HAKATA PARIS NEWYORK

いまのファッションを斬りまくる辛口コラム

リ・デザインが擽る。

2024-09-18 06:45:07 | Weblog
 9月も半ばを過ぎたが、残暑は収まりそうもない。これでは秋物どころか、冬物の売れ行きに影響を与えるのは確実だ。というか、例年のように9月に入っても高温が続いているのだから、メーカーも小売りも企画の段階から完全に考え直し始めている。色は別にしても素材やデザインを見直し、暑秋、暖冬を前提にした軽めのものにシフトしている。仮に寒くなった時は、インナーに梳毛のニットを着てもらうなどのレイヤードで乗り切る。少しでも着膨れを抑えるスタイルにするしかないだろう。

 暑秋、暖冬への企画の摺り寄せは、傍流では少しずつ始まっている。10年ほど前だったか。端境期に「ジレ」(Gilet、フランス語でベスト)のロングタイプが登場した。トップスとボトムスだけではカジュアル過ぎるが、ジャケットを羽織るには暑い。そこで、合わせるアウターを襟なし袖なしのコート丈にして、街着として着こなせるようにしたのがジレだ。透かし編みやジャカード織などがあったと記憶する。今では夏場のアイテムでも定着し、近年では立ちポーズでニュース原稿を読むテレビキャスターが着ているのを見かける。冷房が効いたスタジオ内ではファッション性だけでなく、体温維持には有効なのだろう。



 また、2015年くらいには、アウターで「コーディガン」が流行した。こちらはコートとカーディガンを組み合わせた造語。英語のカーディガンも前合わせだから、フランスではメーカーによってジレの範疇に入れているところもある。素材はニットやダブルジャージ、ダブルフェイスがあり、スポーティ&スリムなシルエットで着膨れもしない。ボタン無しものは着脱が容易で、軽く羽織れるところが人気に火をつけたようだ。ニットオンニットの着こなしでは保温効果が高まるため、暖冬が続く九州では真冬の1~2月でも着ている人を見かけた。秋冬シーズンを通したアイテムになったのは確かだ。



 メンズではコットンニットの前身頃や肩を中綿仕様(キルティング)に切り替えたジップアップがあった。リンキングの過程で、左右の前身頃と両肩を布帛にしたものだったと思う。冬に入っても高温が続けば、ウールよりもコットンの方が肌触りはいい。ただ、キルティングなら風が冷たくなっても寒さよけにはなる。その後、前身頃を硬めのコットンギャバに切り替えたものも登場した。インナーにロンTや保温肌着を着れば、ジップアップだからジャケット感覚でも着られる。アウターにダウンやレザーを合わせられるから、秋冬を引っ張れるアイテムとして企画されたと思う。黒だけでなくブライトカラーを作れば、シーズンレスになる。
 
 ニットの切り替え仕様では、ウールとレザーのものも登場している。こちらはタートルのニットをベースの前身頃をレザーに切り替えたダブルジップ仕様だった。確かレザーアイテムに強いイタリアのラグジュアリーブランドが「Wool And Leather Cardigan」というアイテム名で企画したものではなかったかと記憶する。素材はピュアヴァージンウールとラムレザーの組み合わせ。デザインとしては特に目新しいものではないが、素材使いという点では確かにラグジュアリーブランドが企画しそうである。

 小規模なレザーメーカーでも、同様の企画をしたところもある。やはり肌触りにこだわってウール部分をカシミヤにし、革の部分は柔らかいラムレザーだった。カシミヤをわざわざ海外まで調達に出かけたという話も聞いた。こちらは端境期向けのアウターというより、カーディガンの延長線にあるようなアイテムかと。また、レザーはどうしてもライダースなどアウター企画が固定化しているので、目先を変える意味でもチャレンジしたのではないか。メンズアイテムは定番のデザインが多いので、遊びのあるデザインを企画すれば、暑秋、暖冬であっても着てみようという気にさせるのではないかと思う。

 デザイナーズブランドは顧客の先買いで持っている。デザインや生地調達の段階からデザイナーが作りたいものを重視するきらいがあるので、暑秋、暖冬をそれほど意識はしていない。ただ、これだけ暑いと、気温に合わせた企画をいかにクリエイティビティに仕上げるかも、デザイナーの腕の見せ所ではないかと思う。気温に合わせた素材の選定や暑さを凌ぐ工夫などが求められるわけだ。日本はその昔、中国から着物が渡来しても、温暖湿潤の気候に合わせて袖口を大きく広げたり、襟足をV字下げたりして暑さ対策を施してきた。デザイナーズブランドにも、異常気象に対する工夫=クリエイティビティも必要ではないかと考える。


