HAKATA PARIS NEWYORK

いまのファッションを斬りまくる辛口コラム

廃棄減らすデジコミ。

2022-05-11 07:07:23 | Weblog
 中小零細のアパレルでは商品をいかにPRするかが課題だ。大手アパレル、ナショナルブランドほどの資金力がないので「メディアバイイング」、いわゆるテレビCMや新聞・雑誌、駅貼りのポスターなどマス媒体の枠を押さえた広告宣伝ができない。

 まして広報担当のプレスを置いているところはなく、企画や営業が仕事と並行してメディアでの取り上げを画策する。手っ取り早いのは出版社の編集者、フリーのファッションライターやスタイリストと親しくなって、媒体料がかからない「パブリシティ(フリーパブとも呼ぶ)」を獲得して報道してもらうか、無償の記事タイアップを狙うかだ。

 筆者もアパレル、広告制作の両方を経験したことから、ファッションPRの仕事に携わったことがある。ただ、始まりはすでにマンションアパレル時代にあった。大学時代の友人からキー局に出入りするフリーアナウンサーを紹介されたため、逆に番組企画でファッションを扱う時は「うちの商品を取り上げてほしい」と、頼み込んだ。それは深夜枠で時間にして1分程度だったが、実現した。もちろん、マンションアパレルなど「何、そんなブランド、知らんなあ」と、けんもほろろに断られたことの方が多かった。

 ただ、こうした経験が広告業界では生きた。メーカーからバーターで商品をリースし、撮影用の衣装や小道具に使ったことが何度もあった。制作予算が少ない仕事は提供社名をクレジット表記することでリース料を無償にしてもらったり、低額で借りたことがあった。

 PR会社ではブランドバリュ向上のためにパンフレット、DM、ビジネスカード、雑誌の入り広の制作に携わり、モデル撮影から物撮りまでのディレクションをこなした。プレスが差し出す商品が写真映えしないと感じたら、閉店を待って店頭の商品を借りに行き深夜に撮影して開店に合わせて返却することもあった。現像から上がってきたポジフィルムは、時間をかけてベストショットを選んだ。

 一方で、ことアパレルに関しては、マス媒体を使ったプレスプロモーション以上に効果があると知らされたのが、「口コミ」だ。いわゆる、お客さんの口伝に商品が宣伝されていくことである。これについては、広告会社時代に商品を借りたショップのバイヤーさんも以下のように語っていることから、業界では皆が感じていることだと思う。

 「服好きのお客さんはメジャーなブランドじゃなくても、素材が良くてエッジが効いて都会的なデザインを好む。だから、うちのショップで売れるのはおたくに貸し出す商品を含めて、マンションアパレルばかり。そうなったのは、お客さんが自分で着てみて『あのショップの、あのブランド、凄くいいわよ』って、友人や知り合いに口伝てで勧めてくれたから

 バイヤーさんはこっちが広告会社の人間だから、少し構えて牽制したのかもしれない。だが、当時、ショップに品揃えされていた商品は確かにメジャーではないが、いかにも洋服好きの女性が好みそうな尖ってスパイシーなテイストを持っていた。それにイタリア製のなんかの上質な生地が使われていたので、柔らかいけどコシがあって型崩れしない。最高級の商品ではないが、他人とは違うもの、自分のセンスにあったものを着たい女性にはウケていた。



 もちろん、ブランドは展示会受注方式のよる国内生産。企画から生産、管理までコントロールされ、マーチャンダイジングもしっかりしていた。デザインで奇を衒うわけではなく、かといって野暮ったさは微塵もない。一貫しているのは、アンチコンサバ。だから、そんな服が好きな女性は着ると凄く様になって見える。そんな人が周囲に伝えたり、メーカーを訪ねたくなるのもわかる気がした。

 筆者がショップのお客さんに聞いてみると、「私の友達がいつもお洒落な服を着ているので、どこで買ってるのと聞くと、このショップを教えてくれたの。実際に訪れて試着してみたら、すごく良くて。無名のブランドばかりだけど、一度好きになったお客さんはみんなリピートしちゃうみたいよ。私は取引先の人に『あなたも着たら』って勧めちゃった」との答えが返ってきた。

 もちろん、この話は昭和の終わりから平成にかけてのこと。今のようにネットなんて姿形もなかった時代にも、アパレルの情報発信はファン客から友人、そしてその知り合いへ口コミで伝わり、それが確実に売上げに繋がっていた。現在は口が「デジタル」に変わっただけで、「服を着た人の印象」が一番の「説得材料」になるのは、今も昔も変わらないのである。


