HAKATA PARIS NEWYORK

いまのファッションを斬りまくる辛口コラム

女性もポケットがほしい。

2024-12-25 06:56:35 | Weblog
 一ヶ月ほど前、興味深い記事を目にした。 「女性服はなぜポケットのある服が少ないの?」のタイトルで、東京・池袋のみらい館大明ブックカフェでポケットのある服を販売するフリーマーケットとお茶会が開催されたという内容だ。

 イベントを主催したのは、今年3月にスタートした「レディース服に『ポケットあり』の選択肢を」のキャンペーンを発起したお方。フリマには、ポケットのある服を2点以上持ち寄った出店者と、ポケットのある服を探す人が集った。また、会場ではネットで寄せられた声に加え、来場者の意見なども掲示されたという。

 ネットで寄せられたのは、「スカートのポケットが小さくてスマートフォンが落ちる」「オフィス内で名刺入れは常に携帯しておきたい」「会計時にイヤホンを一時的にポケットに入れたい」等など。フリマ来場者からは、「ポケットが小さくて定期を落とした」「自転車に乗るとポケットからスマホが落ちそうになる」「浅いポケットだと大判ハンカチやタオルが入らない」「(ポケットがあれば)ちょっとそこまで、手ぶらで行ける」「貴重品を持ってトイレに入ったら置き場がなかった」といった意見が寄せられた。なるほど、ジャケットやパンツにいくつものポケットが付いている男性にはわからない切実な問題のようだ。


 
 一般論としては女性の服にはポケットが少なかったり、あっても物を入れるようなサイズでないのは確かで、それを不便だと感じている女性は少なくない。ただ、そんな女性の思いを形にしたメーカーがあった。ネットを主販路にする「アルヨ」だ。当初は日本人にフィットするコルセットを作ろうとしていたが、資金集めの一環でレディスウエアのネット販売にも着手。独自商品を提供するためにSNSなどでニーズを探ったところ、「男性のジーンズには長財布が入るが、女性のポケットは小さく、フェイクだ」との投稿が目に留まった。



 そこで、アルヨはいろんなものが入るスカートを企画し、「酒瓶」も入る動画を発信したところ、これが大きな反響を呼んだ。スカートは200着が完売し、同様な仕様のパンツも瞬時で500着が売り切れた。大事なものは鞄に入れることができても、飛行機事故に遭うと手ぶらで脱出を余儀なくされる。大事なものは持ち出せない。大きなポケットはこうした問題を解決できる。ファッション性の追求なら他にもブランドがある。アルヨはビッグマーケットではないが、女性の切実な悩みに答える狭間と驚きをビジネススタンスにする。

 レディース服に『ポケットあり』の選択肢をのキャンペーン発起人も同じ理由を語っている。飛行機事故の緊急時には乗務員が緊急脱出のマニュアルに従って「手荷物を座席や収納棚に残したまま」で、非常口からスライドを滑るように指示する。航空会社が取り決めたルールの詳細はわからないが、多分財布やパスポートを初めからポケットに入れていた場合は、そのまま脱出はできると思われる。それらをバッグに入れている女性にとっては、それだけ切実な問題なのだろう。「ポケットがあれば」との命題に行き着くのも納得できる。

 キャンペーンの発起人は、サイト掲載商品でポケットの有無を調べたり、店頭でポケットのある服を探したが、思うようなものが見つからなかったとか。UV紫外線カットや保温機能と同じように、ポケットの有り無しでも検索できるのが理想だ。さらに願うのはポケットのある服へのアクセスの改善だという。キャンペーンでは11月の時点で約4000もの署名が集まり、同時アンケートでもポケット無しで服の購入をやめたことがあるという回答が8割もあった。12月には大手のECモールなどに署名や集めた声を届ける予定という。

 ただ、女性服になぜポケットがないのかの理由はよくわからない。筆者なりに考えてみると、女性はハンドバッグを持つため、必要なものはそれに全部入れることができるからだろうか。また、レディスの服にポケットをつけるとその部分が膨れるため、デザイン的に女性らしい体型のラインが崩れてしまう等が考えられる。デザイナーズブランドの全盛期には、そうした固定概念に反抗する意味で、あえてポケットを多用した服も見かけた。デザイン的に奇抜だっただけでなく、ポケットがあれば収納の面で便利だったと思う。



 軍服は動きやすさ、快適性が求められるため、男女とも適正サイズでなければならない。当然、体型が異なる男女ではパターンは違ってくるが、装備品は男女とも同じサイズで同数を収納すれば、ポケットの仕様も同じになる。現場作業用のユニフォームも業務内容に男女差がなくなりつつある状況を考えると、ポケットは男女とも同数ついていると思われる。だが、学生服では確かに男子の学ランと女子のセーラー服は、ポケットは全く異なる。学ランが胸、両脇、内ポケット、ズボンにも左右、両後ろがあるのに対し、セーラー服は確か上着の胸元しかなかったと記憶する(スカートにポケットをつけた仕様もあったか)。

 最近はLGBTQやトランスジェンダーの問題から、学生服もトップとボトムが自由に組み合わせできるなど、性差を取り払う工夫が凝らされている。性格も気持ちも男性なら、多分ポケットにいろんなものを入れたいだろうから、男子の制服が着たいだろう。逆の場合はどうか。ポケットがあれば便利だと考える女性はいるが、心が女性の場合は逆にバッグがわりのカバンにものを入れたくなるかもしれない。その辺はよくわからないが。性差だけでなく、制服の範囲内なら着たいものを自由に選んでもいいのではないか。ポケットも然りだ。


男性はポケットの有用性を意識しなくなった?



