプローチとデザインで新風を巻き起こした。製品はデスクトップオーディオから電卓、リモコン、コーヒーメーカー、電話機、オーブンレンジ、加湿器などと幅広く、最近ではウォーターサーバーも製造している。これらに続くブランドの登場が待たれるわけだが、百貨店の顧客にとってブランドの選択肢が少ないのが難点だ。
リビングルームやキッチン・ダイニングのブランド商材を扱うには、やはり資本力を背景にした信用が不可欠で、百貨店でないと厳しい。だからこそ、ブランド発掘を含めた積極的なリサーチやバイイングに踏み込むことが必要なのである。
比較検討できるラインナップを
今回の受賞ブランドはメディア露出も多く知る人ぞ知るから、店舗で取り扱えば確実に実売に結びつく。今回の受賞もそれが影響したのは間違いないだろう。ただ、他の業態でも同じブランドを扱っているのだから、それだけ競合が多いということ。
ネット通販に抵抗がある高齢のお客は、百貨店の売場で商品を確かめて購入するケースが多い。だが、提案する側はもっとブランドのラインナップを広げ、お客に「こんなものもあるんだ」「デザインを買い替えるのも手だね」と、思わせるような品揃えも必要だと考える。
もちろん百貨店側は十分にわかっているはずだ。バイヤーも仕入れに腐心しているのだろうが、何せいろんな制約があるから如何ともし難い。リビングルームやキッチン・ダイニングは、それほど回転の良い商品ではないから、大量の在庫は置けない。メーカーや販社との仕入れ条件は委託や消化仕入れだろうし、収益を上げるにはどうしても高級ブランド、高額な輸入品になってしまう。そのため、単価は高くて販売点数は限られてしまう。
しかし、お客の側は現状の品揃えでは満足しない。新たなブランドやアイテムの提案を待ち望んでいる。コロナ禍でライフスタイルが変わる中、自宅がオフィス代わりになる人々の間ではリビングルームやキッチン・ダイニングへの投資が進む。お客の方が好奇心が旺盛だから、国内外のブランド、アイテムのチェックを欠かさない。一度でもクリックすれば、逆にSNSには広告が表示される。筆者のところにも以下のようなブランドから広告が送られてきている。
「かなでもの」「DUENDE」「Villeroy & Boch」「MDF ITALIA」「BoConcept」「CASAMANIA」「DEGRENNE」「MAISON SARAH LAVOINE」「HAY」「Established & Sons」「EVA TRIO」「SERAX」「De'Longhi 」
かなでもの、DUENDEは日本ブランドで、HAYやBoConceptは国内にもショップがあるが、他は全て海外ブランド。それぞれ個性的かつ上質で、百貨店のターゲットには合致すると思う。しかし、実際の品揃えには販売代理店や商社の介在が条件となるので、簡単にいかないのは承知の上だ。家電のように日本の電圧(100V)で使えないものもあり(ある輸入雑貨店のオーナーはそれさえ日本規格に変えて仕入れるほどの熱意があった)、簡単ではない。
ただ、バイヤーの仕事は常に国内外のブランドをチェックし、自店の顧客にとって価値がある商品を探し出すこと。そして、国内外のトレードショーや見本市に足繁く通って商品を発掘する。予算や時間、権限という制約があるにしても、その努力を惜しむべきではない。自店だけで仕入れるのは困難だから、まずは百貨店グループでブランドを集積した巡回のポップアップストアを展開する方法がある。
すでに高島屋は行っているが、三越伊勢丹や高島屋G、Jフロントリテイリング、H2Oリテイリングもそれを実施するには商社的な動きをしてもいいのでは。ポップアップストアでの顧客の反応を見ながらバイイングの可能性を探り、ブランド側と根気強く取引交渉をするしかない。
それも難しいのであれば、グループ横断で非定期の販売イベントを開催してはどうか。これに地方百貨店を巻き込む手もある。ホテルクラスカの運営会社はホテルの閉館後も残り、CLASKA Gallery & Shop “DO"を展開して展示会を行なっている。こうした企業などとタイアップする方法もある。かなでものやDUENDEについても同じだ。
百貨店各社はコロナ禍が収束し、収益を回復している。それでも、アパレルは一部の海外ブランドを除けば依然として厳しい。売上げ増に貢献する商材は宝飾品や輸入時計、美術関連品になるが、これらに続くものも欲しいところだ。それがリビングやダイニング関連になる可能性は高い。だからこそ、まずは顧客のニーズを見越しての情報提供、次に商品提案、そして実際のラインナップが必要になる。
高額な商品が動いているのは、生活をグレードアップしたいお客がいるということ。その対象は何も富裕層だけとは限らない。リビングやキッチン・ダイニングのような商材は、趣味の領域でもあるので、それ1点に投資する人々は少なくない。椅子や絨毯、照明、テーブルウエアがそうだ。ブランドのラインナップを広げれば、そうした商品を求める層にとっては選択肢が広がるので、比較検討できる。それが購買意欲を掻き立てるのである。
地方百貨店が次々と閉店し、そごう・西武百貨店にも及ぼうとしている。しかし、高額品を求める一定のマーケットは残るわけで、それを満足させるには新たな提案力が不可欠だ。そのためにはバイヤーが世界中を歩き回って=ネットを活用して情報収集し、商品を発掘するエネルギーを持ち続けること。今はむしろチャンスの時期とも言える。インテリアや住関連からライフスタイルを変えていく。百貨店の提案力が求められている。