SNSで繋がるファンのための服づくり

 ファン客とSNSでダイレクトにつながることで、服に対する要望をリサーチして服づくりを進める「D2Cブランド」が注目を集めている。こちらは大手のように大量に生産して売れなければオフプライスストアなどで消化、残りは廃棄処分するものではない。端から廃棄を無くすために、SNS上でファン客に対し事前に商品サンプルの写真を見せ、買いたいかどうかを投稿してもらう「online survey/オンラインサーベイ」という手法をとるところもある。

 買いたくないというお客が多ければ、商品化は却下される。もちろん、在庫消化のためのセールもしないし、現金化するアウトレットも必要ない。だが、アパレルにとってこうしたビジネスがいちばん難しい。サンプルを作る上で生地を反買いしていれば、商品化しないと生地が余り、商品化しても反潰しで生じる数量分が捌けるかどうかはわからない。注文分だけ生産すると高コストになって、価格が上昇する。確実に売り切れる分量での生産計画を立てなければ、D2Cアパレルの経営自体が成り立たないのだ。

 理想はサーベイの結果と実際に売れる数量がイコールになることだが、たとえAIを使ったところで正解は出ないと思う。とすれば、やはりファン客に現物を見てもらい、確実に着たいと確約を得る=先行予約の方向で進めるしかない。そのためには「実店舗を持つ」ことになる。デジタル+リアルの2ウェイコミュニケーションでファン客との関係を密接にするしか、需要予測の精度を上げることはできないのだ。



 幸いなことにD2Cアパレルは大量生産ではないから海外工場を押さえたり、発注が1年前になることもない。オンシーズンに近づけてサーベイを行って、「着たいアイテムは先行予約でゲットしましょう」と、ファン客の購買意欲をそそることができる。実店舗で予約会を開けば、客のテンションが上がるのは間違いない。店舗と言っても、百貨店が取り組み始めた「売らない店」を短期で借りれば、固定費も抑えられる。

 そんなD2Cアパレルに対し、某SPAの経営者は「完全に趣味の商売」と切り捨てた。しかし、クリエーションの延長戦上に服を置くデザイナーと、それをビジネスにしていくマネジメントの人間が程よくシンクロするところにD2Cアパレルの良さと強みがある。結果としてファン客が着たい服を買ってくれるから、高くても売れるのだ。

 むしろ世界的にSDGsが叫ばれている中、大量生産し売り減らすしかないSPAこそ大量廃棄の原因を作り出しているではないか。顧客の声に耳を傾けるマーケティング手法が環境負荷の低減につながるのは、自明の理だ。

 欧米ではZ世代の若者たちが使い捨てではなく、モノを循環させる社会を目指す取り組みを意識し始めている。低価格だからと、シーズン毎に「one night party dress」や「Life Wear」を購入する必要はないということ。そうした傾向が賢い大人たちでは、良いものを長く着る意識として浸透していくのも、時間の問題だろう。

 国を挙げた取り組みもある。フランスでは今年2月に公布した「循環経済に関する法律(loi anti-gaspillage pour une économie circulaire)」で、売れ残った新品の衣類を企業が焼却や埋め立てによって廃棄することを禁止した。立法の狙いは脱プラスチックや廃棄される製品の再利用を促し、大量生産・大量消費・大量廃棄型の社会構造を是正するためだ。今後はG7やG20でも参加国に同法の制定が求められるのではないか。マクロン大統領が再選されたことで、地球規模での環境負荷の低減を政権の旗印に掲げてもおかしくないからだ。

 さらに、フランス国内に店舗を展開するグローバルSPA(登記簿上の現地法人)に対し、最終的な売れ残り在庫に対する「引き当て税」を課すことも考えられる。最初から商品が売れ残ることを前提に損失分の資金を積み増すのなら、まずは売れ残りを出さない努力にカネを使えという理屈だ。こうした税法も大量廃棄の元になる大量消費、大量生産を根こそぎ撲滅するためには必要ではないか。

 毎シーズン、トレンドを生み出すモード文化こそ大量廃棄の元凶だとの反論もあるだろう。だが、フランスは2040年に環境負荷が高いと言われるガソリン車を全面禁止する政策を進めている。だから、文化を理由にアパレル産業だけを保護すれば、ダブルスタンダードになってしまう。マクロン政権なら法整備に動いても不思議ではない。

 D2Cアパレルは、デジタルコミュニケーションでお客さんのウォンツをダイレクトに吸い上げながら商品づくりに反映していく点が今らしい。だが、基本的なフローはマンションアパレルに近いと感じる。そして、D2Cの画期的な点は社会問題となっている大量廃棄をなくすことに取り組むこと。後に続くところが出てくることに期待したい。
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