 ポケットについてのニュースに触れて、思い出したことがある。ヨウジヤマモトなどを手がけるデザイナーの山本耀司氏がポケットについて語っていたことだ。

 女のひとがポケットに手を入れるようになったのはいつ頃からだろう。マレーネ・ディートリッヒあたりからか。いずれにしても、男物を着るようになってからのはずで、その男っぽいポーズが、今ではすでに時代に受け入れられて、単なる一つのモードになってしまったのは確かである。それでも、わたしは、ポケットをつけたくなる。

 こんな下りだったかと思う。仕立て屋の息子である耀司氏が言うくらいだから、やはりレディスの服には過去からポケットをつけていなかったのである。

 男であれば、ジェームス・ディーン。あるいは、ロバート・ミッチャム。つまりは、不良かヤクザにつきものの、拒絶、軽蔑、反抗、ひがみ、といったところである。東京、パリ、ニューヨーク。国を問わず、夜、ヤバい界隈をふらついていると、向こうからヤバいのがやってきたりする。そんなとき、ポケットの中の手は、すでに戦闘態勢に入っている。次の瞬間、男は鹿と鍵を握りしめる。

 大都会の路地裏やストリートで生きる男にとって、ポケットに手を突っ込むのは「いつでもやるぞ」との意思表示とも言えるということか。デザイナーからすれば、ポケットは視覚に訴える武装の道具と解釈されるようだ。

 子どもの時分、ポケットはわたしにとって宝物入れだった。何でもかんでも詰め込んだ。そして、今でもわたしにはポケットがカバン代わりである。財布以上の荷物をもって歩くことを軽蔑している。右側にお金、左側にハンカチ、ライター、キーホルダー、上着にパスポートの入る内ポケットさえあれば、旅行鞄もいらない。

 男のポケットは潔く実用的である。ポケットが13個ほどついたヘビーデューティ・ウエアなるものを、わたしはずっと愛用している。これぞまさに実用の最たるものである。服に居住する。そして、旅に出る。

 なるほど、ポケットに入れるほどの物しか持たない。それが創造力を掻き立てるということだろう。映画「男はつらいよ フーテンの寅」の主人公、車寅次郎はチェックのスーツに鯉口シャツと腹巻き、トランク一つで食っていける。そして、小銭は持たないと言われるが、腹巻きは札だけ入った財布を入れるポケット代わりでもある。それもフーテンという生き方を表したものだが、女性のキャラクターならそんなスタイルは無理だっただろう。



 普通の服であっても、財布が快く入らなかったり、悪い位置についていて手に余計な動きをさせたりするポケットではいけない。手を入れて服のシルエットが変わるものは失格である。

 ポケットの位置、形、数、口の大きさ、角度、袋の深さは、服の役割によって異なってくるが、概して布の比重が胃のあたりにかかって、落ちが決まっている服は、どこにポケットをもっていっても収まりがよい。実際、仮縫い中、鋏を入れると、笑ったように口が開くことがよくある。


 たかがポケット、されどポケットである。デザイナーにとってはポケット一つに意味があり、様々なポケットがあるのは服それぞれで用途が違うから。ただ、あくまでポケットは人の手でものを入れるものだから、余分な動作を必要としないものでなくてはならないのだ。実に深い。

 彼女が着るどんなドレッシーなイヴニング・ドレスにも、わたしはポケットをつけてあげたい。ポケットがなかったら、彼女はバッグをもたなければならないからだ。そして、バッグは盗まれてはならない。そういう何とも滑稽な神経を負わなければならないのは、何と不自由なことか。

 法外な値段のダイヤのネックレスを買ったものの、パーティー会場で強奪されては困るから、当日は贋物をつけていく⎯⎯人間がモノを所有するということの痛ましき縮図でもある。

 高級品がほしいと思ったときには高くふっかけられ、高級品を売りたいと思ったときには安く買い叩かれる。あまりに短絡的であるにしても、畢竟、所有という欲望は、最後には安く奪い取られるという行為に帰結するより他ないのだ。

 だから、ポケットに入れておいで、君の大事なものすべて⎯⎯


 最後は詩的な下りとなった。さすがヨウジさんだ。ポケットはあくまでもの入れるもの。ものを失くさないようにしまっておくもの。その考えはデザイナーであっても変わらない。だから、機能性が求められる。それは男性でも、女性でも同じはずだという考えなのだ。男女で体型は違えども、体幹に腕や脚は同じようについている。だから、ポケットにモノを入れる肘を折って手首を曲げる動作は同じになる。デザイン的に傾斜をつけたようなポケットは邪道と言いたいのかもしれない。

