田中雄二の「映画の王様」

映画のことなら何でも書く

『シネマディクトJの映画散歩』アメリカ編 イタリア・イギリス編 『サスペンス映画の研究』(植草甚一スクラップ・ブック)

2018-12-29 18:00:36 | ブックレビュー
 1950年代の映画の小型パンフレットを集める中、再会したのがパンフに載っていたJ・J氏こと植草甚一さんの映画紹介だった。


 
 学生の頃、この晶文社の『植草甚一スクラップ・ブック』を何冊か読んだが、その後処分してしまっていた。折り良く、古書店で見付けたので、懐かしさもあって再読してみた。

 ウィリアム・ワイラー、ビリー・ワイルダー、ジョセフ・L・マンキーウィッツ、ジョージ・スティーブンス、ジョン・ヒューストン、エリア・カザン、ジュールス・ダッシン、ロバート・ワイズ、シドニー・ルメット…。40から50年代の彼らの監督作が生き生きと語られている。

 そして、J・J氏の映像に対する描写の見事さ、分かりやすいうんちくの披露、文学の知識の深さにいまさらながら脱帽させられた。特に『サスペンス映画の研究』ではグレアム・グリーンについても語られていたので、先に読んだ『グレアム・グリーン ある映画的人生』の文章に欠けていたものが、全てここにあったという感じがして、ちょっと胸のつかえが下りた。

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『グレアム・グリーン ある映画的人生』(佐藤元状)

2018-12-29 07:56:49 | ブックレビュー
 『第三の男』(49)の原作者としても知られる英国作家グレアム・グリーン。映画評論家としても活躍した彼の小説と映画との関係を明らかにしながら、文学と映画の関わりについて考える。惹句は、小説家と映画の終わらない「情事」。



第一部 トーキーの夜明け

第一章 ミドルブラウ(英国中流)のアダプテーション(脚色)空間
『スタンブール特急』(グリーン)と『オリエント急行殺人事件』(アガサ・クリスティ)

グリーンの小説と映画との関係、あるいはアブロブリエーション(盗用)について。
『上海特急』(32・ジョセフ・フォン・スタンバーグ)
『Rome Express』(32・ウォルター・フォード)
『Turksib』(29・ビクトル・トゥーリン)
『グランド・ホテル』(32・エドマンド・グールディング)


第二章 風刺としての資本主義批判
『ここは戦場だ』と『自由を我等に』

グリーンと、同時代の優れた映画監督との邂逅、あるいは映画を介した創造的なコミュニケーションについて。
『恐喝』(29・アルフレッド・ヒッチコック)
『巴里の屋根の下』(30・ルネ・クレール)
『自由を我等に』(31・ルネ・クレール)
『モダン・タイムス』(36・チャールズ・チャップリン)


第二部 ジャンルの法則

第三章 メロドラマ的想像力とは何か
『拳銃売ります』と『三十九夜』

グリーンとヒッチコックの近親相姦的な愛憎関係について。スクリューボールコメディの影響について。
『間諜最後の日』(36・アルフレッド・ヒッチコック)
『サボタージュ』(36・アルフレッド・ヒッチコック)
『三十九夜』(35・アルフレッド・ヒッチコック)

『影なき男』(34・W・S・バンダイク)ウィリアム・パウエル
『或る夜の出来事』(34・フランク・キャプラ)クローデット・コルベール

第四章 聖と俗の弁証法
『ブライトン・ロック』と『望郷』

グリーンのカトリック小説に影響を与えた映画について。
『美しき野獣』(36・ラオール・ウォルシュ)メイ・ウエスト
『Children at School』(37・バジル・ライト)
『この三人』(36・ウィリアム・ワイラー)
『望郷』(37・ジュリアン・デュビビエ)


第三部 映画の彼方へ

第五章 プロパガンダへの抵抗
『恐怖省』と『マン・ハント』

グリーンの小説とプロパガンダ映画について。
『拳銃貸します<未>』(42・フランク・タトル)
『戦慄のスパイ網<未>』(39・アナトール・リトバク)
『ライオンの翼<未>』(39・マイケル・パウエル)
『激怒』(36・フリッツ・ラング)
『マン・ハント』(41・フリッツ・ラング)
『恐怖省』(44・フリッツ・ラング)


第六章 男たちの絆
『第三の男』と『ヴァージニアン』

『第三の男』と西部劇の関係性について。
『第三の男』(49・キャロル・リード)
『駅馬車』(39・ジョン・フォード)
『無法者の群れ』(39・マイケル・カーティス)
『平原児』(36・セシル・B・デミル)
『テキサス決死隊』(36・キング・ビダー)
『ヴァージニアン』(29・ビクター・フレミング)
ゲーリー・クーパー

 フランク・キャプラやルネ・クレールの映画、あるいは西部劇を好んだというグリーンの意外な一面や、『第三の男』と西部劇との関係性が浮かび上がるなど、知的好奇心が大いに刺激されるテーマではあった。映画研究書としては貴重であり、大変な労作であるとも思うが、筆者の文章スタイルに最後までなじめなかったのが残念だった。
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