舞台は、1851年のゴールドラッシュに湧く米西部。シスター姓の殺し屋兄弟イーライ(ジョン・C・ライリー)とチャーリー(ホアキン・フェニックス)は、提督を名乗るボスの命令で、川内の金を発見するための薬品の化学式を知るウォーム(リズ・アーメド)と連絡係のモリス(ジェイク・ギレンホール)の行方を追う。
米・仏・スペイン、ベルギー、ルーマニアの合作であるこの映画の監督はフランス人のジャック・オーディアール。このところの、異邦人が撮った何本かの西部劇には、正直なところストーリーにも風景にも違和感を覚えさせられたのだが、この映画はひと味違った。
それは、兄弟がオレゴンからサンフランシスコに向かう道中を描くロードムービー的な要素があることが最大の理由だが、撮影のブノワ・デビエが35ミリのフィルムで撮ることにこだわったためか、主にスペインやルーマニアでロケされたにもかかわらず、昔のマカロニウエスタンに比べれば、ずっと米西部らしく見えるのも大きなポイントだ。
またストーリー的には、金を巡る4人の男たちの物語と聞いて、見る前は、ジョン・ヒューストンの『黄金』(48)のような話を想像したのだが、いい意味で裏切られた。何だか西部のホラ話(トール・テール)を見ているような気分になるのだ。
パトリック・デウィットの原作『シスターズ・ブラザーズ』は、そもそもタイトルとなった主人公の名前の設定がふざけているし、向こうではミステリーでありながらユーモア賞の候補になっているぐらいだから、トール・テール的な雰囲気の中で、金欲が生む人間の滑稽さやウォームの山師的な側面を描いているのではないかと思われる。
オーディアールは、映画化に当たって、原作の兄弟の設定を入れ替え、ウォームをヨーロッパからアメリカに移住してきた社会主義者の前身として描くなど、原作を大幅に改変してはいるが、トール・テール的な雰囲気だけは残した。そこがこの映画を西部劇たらしめている理由だと感じた。
また、この映画は、モリスの日記、馬、ショール、歯ブラシなど小道具の使い方が印象に残るし、兄弟の母親をニューシネマ時代の名脇役キャロル・ケイン、提督をルトガー・ハウアーが演じているのも面白い。オーディアール監督には今まであまりいい印象を持てなかったのだが、この映画でちょっと見直した。
『黄金』