 女性はバッグを持つから、ポケットなど必要ない。ポケットをつけない方が仕様が簡素化され、生産コストが抑えられる。長引くデフレ禍のもと、服の価格が下がった一方、レディスの服ではコスト削減の見地からポケットがカットされた面もなくはない。だが、女性でも男性と同じ行動、仕事、生き方をすれば、同じようにポケットが必要だと感じる。

 レディスの服にはポケットは必要ないと考えるのは、ポケットがあって当たり前でその有用性をいつの間にか考えもしなくなった男性の発想かもしれない。ポケットを持ちながら、女性らしいラインも疎かにしない。そんな服がどんどん登場してくることに期待したい。
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棄てなくていい服。

2024-12-18 07:12:33 | Weblog
 マーケティング会社のミトリズが実施した衣替えに関する調査によると、「衣替えで不要となった服を捨てる」と答えた世代は、50代と60代以上は8割弱。一方、古着の買い取りなど再利用にまわすと回答したのは30代が4割以上に達したという。ただ、調査データを見ただけで、中高年が不要になった服を廃棄し、若年世代がゴミそのものを減らすリデュース、ものを繰り返し使うリユースを意識していると、一概に決めつけることはできない。なぜなら、以下のような理由が考えられるからだ。

服を破棄する理由
1.シミや傷が目立ち、劣化が激しく着用不可
2.着用可能だが、流行遅れ、サイズ不適合
3.着用可能だが、リサイクル店が受け付けない
4.着用可能だが、買取価格が極端に低い
5.オークション、フリマアプリは出品が面倒
6.オークション、フリマアプリでも買い手がつかない


 5を除いて上記の理由なら、30代でも廃棄に回さざるを得ないのではないか。むしろ、若年世代は着古した服の処分については学習しており、新品の時点でこの服はリユースにまわすことができるか、中古価格がどれくらいになるかを念頭に入れて購入するようになっている。買う側も中古衣料に対しほとんど抵抗がない。そのため、若者向けの服の方が買い手がつく可能性が高く、再利用されやすいのだ。こうした環境がリユース意識の醸成につながっていると言える。

 しかし、購入した服を長期間にわたって着続ける中高年では、単純に服自体が劣化でもう着られないのに加え、流行遅れや体型の変化でサイズが合わない場合がある。もしくは、着用可能でも買い手がつかないことから、リサイクル店などが買い取らないケースだ。買い手がつかない場合には廃棄するしかないため、買い取り価格が極端に低くなる。これらは中高年も学習しており、他に選択肢がなければ廃棄を選択せざるを得ないのだ。



 中高年は古着の着用には抵抗があるが、若年層はほとんどない。リユースや廃棄にはそうしたジェネレーションギャップも関係している。ただ、中高年だろうと若年層だろうと、服を棄てればそれだけゴミを増やすことになる。行き着く先は地球環境への負荷を増大させる。リユース意識が世代間で極端に違うとは思えないが、服を棄てるのは50代と60代以上が8割弱にも達するのだから、不要な服を棄てないで済む方法を啓発をし、周知、徹底することが不可欠になる。では、具体的にどうすればいいのだろうか。

 これまでは、自治体などがゴミを減らす活動として3Rを唱えてきた。前出のリデュース(Reduce)、リユース(Reuse)に加え、資源として再生利用するリサイクル(Recycle)の頭文字をとったものだ。最近ではこれらに物を修理修繕して使うリペア(Repair)ゴミになるものを買ったり貰ったりしないリフューズ(Refuse)を加えた「5R」が提唱されている。無駄な消費を避け、身の回りのものを大切にしようという考え方である。



 これを服に置き換えたらどうだろうか。中高年が服を棄てる6つの理由のうち、2、3、4、6で服の着用が可能ならリユースにまわしていくべきではないか。服を修理修繕して使うリペアは技術が必要になるし、リフューズもすでにある服の廃棄をなくす意味からはズレるので、ここでは言及を保留する。まずはリユースについて現状よりきめ細かな方法を提示し、フローチャートなどで啓蒙していくことが必要だと考える。それをどこがやるかと言えば、個人と自治体や地域社会、企業、学校などが共同で活動していくべきだと考える。


グリーンフライデーを浸透させていくべき



 服を購入した以上、その処分についてはあくまで購入者に責任がある。ただ、リサイクル店が買い取りを受け付けないとか、オークション、フリマアプリでも買い手がつかないなど、個人ではこれ以上処分の方法が見つからない場合に限っては、第三者が手を借りる必要もある。菅義偉元総理がかつて語った自助、共助、公助というフローであり、自治体や地域社会、企業、学校が関わることも重要だと思う。目指す目標は共にゴミを出さないということだからだ。では、不要になった服を棄てないためにはどんな方法が考えられるのだろうか。

●シミや傷が目立つ(着用不可) → コットン(Tシャツなど)はウエスに 
                → ウール、合繊は自治体や企業が回収
●劣化が激しい(着用不可) → 自治体や企業が回収
●流行遅れ・サイズ不適合(着用可) → 地域のフリマイベントで販売・交換
                  → 学習教材として提供(専門学校含む)
                  → NPOなどへの寄付
                  → 自治体や企業が回収   
●リサイクル店が受け付けない(着用可)→ 地域のフリマイベントで販売・交換
                   → 学習教材として提供(専門学校含む)
                   → NPOなどへの寄付
                   → 自治体・企業が回収
●価格が低い、買い手がつかない(着用可)→ 地域のフリマイベントで販売・交換
                    → 学習教材として提供(専門学校含む)
                    → NPOなどへの寄付
                    → 自治体・企業が回収