ジェケット以上コート未満の企画



 2024年秋冬のレディスものの展示会では、一気に広がりそうなのがジャケットとコートの中間に位置付けられる「ジャコット」。こちらも暖冬傾向が続くと予想される中で、コードほどは重たくなく、ジャケットよりも防寒機能を充実させる企画としては、定番になりそうな予感がする。これまでにもロングジャケットとか、ライトコートと呼ばれていたこともある。暖冬が続くのは間違いなさそうだから、ネーミングの目新しさがメディアで取り上げられると、ヒットアイテムに躍り出ることはありそうだ。

 一例を挙げると、中綿入りのツィードやナイロン、段ボールニットを使って企画したメーカーがある。やはりライトメードでありながら、寒くなっても暖かさは提供できる。メンズの切り替えニットと同じように中綿は防寒になるし、段ボールニットも空気の層ができるので蓄熱性や保温力が増す。素材の限界を超えて仕上げたのがボンデッドのジャコットを作り上げたところもある。肉厚を捨ててライトメードにこだわる上で、ハリ感を出す意味でボンディングにたどり着いたのだろう。アウターなら型崩れしないことも条件になる。

 レディスの重衣料ではメンズと違い、いろんな素材が使われてきた。メーカー各社は暖冬傾向が強まってからは、コートはウール系のオーバーからポリエステル混紡など軽めにしたライトメードにシフト。さらに素材にオイルコーティングを施したり、ライナーをつけて防寒対策にしたりと工夫を凝らしたこともあった。近年はデザイナーズブランド全盛期にも企画されていたダウンコートがリバイバルしている。ただ、どれもマイナーチェンジの域を出ず、デザインとしても目新しさは欠いていた。



 やはり、使える素材は次々と新しいものが開発され、デッドストックを加える無尽蔵にある。また、異素材を貼り合わせる「ボンデッド」や色に変化をつける「グラデーション」処理を施すなどの加工法もあり、ジャコットという名称だけでなく素材のバリエーションで目新しさを出していくのも一つの手だろう。先日のコラムにも書いたが、毛皮やファーはフェイクであっても名称使用の規定はない。見た目は毛足の長くて毛皮っぽいが、ポリエステル素材のシャギーもあり、それを使用したジャコットを企画したメーカーもある。

 海外メーカーでは、ポリエステル素材のシャギーを使用しても、フェイクではなく「Fuzzy Coat」の名称をつけたものがある。動物愛護の観点から毛皮衣料への根づいよい反感が強いこともあるが、かといってフェイクをつけるにも抵抗があることからファジー(曖昧な)をつけたのではないかと見られる。業界でいうファジーは、服飾分類に当てはまらない中間の要素を持つアイテムで使われる。だが、気候変動で暑秋、暖冬という環境を考えると、オーバーシーズン&ゾーニングという意味にも合致するかもしれない。

 9月に入って秋冬物について語ってもあまり意味はないと言われそうだが、売場を見るとそれほど目を引くようなアイテムはない。商品の動きがイマイチなら、やはり来シーズンに向けて検討の余地はある。どうしてもリアルクローズで無難な路線をいきたくなるが、やはりレディスはデザインや素材で変化をつけないと、シーズン鮮度が強調されない。買い手にとっても面白くないのだ。暑さが続けば、スタイリング提案も説得力を欠くので、キーになるアイテムで仕掛けていくことが重要ではないか。

 メンズでも洋服好きは秋冬はヘビーな重衣料をかっこよく着こなしたい。気温に関係なく背筋がピンと伸びるアウターを欲するのも確かだ。そう考えると、暑秋、暖冬ではコットン系の素材がカギになると思う。トレンチコートが時代を超えて愛されているのは、風除けのダブルブレスト、顎を覆って寒さを凌ぐチン・ウォーマー、ガンパッチやエポレットなどミリタリーで求められた実用性が街着でファッショナブルに投影されたからだと思う。おまけに厚手のコットンだからスリーシーズン着用できる。こうした汎用性の高いアイテムをベースにジャコットを考えていくのもありかもしれない。

 レディスでは丈を短くリ・デザインしたトレンチコートが端境期や暖冬のアイテムとしてクローズアップされたこともある。メンズでも暖冬から梅春に向けてのアイテムとして仕掛けても面白いのではないかと思う。ともあれ、暑秋、暖冬を前提にした企画がもはや通年で必要な様相になってきた。異常気象に対する工夫=クリエイティビティ、リ・デザインで洋服好きのおしゃれ心を擽る企画がますます求められている。


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