『男はつらいよ純情篇』(71)(1978.11.1.水曜ロードショー)
シリーズ第6作。マドンナは亭主とうまくいかず、寅屋に下宿した若尾文子。前半は渥美清と森繁久彌の掛け合い芝居が楽しめる。とは言え、この映画の白眉はラストの寅とさくらの柴又駅での別れのシーンだ。
ホームに電車が入線し、乗り込む寅。発車間際にさくらに向って「故郷ってやつは…故郷ってやつはよ…」と言ったところでドアが閉まる。さくらは「お兄ちゃん、今何て言ったの」と聞くが、すでに電車は動き出してしまった。観客も寅が何を言いたかったのか分からないままなのだが、それが余韻となってかえって切なく心に残る。このシリーズの大きなテーマの一つである「故郷とは?」が色濃く出た作品だ。
『男はつらいよ 柴又慕情』(72)(1972.8.荏原武蔵野館)『男はつらいよ 寅次郎恋やつれ』(1974.8.27.荏原武蔵野館)
子供の頃、近所の武蔵小山に荏原武蔵野館という邦画専門の映画館があった。ここで東宝の『ゴジラ』シリーズや大映の『ガメラ』シリーズや『大魔神』シリーズ、そして学校行事で『日本万国博』(71)などを見たのだが、実は『男はつらいよ』シリーズを初めて見たのもここだった。
それは、吉永小百合演じる歌子がマドンナとなったシリーズ第9作『男はつらいよ 柴又慕情』(72)で、併映はドリフターズの『祭りだお化けだ全員集合!!』だった。森川信の死去によって、この映画から松村達雄が2代目のおいちゃんとして登場し、歌子の父親の小説家を宮口精二が演じた。
また、くしくも荏原武蔵野館でのラストショーとなったのが、吉永が再登場した、シリーズ13作目の『男はつらいよ 寅次郎恋やつれ』(74)。同時上映は同じくドリフの『超能力だよ全員集合!!』だった。
そして『柴又慕情』では大学生だった歌子が、わずか2年後の『寅次郎恋やつれ』では結婚後、夫と死別している。自分自身も小学生から中学生になり、全く環境が変わっていた。
という訳で、初めて寅さん映画を見た映画館のラストショーが寅さん映画になり、マドンナはどちらも吉永小百合と、偶然が重なった。だから、この2本は映画以外の部分でとても印象に残っているのだ。