 現状、中高年の中にはネットオークションやフリマアプリの利用に慣れていない人が一定数はいる。それが出品が面倒という気持ちにさせているわけだ。でも、不要になった服をそのまま廃棄すれば、ゴミを増やすことになるわけだから、やはりネットを利用した服の処分方法も学習しなければならない。

 また、ネットオークションやフリマアプリで買い手がつかないからといって、廃棄するのは時期尚早だ。不要の服でも着用が可能なら、リアルなルートで処分することも考えるべきだ。地域などで開催されるフリマイベントなどがそうだ。ここでは販売のみならず、同程度の品物との「物々交換」という手法もありだ。また、一般には浸透していないが、学校などへの授業の教材として寄付することも考えられる。小中学校の総合学習で「服は何からできているか」「一枚の布をどうやって立体化しているか」などを、解体することで学ぶことができる。



 ファッションのプロを育成する専門学校ならこうしたテーマをさらに突き詰めていくべきだし、素材やリサイクルの研究を行っている大学や研究機関に対しても、教材にしてもらえるなら有益なはずだ。そして、寄付という活動がある。フランスでは「循環型経済のための廃棄物対策法」の一環で、2022年1月から売れ残った衣料品の廃棄が禁止された。売れ残りは寄付やリサイクルにまわさなければならない。違反した場合は最大15,000ユーロ(約190万円)の罰金が科される。今後は個人の不要な服の廃棄も禁止されるかもしれない。

 では、どこが服の寄付を受け付けてくれるのか。これは処分する側が調べなくてはならない。寄付を受け付けて、必要な世界中の人に届ける活動を行っている団体である。まずは、Webサイトで各団体の活動内容を調べる必要がある。そして、「ここなら寄付してもいい」と思うところを選べきなのだ。また、本当に寄付した服が必要な人に行き届いているか。どのような地域で、どのように使われるのか。活動団体がサイトなどで公開していることを寄付する前に確認しておくことも重要だ。

 ここに来て、「グリーンフライデー」という持続可能な消費を啓発する活動も注目されるようになった。具体例を挙げると、さる11月11日、フリマアプリのメルカリとアパレル11社は啓発イベントをスタートし、リユースなど長く使える品質や普遍的なデザインなどの魅力を訴えた。また、メルカリは同22日から東京・原宿で衣料品のリユースや長期活用を促すグリーンフライデープロジェクトをスタート。これにはアダストリアなどが参加し、回収した衣料品を使ったファッションショーも開催した。

 また、会場では来場者が持ち込んだ不要な衣料品をアパレルなどが用意した衣料品と物々交換できる試みも実施された。これにはオンワードHD、ベイクルーズの衣料品やイオンの衣料補修店リフォームスタジオで回収したものが提供されている。メルカリでは男女の衣料品の国内取引が30.5%を占めており、これは2024年3月までの1年間に約5.2万トンの廃棄を回避する量で、日本で年間に破棄される衣料品の10%に相当するという。

 グリーンフライデーという活動は日本では緒についたばかりで、認知度はそれほど高くない。というか、活動やムーブメントの趣旨は、できるだけ衣料品の廃棄をなくしていこうということだ。11月には消費を促すブラックフライデーも実施され、こちらはすっかり定着した。ただ、食品などの日用品を除けば、低価格の衣料品は最初からコストダウンを図って生産されているものが少なくない。安価ですぐに買い替えられることを前提にしているため、長期利用にはそぐわないとも言える。つまり、リユース向きとは言い難いのだ。

 やはり、長く着ることができて、さらにブランド価値があれば、リユースなどの二次流通でも高値がつく。もちろん、服が割高になれば低所得者は購入できないという意見もあるだろう。だから、中古衣料など値ごろなものの二次流通を進めていくべきなのである。目先の消費喚起を狙って、格安の商品を販売するのではなく、リユースを想定して寿命の長い商品を生み出すこと。これが結果的には廃棄される服を減らすことに繋がるのである。

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買い取るから、買って。

2024-12-11 06:55:26 | Weblog
 一ヶ月ほど前、Jフロントリテイリング(以下、Jフロント)は、宝石・貴金属や高級時計、バッグなどの買い取り専門店「コメ兵」と合弁会社を設立し、ブランド品などの買い取り事業に参入すると発表した。合弁会社は傘下の大丸やパルコに買い取り店を出店し、顧客が持ち込んだ品物を買い取る。買い取った品はコメ兵に売却し、同店が販売することはない。品物の査定など店舗運営はコメ兵から派遣されたスタッフが行うが、Jフロント側は百貨店の外商客向けにサービスの利用促進や自宅訪問買取をアピールする。百貨店などのスタッフにブランド鑑定に必要な資格取得の支援も検討している。

