すずりんの日記

動物好き&読書好き集まれ~!

小説「アジア人の怒り」①

2005年02月24日 | 小説「アジア人の怒り」
 これは、警告である。私は、ここで死ぬのを待つばかりだが、死ぬ前に、重要なことを書き残さなければならない。――――無駄かもしれない。例え私がここで何かを書き残して死んでも、この遺書が誰かの手に渡るには、・・・その誰かは、その時既に死を待つだけになっているかもしれない。そう、この私のように。
 そして、その誰かがこのことに何かを感じ、遺書を書き残して死に、また違う誰かが、死ぬためにその遺書を手にする。・・・もう、時間が無い。―――これは、警告である。

 私はこの山麓に、大学時代の仲間と来た。リーダー格の留学生、ジムと、登山は初めての宮本と、私の3人である。ジムと私は、登山歴は長いものの、この山麓に来たのは初めてで、特に注意を払って、麓の村人とコースをよく検討した。そしてその結果、今進んでいる道が一番安全であるということになったのだ。ただし、ただ1ヵ所を除いては、だが・・・。
 ジムは、山の中腹まで来て、いきなり口を開いた。そして、すぐ後ろを歩いていた私に、さっき村の人が言っていた“洞穴”の話は本当だろうか、と言った。ジムは普段、英語をろくに話せない私たちのために日本語で会話をするので、私も、さぁ、と一言、日本語で答えた。私の後ろを、息を切らせながらついて来ていた宮本は、先程のコース選びの打ち合わせに加わっていなかったので、私たちに、その“洞穴”について詳しく話すように急かした。ジムは、リーダーらしく、私たちの足を止めて、足元の岩場に腰を下ろすように言った。そして、村人の話を、ジムが語り始めた。

(つづく)
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