『男はつらいよ 私の寅さん』(73)(1980.10.15.水曜ロードショー)
またまた大いに笑わされた。そしてほのぼのとした気分になった。実に貴重なシリーズである。
今回は、面白いというよりも、ちょっと変わった場面があった。それは、寅屋の一行が旅行に出掛け、寅さんが留守番をするくだりだ。
いつもは旅先から帰ってきて、迎えられる立場の寅さんが、皆の身を心配し、不在を寂しがり、あげくは、皆疲れて帰って来るだろうからと、飯の支度をしたり、風呂を沸かしたり…。おかしさの中にふと哀れさがにじみ出る名シーンとなった。
そして、寅さんは、しばらくはまた地道な暮らしを試みるのだが、岸惠子演じる画家の登場でそれはもろくも崩れる。
柄にもなく芸術について考える寅さん。その転換の早さ、マドンナが現れるとコロッと態度が変わるおかしさ。毎度のことながら、そのタイミングの良さや間の取り方には感心させられる。
結末は、またも悲しい失恋に終わるのだが、このシリーズがくどくならないのは、寅さんの引き際の良さにある。振られた時はこうありたいものだ。
名セリフ「『別れの曲』…やっぱり旅人さんの歌でござんしょうね」(寅)