 Jフロントでは、2024年3月から3ヶ月間、買い取りの実験店舗を大丸神戸店に出店。宝石貴金属やブランドのバッグなどを買い取る事業モデルの検証を行った。また、外商スタッフが顧客の自宅を訪れて買い取りを行ったところ、目標を超える申し出があったという。買い取った品物には状態が良いものが多かったことから、Jフロントにとって収益につながると判断。実店舗の出店にこぎつけた。1号店は2025年夏、大丸松坂屋に開業し、28年2月期までに同店やパルコの約20店に拡大する計画。また、テナントとして出店している既存の中古品買い取り店は期間が満了すれば契約を終了し、自店に入れ替えるという。

 ブランド品の買い取りについては、三越伊勢丹HDがすでに買い取り専門店の「なんぼや」を運営するバリュエンスHDと協業し、買い取り店の「アイムグリーン」を運営している。さらに都市型のショッピングセンターや駅ビルもテナントで買い取り店を誘致するなど、リユース市場の広がりに伴ってブランド品の買い取りは活況を呈している。ただ、品物を持ち込む客の側も、買取額はどこが一番高いかを見極めており、買取店は厳しい選別にさらされている。そのため、各社は査定無料、即現金渡し、LINEによる見積もり、買取額アップのキャンペーンなど、様々なサービスを打ち出して競争力を発揮しようとしている。

 リユース市場の規模は、2022年のデータ(リユース新聞推計)で2兆9000億円。対前年比7.4%増と13年連続で伸びている。これは同年の全国百貨店売上高(約5兆円)に比べても、6割に相当する規模だ。品目別では、衣料・服飾品が5119億円、ブランド品が3062億円、家具・家電が2747億円、玩具・模型が2119億円となっている。ブランド品を含めたファッション関連が約8000億円に達し、全リユース市場の3割近くを占めている。

 リユース市場の拡大を後押しするのが、メルカリなどのCtoC、いわゆる個人間取引だ。CtoCの売上高は2022年で1兆2485億円。10年余りで4割以上を占めるまでに成長している。BtoC(企業対消費者取引)は店舗販売が1兆643億円、ネット販売が5385億円と、全体の約55%を占めるが、市場拡大の勢いはCtoCの方にある。ブランド品などプロの鑑定が必要なものはBtoC、個人の不要品処分はCtoCに、販路が分かれていると考えられる。



 Jフロントが展開していく買い取り店はどうか。宝石・貴金属や高級時計、バッグなどの買い取りは、既存の買い取り店を自店と入れ替えることで継続していくという。だから、新店の業態内容はブランド品の衣料やバッグ、宝石・貴金属、高級時計の買い取りを主体にすると思われる。ただ、百貨店の大丸松坂屋と都市型ショッピングセンターのパルコでは客層が違うので、買い取る品目にも多少の差が生じるのではないか。



 一概にブランドの衣料といっても、アルマーニやグッチなど海外のラグジュアリーから国内の高級品までと様々。そこで、買取対象衣料の線引きをどうするかだ。パルコの地方店には古着店が出店しているが、これらは販売のみで買取はしない。高価なブランド衣料の買い取りについては、コメ兵の買い取り基準に添っていくのではないか。また、ブランドスニーカーについてはコメ兵が買い取り専門店を運営しているため、鑑定ノウハウを持っているはずだから、大丸松坂屋では展開が無理でもパルコの店舗なら受け付けるかもしれない。


ブランド買い取り店は寡占化し、選別されていく

 リユースの市場規模は2030年に4兆円規模に達する(リユース新聞予測)と言われる。百貨店が買い取りの店舗を構えるようになったのも、それだけ市場が拡大しているのならビジネスとして十分成り立つとの目論見からだ。加えて顧客が高齢化している中、百貨店としては顧客の自宅に眠る宝石・貴金属やバッグ、ブランド衣料などを現金化してもらうことで、新たな買い物を促す狙いもあるだろう。もう高級ブランドは必要ないにしても、デパ地下の食品、洋品やアクセサリー、インテリア雑貨は買いたい。ならば、その原資にしてもらえばいいわけだ。

 まさに、買い取るから、買って。百貨店の切実な願いではないだろうか。もちろん、客層がぐんと若返るパルコでも、本音は同じだろう。Z世代のお客は新品を購入する前に、中古価格を調べると言われている。つまり、中古価格が高い商品なら新品でも売れる傾向にあるということだ。自店でそうした商品を買い取れば、Z世代のお客はそれを原資にして新品を購入してくれるかもしれない。このサイクルをうまく作って行くことがビジネスになるのである。



 一方、闇バイトによる強盗事件が多発している。犯罪者は高齢者宅には金目のものがあると踏んで闇バイトの実行犯をリクルートし、強盗に差し向けている。また、犯罪とは言わないまでも、不要品を買い取ると謳って高齢者宅を訪れ、ブランド品を安く買い取る押し買いなどのケースも増えている。中には、不要になった衣料や靴を買い取ると電話をかけながら、自宅に来るとそれらには目もくれず貴金属はないかと居座り、見せると難癖をつけて代金を支払わないで持ち去ったり、苦情は言わないと誓約書に署名させる業者もいるという。

