田中雄二の「映画の王様」

映画のことなら何でも書く

『地獄の戦場』

2019-06-10 17:49:59 | 1950年代小型パンフレット
『地獄の戦場』(51)(2012.10.2.)



 第一次大戦を描いた反戦映画の名作『西部戦線異状なし』(30)を撮ったルイス・マイルストンが、硫黄島の戦いをモデルにしたとも思える、第二次大戦中の“ある島”をめぐる日米の攻防戦を描く。

 リチャード・ウィドマークの少尉が率いる部隊は、カール・マルデン、ジャック・バランス、ネビル・ブランドらくせ者揃い。彼らのぶつかり合いを見ているだけでも面白い。もっとも、明らかにスタジオのセットで撮られたと思われるシーンも多く、加えて兵士たちの市民生活や彼らが抱えるトラウマの理由が回想として挿入されるから、舞台劇のような印象を受けるのだが、見ていると、この映画の見どころは実は戦闘シーンではなく、兵士たちの心理描写にあると気付くことになる。

 
 そしてこの手の映画の定石として、果たして誰が生き残るのかというところに興味を持たせる。ただ、ラストで神の存在や信仰の尊さを説いたところには違和感が残った。残念ながら日本軍の描き方は、最近の『硫黄島からの手紙』(06)などとは比べるべくもない。一兵卒に化けた日本軍の将校が、実は明大の有名野球選手だった…というのはおかしかった。


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『賞金稼ぎ』

2019-06-10 10:29:57 | 映画いろいろ
 日本映画専門チャンネルで「ゴジラ特集」の前になぜかこの珍品を放映。
『賞金稼ぎ』(69)(1980.10.20.)



 徳川9代将軍・家重(鶴田浩二)を大将と呼ぶ浪人・錣市兵ヱ(若山富三郎)が、オランダ船の出現によって険悪になった幕府と薩摩の対立を阻止せんと暗躍する姿を描く。監督は小沢茂弘。

 東映時代劇末期の一本。よって、時代劇と任侠映画の間のような感じになっており、マカロニウエスタンのにおいすら感じさせる。もはや明朗活発だった過去の東映時代劇群の面影は薄い。

 若山演じる賞金稼ぎは、時に仕込み杖を使うなど、座頭市のようなところもあり、兄が弟(勝新太郎)をまねているようで面白い。また、薩摩の家老を演じた片岡千恵蔵と晩年のジョン・ウェインの姿が重なって見えた。どちらも過去に演じたヒーローとしてではなく、滅びゆく者としてである。

 この映画は、汐路章の妖しい中国人など脇役たちが楽しいのだが、その中で最も印象に残ったのは、薩摩の侍でありながら、市兵ヱを「先輩」と呼んで慕う藤九郎を演じた潮健児だった。テレビドラマ「悪魔くん」の2代目メフィストや「河童の三平」のイタチ男、「仮面ライダー」の地獄大使などの珍演が記憶に残る彼である。もとは古川ロッパ一座にいたというのだから、喜劇畑の人でもあるのだ。

 潮健児については『星を喰った男』という聞き書き本がある。

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『エゴン・シーレ/愛欲と陶酔の日々』

2019-06-10 08:21:27 | 映画いろいろ

 昨日の「日曜美術館」は「エロスと死の香り」~近代ウイーンの芸術 光と影~と題して、グスタフ・クリムトとエゴン・シーレについて紹介していた。それで、昔こんな映画を見ていたことを思い出した。



『エゴン・シーレ/愛欲と陶酔の日々』(80)(1983.3.9.スバル座)

 この映画にはエゴン・シーレ(マチュー・カリエール)とグスタフ・クリムトが登場するが、自分にとっては、この映画の前に、ニコラス・ローグの『ジェラシー』(79)の存在がある。あの映画で初めてシーレとクリムトの絵を見たからだ。

 また、この二つの映画は時代背景も登場人物も全く違うのだが、どちらも凝った映像の中で過去と現在とが入り乱れ、主人公のモノローグが多用され、男女の愛の不可思議さが描かれ、映画全体に退廃的なムードが漂い…と、共通点も多いのだ。

 ところで、この映画の場合は、一歩間違えればポルノチックに陥りかねない題材を、一人の芸術家が苦悩する姿として描き切っているところが良かった。

 先日『作家マゾッホ 愛の日々』(80)を見た時にも感じたのだが、いわゆる芸術映画とポルノは紙一重で、どこで区別するのか分からない映画も多い。実際『作家マゾッホ~』の場合は、芸術映画っぽいソフトポルノという感じになっていて、成功作とは言えなかったのだが、この映画は、性への欲望を、絵によって正直に表現しようとした一人の男の心のドラマとして仕上がっていたと思う。

『ジェラシー』
https://blog.goo.ne.jp/tanar61/e/ffb3a82504af584a6c80804dc91170b5

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