明治時代末期から大正時代にかけて、茨城・日立鉱山の亜硫酸ガスによる煙害に対して、当時世界一となる大煙突を建設した人々の姿を描く。原作・新田次郎。監督・脚本は『天心』(13)の松村克弥。
足尾鉱毒事件の田中正造代議士の半生を描いた『襤褸の旗』(74)のような、日本の近代を背景にした社会派劇。国策・殖産工業に伴い、雇用などで地元も潤うが、同時に自然破壊や公害、事故なども発生するという、原発と同様の縮図がここにもあったことが分かる。そして、理想と現実のはざまで、企業と地元住民が一体となって事にあたり、よい結末を得たという希有な例が明かされる。
新田次郎原作映画は、1970年代後半にブームがあり『八甲田山』『アラスカ物語』(77)『聖職の碑』(78)と作られた。最近では『劒岳 点の記』(09)があるが、これらに共通するのは、実話を基に、極地や山岳地を舞台にして、世間からは黙殺されながらも何事かを成し遂げた、あるいは徒労に終わった無名の男たちを描くというテーマである。この映画も、無名の男たちという部分は重なるが、一種のハッピーエンドを迎えるところがこれまでのものとは大きく違う。こうした知られざる歴史を描く映画はもっと作られてもいいと思う。