田中雄二の「映画の王様」

映画のことなら何でも書く

『男はつらいよ 寅次郎夕焼け小焼け』

2019-09-26 11:55:35 | 男はつらいよ
『男はつらいよ 寅次郎夕焼け小焼け』(76)(1984.4.10.月曜ロードショー)


(1994.5.)
 飲み屋で貧相な老人と意気投合した寅次郎。実はその老人は日本画の巨匠・池ノ内青観だった。2人は兵庫で再会するが、寅は地元の美人芸者ぼたんに一目惚れする。
 
 『男はつらいよ』シリーズ史上、この映画が最もフランク・キャプラの映画を感じさせる、という話を耳にしたので、久しぶりに見てみた。確かに、ラストで宇野重吉扮する青観が示す心意気が生む奇跡は、甚だキャプラっぽいと言えるかもしれない。
 
 今回は、物故者の多さに愕然とさせられた。思えば20年前の映画だものなあ。中でも、粋な芸者のぼたんを演じた太地喜和子は、マドンナの中で唯一の物故者になってしまった。ぼたんは、リリー(浅丘ルリ子)とともに、寅と一緒になれる可能性を感じさせるキャラクターとして忘れ難い。時折、三橋美智也の「星屑の街」をほうふつとさせる、山本直純作曲の「ぼたんのテーマ」も、ぼたんのキャラクターとよく合っていた。
 
 播州・龍野から東京の青観に向って合掌する寅とぼたんの姿は、通常とは一味違う、名ラストシーンとして記憶に残る。
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

『悪童 小説 寅次郎の告白」(山田洋次)

2019-09-26 10:38:47 | 男はつらいよ
 10月からNHKで放送されるドラマ「少年寅次郎」の脚本・岡田惠和への取材前に、その原作となった本書を読んでみた。
 
 
 本書は『男はつらいよ 寅さんDVDマガジン』に連載された「けっこう毛だらけ 小説・寅さんの少年時代」を、改稿、加筆し、単行本としてまとめたもの。『男はつらいよ』シリーズの中では描かれなかった車寅次郎の生い立ちを、本人が語る一人称形式で描く。
 
 映画の設定とは微妙に違うところもあるが、戦中、戦後を背景に、若き日のおいちゃんとおばちゃん、幼少期のさくらの様子、若き日の御前様が寅の養母の光子(映画には登場しない)に惚れていたこと、『続・男はつらいよ』に登場した寅の恩師の坪内散歩先生や、寅の幼なじみの子どもたち(映画には登場しない)の生活ぶりなど、興味深いエピソードが描かれていた。
 
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

『男はつらいよ 寅次郎子守唄』

2019-09-26 06:05:34 | 男はつらいよ
『男はつらいよ 寅次郎子守唄』(74)(1981.10.3.ゴールデン洋画劇場)


 この映画には、まだ心の底から笑える寅さんがいた。最近はどこかに哀れさを感じさせられて心の底から笑えない。「あー寅さんも年を取ったなあ、昔はこんなことはなかったのに…」と思うことがしばしばある。
 
 その点、この映画はシリーズの円熟期の一本だから、スタッフ、キャストともに油が乗り切っており、古典落語を聴くような、分かり切ったおかしさに満ちている。
 
 例えば、寅さんが自分の葬式について思いをめぐらせる場面。おかしいのである。笑えるのである。だけど今の寅さんにこのセリフを吐かせたら、おかしいだけでは済まない。切羽詰まったものを感じて、素直に笑えないのではないか、という気がするのだ。
 
 十朱幸代のマドンナにふられるお決まりのラストにしても、「あーまたか」で笑って済むのだが、最新作の『浪花の恋の寅次郎』では、何と松坂慶子のマドンナに対して恨み言を述べるのである。
 
 まあ女にふられて恨み言の一つも言わない男なんていないのかもしれないが、やっぱり黙って去っていく寅さんの方がいい。なぜって、俺たちにはできないことを寅さんが見せてくれて、そんなところから生きる勇気を与えてもらったりもするのだから。
 
 こんなふうに、古い寅さん映画を見ると、どうしても今の寅さん映画と比較して見てしまう。これはよくないことだとは思いつつ…。
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする