『紳士協定』(47)(1992.12.)
反ユダヤ人主義を告発する記事を書くため、自らユダヤ人であると装ったルポライター(グレゴリー・ペック)が直面する社会の実態を描く。エリア・カザン監督作。
第二次大戦直後にカザンらが高らかに歌い上げたデモクラシー賛歌。ここではユダヤ人差別が描かれるが、人種差別に対する普遍性という意味では、今でも十分に訴え掛けてくるものがある。
この時期、戦地から戻ったウィリアム・ワイラーが
『我等の生涯の最良の年』(46)を、フランク・キャプラが
『素晴らしき哉、人生!』(46)を、というように、戦後の空気がデモクラシーを盛り上げ、この後どうしたら幸せな社会が築いていけるのかという命題を、それぞれの監督がそれぞれの形で提示したのだが、こうした動きは“一瞬の幻”で終わる。何故ならアメリカはこの直後、冷戦や赤狩りという暗黒時代に突入するからだ。
カザンは密告者となり、母親役を好演したアン・リベアは赤狩りの犠牲となって、事実上映画界から抹殺された。また、日本ではアメリカの暗部を描いたこの映画の公開は1980年代の後半まで待たねばならなかった。そうした事実を知った上で、今改めてこのデモクラシー映画を見ると、複雑な思いがするのは否めない。
エリア・カザン&セレステ・ホルム
グレゴリー・ペック
ドロシー・マクガイア