おっちーの鉛筆カミカミ

演劇モノづくり大好きおっちーのブログです
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そのうち、みなさんにお目にかかれたらうれしいです

ダイスパニック

2008年12月02日 00時00分03秒 | 文章塾
 そこは大きなホールだった。
 沢山の人々がテーブルについて騒ぎながら、何かしている。
 何をしているのだろうか? カチャカチャ小さな物が当たり合うような音もしている。
 男女2人のペアが…どうやらサイコロを振っているようだ。
 一心不乱に何度も振り直す。
 その度に一喜一憂。
 歓声があがる毎に、周りはそれに反応する。
 すごい眼で声のした方を睨み付ける。
 そして即、それぞれ印象深い独特の迫力で、またサイコロを振り直す。
 その繰り返しである。

 ある瞬間、一際大きい叫び声が聞こえると、次第に部屋の中は静かになり、音がしなくなった。
「…おめでとうございます! トップはこの御夫婦です!」
 若い夫婦が壇上に上がり、ハニカミながら他の客に軽く会釈する。
「賞金1億円はあなた方のものですよ!」
「ありがとうございます」
 夫婦は深々と頭を下げた。
 他の参加者は落胆の表情。
「それでは続いて第2位…1千万を目指して頑張っていただきましょう!」
『ザワザワ…』

 また全員がカチャカチャと振り始めた。

「1千万円はこのご夫婦!」
「3位…百万円の賞金はこのお2方の頭上に輝きました!」
 ゲームは終わった。
 夫婦のペアで20面サイコロを振って、ゾロ目が出たら賞金がゲットできるこの企画。
 豪華客船たいたにっく号の中で開かれた、金持ちの道楽である。

「大金貰っちゃったな」
「百万なんていざ使ったらすぐに無くなるわ」
 実はこの2人、本物の夫婦ではなかった。
 特に男の方は3等客室で旅する貧乏美大生である。
 女は金持ちの令嬢。2人はこの船の旅で出会い、恋に落ちた。
「でも『1』が7つ揃った時には寒気が走ったわね」
「俺達、ツイてるよ」

 この先、この客船で起こる悲劇を、2人は想像すらしない。
 そして、その過程で2人の絆がどんなに深まるかも。
 2人は知らない。

 ちなみに、あのゲームで1位をとった夫婦は『4』のゾロ目、2位の夫婦は『13』のゾロ目で賞金を手にした。
 この夫婦達の運命を、作者は知らない。


   *  *  *


 「第30回文章塾という踊り場」お題「ぞろ目」「いいふーふ」への投稿作品です。〆切は、2008年11月22日でした。
 塾生の皆さんから寄せられたコメントと、それに対する僕のレスはこちらから。