『男はつらいよ 寅次郎物語』(87)(1988.1.7.銀座松竹 併映は森崎東の『女咲かせます』)
今回は、子供との二人旅ということもあって、久しぶりに渡世人としての車寅次郎の寂しさや切なさが前面に出て、笑いを抑えた、少々苦いものに仕上がっている。
子供の母親を捜す旅の話と聞いた時は、前田陽一の傑作『神様がくれた赤ん坊』(79)を思い出した。
また、シリーズ中異色の感もあり、山田洋次がこれをどのように描くのか、という興味とともに、寅さんが子供と旅をすることによって、自分自身の子供時代をたどることにもなるかもしれないと、期待したのだが、それは冒頭の夢の部分にとどまり、その点では、期待外れだった。
だが、満男と寅の「伯父さん、人間はなんで生きているのかな」「あ-生まれて来て良かったなって思うことが何べんかあるだろう、そのために人間生きてんじゃねえのか」という問答の形で示される山田洋次流の人生論は、毎度おなじみの、と言ってしまえばそれまでだが、作家がそう信じて語っているだけに説得力がある。
これは、例えばフランク・キャプラの映画にも通じる偉大なる楽観主義であり、山田洋次の頑固さを改めて知らされた思いがした。