『新・男はつらいよ』(70)(1989.6.13.)
山田洋次以外の監督が撮った番外編的な寅さん映画が2本ある。もちろんそのことは知っていたが、男はつらいよ=山田洋次というパターンが確立され、盆暮れと年2回の恒例行事ともなると、この2本はあまり日の目を見なくなり、映画館にもテレビにもかからず、やっとビデオで見ることができた。
とはいえ、見る前は、正直なところ、いまさらと高をくくっていたのだが、見終わった今、驚きを隠せない。通常とは一味違い、細々としたエピソードを羅列し、盆暮れという季節感にも捉われることもなく自由な感じで作られ、このシリーズの本来の姿である喜劇として成立していた。中でも、ハワイ旅行未遂事件のエピソードは最高! 最近のシリーズはペーソスが多過ぎて見るのがつらいのだ。
そこには寅さん=渥美清と今は亡き森川信のおいちゃんの見事な掛け合いがあり、佐山俊二、財津一郎、二見忠男ら喜劇畑の名優たちの小芝居も楽しめる。それに加えて、テレビシリーズを手掛けてきた小林俊一ならではの、ドラマのエピソードを積み重ねていくようなうまさも見られた。チンピラみたいでガラの悪い寅さんの姿も今から見ると新鮮に映る。
とはいえ、森川信や佐山俊二らはすでに亡く、笠智衆はただ顔を出すだけになり、渥美清もやつれた。そして、寅さんがはぐれ者ではなく国民的なヒーローになってしまった今となっては、この頃のパワーやおかしさが出せるはずもない。だから、この映画にしても、ただの懐かしさだけで見てしまうところがあるのだ。
確かに、20年近くもシリーズを作り続けてきた山田洋次をはじめとするスタッフ、キャストには、感謝の意を込めて拍手を送りたいが、今この全盛期の映画を見てしまうと、森川信が亡くなった時に打ち切る手もあった、という一ファンのエゴが出てきてしまう。まあ、その後のシリーズにも随分救われたところがあるから、矛盾するのだけれど…。