『男はつらいよ 寅次郎純情詩集』(76)(1983.10.16.日曜洋画劇場)
この頃のこのシリーズは、最近のように落ち込みを感じさせることもなく、毎度おなじみの古典落語を聴くような、平均した面白さを保っていた。特に、シリーズ中何度か登場する坂東鶴八郎(吉田義夫)を座長とする旅芸人の一座と寅さんを絡めるエピソードは、ユーモアとペーソスにあふれ、山田洋次ならではのいい味が出ている。
加えて、この映画はシリーズ中、唯一年上のマドンナの綾(京マチ子)が死んでしまう。病を得た彼女のために、献身的に尽くす寅の姿は、第二作『続・男はつらいよ』(69)で、恩師の坪内散歩先生(東野英治郎)に対して寅が示した優しさにもつながるものがあり、寅のおかしくも悲しい姿が描かれる。
そして、そこに一座による「不如帰」の芝居を入れ込み、名セリフ「人間はなぜ死ぬのでしょう」の答えを、綾と寅の問答として披露する。そこから山田洋次の死生観が浮かび上がるという、シリーズ中、異色のテーマを持った作品として、印象深いものになった。