田中雄二の「映画の王様」

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『男はつらいよ 寅次郎純情詩集』

2019-09-27 10:41:00 | 男はつらいよ
『男はつらいよ 寅次郎純情詩集』(76)(1983.10.16.日曜洋画劇場)


 この頃のこのシリーズは、最近のように落ち込みを感じさせることもなく、毎度おなじみの古典落語を聴くような、平均した面白さを保っていた。特に、シリーズ中何度か登場する坂東鶴八郎吉田義夫)を座長とする旅芸人の一座と寅さんを絡めるエピソードは、ユーモアとペーソスにあふれ、山田洋次ならではのいい味が出ている。
 
 加えて、この映画はシリーズ中、唯一年上のマドンナの綾(京マチ子)が死んでしまう。病を得た彼女のために、献身的に尽くす寅の姿は、第二作『続・男はつらいよ』(69)で、恩師の坪内散歩先生(東野英治郎)に対して寅が示した優しさにもつながるものがあり、寅のおかしくも悲しい姿が描かれる。
 
 そして、そこに一座による「不如帰」の芝居を入れ込み、名セリフ「人間はなぜ死ぬのでしょう」の答えを、綾と寅の問答として披露する。そこから山田洋次の死生観が浮かび上がるという、シリーズ中、異色のテーマを持った作品として、印象深いものになった。

京マチ子「寅さん、人間はなぜ死ぬのでしょうねえ?」
https://blog.goo.ne.jp/tanar61/e/964ae097468b9de67ec73799e5becae9
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『男はつらいよ 寅次郎相合い傘』

2019-09-27 09:15:51 | 男はつらいよ
『男はつらいよ 寅次郎相合い傘』(75)(1988.7.29.金曜ロードショー)


 久しぶりの再見。最近、いまだに続くこのシリーズの価値や魅力を再確認させられながらも、同時にレギュラー陣の老いに寂しさを感じさせられるのも否めないのだが、10年あまり前のこの映画ではみんながまだはつらつとしている。加えて、リリー=浅丘ルリ子が登場する3作はいずれも出来がいいから、久しぶりに、「男はつらいよ」本来の面白さを楽しむことができた。
 
 なぜリリーが出るとこんなに出来がいいのか、と考えてみた。それは、流れ者の寅と唯一同じ世界に生きる女性であり、ほかの高根の花のマドンナたちとは違った味わいがあるからだろう。
 
 そして、何度見ても「これは名場面」と言えるのが、この映画の“たかがメロン一個”から生じる小競り合いである。こうした庶民の持つ悲哀といじましさを見ると、笑いながらも、同時に、自分たちの姿を見せられたような気になってぎくりとさせられる。山田洋次と寅屋一家が作り出した屈指の名場面である。
 
 加えて、最近寅屋一家の中で、前田吟が演じる博の淡々とした存在感の大きさに気づいてきたのだが、この映画でもそれは遺憾なく発揮されており、騒々しい寅、ひたすら耐えるさくら、おろおろするおばちゃん、怒るおいちゃんの姿と相まって、一家が奏でるアンサンブルの妙味を楽しむことができるのだ。
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