 本来なら消費者保護の観点から、特定商取引は法律で規制されている。突然訪問し勧誘すること、事前に承諾した物品以外のものを売るように迫ることはできない。契約時には書面の交付が必要で、交付時から8日間は無条件でクーリングオフできる。にも関わらず、業者側はあの手この手で法律の隙を突き、巧妙に宝石・貴金属やブランド品を安く買い叩いていこうとする。筆者の自宅にも一度、業者が来て上記と同じような態度で迫ってきたが、たまたま当方が居たので魂胆を見透かし、法律を盾に追い返してやった。

 ブランド品の買い取り店は乱立気味だ。つまり、買い取り店は寡占化しているわけで、お客の側に選別されている状況とも言える。買い取り事業者はサービスや利便性の面で差別化しようと、店舗を構えるだけでなく自宅まで買い取りに来てくれる。いわゆる、出張買取だ。Jフロントがこれから大丸松坂屋やパルコに出店していく買い取り店がどこまでサービスを展開するかはわからない。ただ、高齢者としては百貨店の外商がブランド鑑定の資格をもつスタッフを連れ立って、自宅まで来てくれるのならありがたい。何より顔馴染みなら安心だし、百貨店という信用も後押しになる。



 パルコは別にして大丸松坂屋では店舗買い取りを原則としつつ、外商顧客には出張買取のサービスも有りにするのではないか。そこで、重要なのが買い取りで得た資金をいかに自店での商品の購入に繋げていくかの二次的な施策だ。せっかくの資金が他店で商品を購入されたのでは意味がない。しかも、買い取るにはキャッシュが不可欠だ。百貨店グループの信用力があるとは言え、買い取りと購買がうまくシンクロしなければ、キャッシュフローは生まれない。そこでポイントで支払うという手法も考えられる。

 大丸や松坂屋、パルコは共にポイントカードを発行している。カード会員に対して買い取り額アップのキャンペーンを実施し、全額ポイントにして付与することで囲い込むこともできるだろう。当然、Jフロントとしても想定してはいると思うが。

 不況の長期化で中間層が没落し、貧困層が拡大。高額な商品が売れないデフレ禍が続いてきた。しかし、安価ですぐに買い替えられる品物は、リユースされ難いことから買い取りは難しく、廃棄に回りやすい。それが環境に負荷をかけているとも考えられる。マーケティング会社のミトリズが実施した衣替えに関する調査でも、不要になった服の処分については「ごみとして捨てる」が20代以下で70.8%、30代で67%、40代で69.4%、50代で78.2%、60代以上で77.2%と、圧倒的に廃棄される傾向にある。

 また、リサイクルショップなどで買い取られても低価格で販売されるため、リユース市場の拡大という点では限定的だ。特に低価格の不要衣料は実店舗で対応すれば、人件費などコスト負担が重荷になるため、買い取り価格を抑えなければならない。多くのお客はリサイクルショップでの「衣料品の買取額は何十円程度」と学習しているから、メルカリなどで処分しようとする。個人売買でフリマアプリが主流になっているのはそうした理由もある。

 ただ、ここに来てフリマアプリによる個人売買でトラブルが発生している。購入者が品物が破損していたとか、機器が作動しないなどの理由で返金を求める一方、品物を全く違うものにすり替えて送り返すケースだ。被害者がSNSに投稿したことで、同じ経験をした利用者からもコメントが寄せられ、#メルカリ詐欺がトレンド入りした。今回のケースは、プラモデルやスマートフォンだったようだが、今後衣料品でも詐欺が起きないとは限らない。メルカリ側は最終的に出品者に対して補償を行ったようだが、当初は「個人間の取引には責任を負わない」と突っぱねている。

 Yahoo!オークションもそうだが、ネットによる不要品取引では間に人間が入らないことでトラブルが発生するケースがある。宝石・貴金属やバッグ、ブランド品の買い取りにもAIを活用するところが出始めているが、多くの事業者は鑑定資格をもつ専門スタッフの手を借りている。やはり高価なブランド品の買い取りは、人間が対面で当たることで安心や安全が担保される。そうした運営には百貨店グループの方が向くだろう。また、買取額が高いことで市中に流れる資金が大きくなるから、新品の購買を促す契機にもなる。マクロ的に見ると、中古品になっても再利用に十分足り得る商品を生み出すことがリユース市場の拡大につながるわけだ。



 エルメスのバッグは中古でも高額で販売され、訪日外国人が好んで購入している。そこにはブランド価値が高いこともあるが、職人による手作りでリアぺサービスが充実し、長く愛用できることもある。子供や孫へと引き継いでいけるからだ。分解掃除が可能な機械式高級時計、リメイクが可能な宝石・貴金属も同じ次元だと言える。ブランド品だから二次流通が可能になるというだけでなく、寿命が長く再利用を前提に生産された商品なら、次のユーザーにも商品価値を理解してもらえる。宝石・貴金属や高級時計、バッグの買い取りビジネスは、そうした視点を持って取り組むことも重要ではないかと思う。

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来福買服のコリアン。

2024-12-04 06:56:58 | Weblog
 今年は猛暑、残暑が続いたため、秋冬物のPOP UP STOREの開催を後ろ倒しにするメーカーがあった。お客としては通販サイトなどで先買いしても、実際に着るのは随分後になる。だから、在庫さえあれば十分なのだが、メーカーはそうはいかない。すでに抱えている在庫はできるだけ現金化しないと運転資金が枯渇する。さらに顧客の先買いで卸先で完売したものは、追加オーダーされる可能性もある。だが、バイヤー側は期末に売れ残る可能性もあるから、時期的な見極めが難しい。11月に入っても暖冬が続いている点が非常に悩ましいのだ。

 だから、自らPOP UP STOREを開催して、お客に現物を試着してもらうなどして、卸先とバッティングしないエリアで新規客の発掘や購入に誘うところもある。いわゆるDtoC(ダイレクトツーコンシューマー)だ。以前ならメーカーは取引先のショップに配慮して直販することはなかったが、そうした業界の不文律も少しずつ変わってきている。メーカーが体力を無くせば商品供給が滞って、店側も売るものが無くなるリスクがある。多くのお客さんに商品を知ってもらうには、小売店に卸すだけでは限界がある。共存共栄、ウィンウィンとなるには、長年の慣行も少しずつ見直す必要があるようだ。

 卸先とバッティングしないエリアのお客さんを開拓することも重要だ。先日もあるメーカーのPOP UP STOREが開催されたので行ってみた。東京、名古屋、大阪などの主要都市を巡るキャラバン型で、福岡でも2日間にわたって開催された。担当者の事前説明では、「自社の通販サイトでは、10月の末くらいに秋冬物の全ラインナップが完了します。でも、ネットでは素材感や着心地はわからないので、ぜひPOP UP STOREで現物を見て確認して欲しい」とのことだった。



 このメーカーはエッジを効かせたデザインではなく、あくまで上質な国産素材を使用したミニマルなアイテムを創り出している。POP UP STOREにラインナップした商品については、その路線を継続しているものの、生地にもう少し組織変化があってもいいのではと感じた。デザインに特徴がないので生地があまりにフラットだと、着た感じがペタとしてメリハリのない体型の人間には少し厳しい。それでも人気があるようで、多くのお客さんがつめかけていた。

 福岡というエリアは地勢学的に韓国を中心にしたアジアからの旅行者も多く、その中には国内の専門店系アパレルの服、いわゆるドメスティックブランドを好んで買っていく人が増えている。今回のPOP UP STOREにも、韓国の旅行者らしき若者が数人来ていた。外国人からすれば、メジャーなブランドなら東京や大阪のファッションビルでも買うことができるが、地域のセレクトショップが好んで扱うようなアイテムは足で探さなければならない。

 だから、まずはメーカーのサイトでめぼしいアイテムをピックアップし、取り扱いショップ情報を入手する。そして、旅行で来日した時に立ち寄って現物を確認し、気に入れば購入することがあるようだ。そうした商品を製造販売するメーカーがPOP UP STOREを開催してくれると、いちいちショップを巡る必要もなくダイレクトに商品を見たり、試着したりすることができる。だから、旅行ついでに効率よくウィンドウショッピングを楽しめるわけだ。そして、
気に入ったのなら、帰国した後に通販サイトで購入すればいい。

 最近では訪日外国人でも若者は日本の古着を買うようになっているが、中でも洋服好きは日本人と同じように専門店系アパレルが作るアイテムに惹かれている。まあ、日本人の若い女性が比較的近い韓国を訪れ、化粧品やファッションを購入するのだから、逆に韓国の若者が地理的に近い福岡を訪れ、モード感のあるミニマルな服を買うことは当然あり得るだろう。



 POP UP STOREを開催したメーカーだが、地域のセレクトショップを中心に卸してきたきたため、価格より質を追求している。そのため、海外のメジャーブランドよりは安いが、日本のSPA系に比べると割高に感じる。プライスゾーンは秋冬物のシャツで20,000円~30,000円、パンツが18,000円~23,000円、ジャケットが30,000円~40,000円、コートが50,000円~60,000円になる。海外のラグジュアリーブランドに比べると手頃なのだが、デフレが続いた日本の金銭感覚からすると、やはり割高さは否めない。

 それでも、わざわざ韓国の若者がPOP UP STOREに合わせて日本を訪れているのだから、単に商品を見るだけというよりは、明らかに購入目的ではないか。日本は生活必需品の物価高騰で実質賃金が目減りしている中、政治は103万円の壁だの、税収が7億円減少だのと賑やかしい。だが、韓国の若者の中にはそんな日本とは違って、欲しい商品には惜しげもなくお金を使うものがいる。それは景気が良くて収入がアップしているのか、それとも元々富裕層なのかはわからない。ただ、単にメジャーで高額なブランドを購入するのではなく、上質な素材を使った服に惹かれるのは、洋服好きが本物志向に移っている証左と言える。


地勢学的なメリットを生かし市場を拡大

 訪日外国人が日本製の服を購入する具体的な理由は、価格に対してクオリティが良いことだ。例えば、東京の銀座や表参道のメーンストリートで見かけるのは、海外のラグジュアリーブランドがほとんど。だが、商品の価格はシャツでも最低で50,000円台。パンツは同80,000円~100,000円。ジャケットになると150,000円を下らない。いくら円安とは言え、よほどの富裕層でない限り手が出せない。ブランドだからと飛びつくのは、ファッションに対し成熟していない中国人の富裕層くらいではないか。

 それに訪日外国人はリピーターになってきている。福岡を訪れる韓国人もそうだ。海外旅行というより、少し遠出する感覚で買い物やグルメを楽しんでいる。リピーターになれば、ショッピングについても学習する。ブランドだからとか、高級品なら安心という条件は薄れていく。どんなアイテムが自分に相応しいか。実際に自分の目で確かめる。もちろん、予算の範囲内というか、この価値でこの価格なら買いか、買いでないかを判断する。そんな感じだろう。

 だから、前出のメーカーのようなアイテムだと、商品の価格はラグジュアリーブランドの半額以下から3分の1だ。おまけに生地は上質で、デザインはミニマルだから、色んなアイテムとコーディネートしやすい。それだけお値打ち品に感じるはずだ。そう考えると、日本を何度も訪れたことがある韓国人ほど、理にかなった服の買い方に移っていると思う。韓国に近い福岡は、洋服の購入について学習し成熟してきたお客を捉えるには、絶好の立地。メーカーや小売り側にも外国人向けの対応が求められる。



 福岡天神周辺は新型コロナウィルス感染が5類に移行して以降、観光客が以前にもまして増えているように感じる。天神ビッグバンの仮囲い前で立ち止まっているのは、スマホの地図アプリで目的地を探す外国人ばかり。再開発の槌音と飛び交う外国語が福岡天神の今を象徴する。大名界隈の古着ショップを訪れる若者の中に外国人が増えているというのは前にも書いた。一方で、あるセレクトショップのオーナーは、店の売上げの1割ほどを訪日観光客が占めるようになったので、来年は2割くらいまで伸ばしたいと語っていた。

 そのために何をするのかと尋ねると、「店のHPを英語のほかに韓国語、中国語のバージョンも作らないといけないかもね」と、オーナーは答えた。以前に日本のショップを紹介する韓国のHPがあったが、それを翻訳機能で変換するとぐちゃぐちゃな日本語になった。その逆のパターンもあるだろうから、正式な外国語版のHPは検討する余地があるだろう。以前、福岡アジアファッション拠点推進会議が活動していた時には、福岡におけるファッション情報の発信を目的にポータルサイトが制作されたが、全く機能することなく数年で閉鎖された。

 やはりサイト制作は各個店が独自でやるべきだ。自治体などが費用を拠出すると、利害関係者が事業を目的化してしまう。地元ファッション産業の振興などどうでもよく、利権を得られればいいからだ。福岡は小売りの街である。アパレル関連では、地元に根ざした専門店やセレクトショップなどが鎬を削っている。オーナーバイヤーが市場の動向に目を光らせ、トレンドが合致すると感じたら、迅速に品揃えに反映させていく。そうしたショップやアイテムを訪日観光客の洋服好きは見逃さない。でも、仕入れた商品だけで目の肥えたお客を捉えるのは限界がある。メーカーのPOP UP STOREの定期開催は必要だろう。



 福岡のファッション市場がアジアに広がっているという点は好ましい傾向だ。米国ではトランプ大統領が米国ファーストを公約に二度目の政権に就いたことで、いろんな経済対策に乗り出していくようだが、日本で一番注目されるのは為替の変動だ。就任直後は円安、ドル高のままで、大きな変化は見られなかった。今後も円安で推移していけば、訪日外国人の活発な消費は続くと見られる。ただ、アパレルについては買い方の変化が見られるだけに、自店の品揃えの中で、外国人をどう捉まえていくかが重要になる。

 加えて一時的なトレンドを追いかけるだけでは、長続きしない。韓国人はともかく、中国人のブランド買いが今後も続くとは限らない。日本、福岡の市場でも、メガヒットが生まれなくなっているからこそ、先のメーカーのように卸だけでなくDtoCのチャンネル整備も必要だ。トレンドはブームが去るのも早いが、熱狂的なブランドのファンが残り続けても、市場がそれ以上広がることはない。SNSでのファンコミュニティ内で収まってしまうからだ。

 日本の消費者は食品の値上げで衣料品への支出をセーブしている。2023年12月の国内消費者物価指数の被服及び履物、いわゆる服と靴は前年同月比3.0%増だった。この数値は総合指数の上昇率(同2.6%)を上回った。暖冬で秋冬衣料が苦戦する一方、薄手の夏物やスニーカーが消費を牽引したと見られる。それは消費者がどこにお金をかけるか、それだけシビアになっている証左でもある。

 コアなブランドファンと一般消費者の服に対する熱量は明らかに差があるわけで、これ以上拡大することはあり得ない。もちろん、ユニクロのように万人受けするブランドはもう必要ではない。だからこそ、価格対価値に軸足を置き、マスにはならなくとも地道にファン客を掘り起こす商品や品揃えがカギになるわけだ。ミニマムなコミュニティ市場の発掘というべきか。それには日本人だけでなく、外国人のファンも捉えていく。

 日本のアパレルの価値を知り始めた外国人に積極的にアプローチしていくことは、これからますます重要になる。自社のものづくり、自店のアイテムを好んで買ってくれるのなら、日本人も外国人も関係ないのだから。

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