田中雄二の「映画の王様」

映画のことなら何でも書く

『アーヤと魔女』

2021-04-10 07:25:35 | 新作映画を見てみた

アーヤがただの小賢しい少女にしか見えない

 『ハウルの動く城』(04)の原作者でもあるダイアナ・ウィン・ジョーンズのファンタジー小説を、スタジオジブリが同社初の長編3DCGアニメとして映像化。昨年末にNHKで放映されたものに新たなカットを追加して劇場公開する。

 1990年代のイギリス。孤児院で育った10歳の少女アーヤ・ツール(声:平澤宏々路)は、誰もが自分の思い通りにしてくれる孤児院での生活に満足していた。だが、ある日、魔女のベラ・ヤーガ(寺島しのぶ)と彼女と共に暮らす謎の男マンドレーク(豊川悦司)に引き取られることになる。

 ベラ・ヤーガに魔法を教わることを条件に彼女の助手として働くことを約束したアーヤだったが、いくら頑張ってもこき使われるばかりで、ベラ・ヤーガは一つも魔法を教えてくれない。アーヤは、ベラ・ヤーガの使い魔の黒猫トーマス(濱田岳)の力を借りて反撃を始める。

 息子の宮崎吾朗が監督したこの映画について、企画に名を連ねる父の宮崎駿は「アーヤのしたたかさというのは、ずるいということじゃない。昔はみんな持っていて、なぜか無くしてしまったもの。こんな時代を生きるために、必要なことなのです」と語っているが、残念ながらこの映画ではアーヤがただの小賢しい少女にしか見えない。

 また、アニメの技術的なことはよく分からないが、テレビ放映したものを映画館で見せられても…、話が尻切れトンボ アーヤの母親役の声優がひどい、などマイナス面が多い。何よりイギリス流のブラックユーモアは見ていて気分が晴れない。

 息子としては、いろいろな意味で父との違いを出したいのだろうが、それが、かえって父の偉大さを知らしめることになる、と言ってしまっては酷か。

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『約束の宇宙(そら)』

2021-04-10 07:15:23 | 新作映画を見てみた

なかなか感情移入しづらい

 宇宙飛行士のサラ(エバ・グリーン)と幼い娘ステラ(ゼリー・ブーラン・レメル)のロケット打ち上げまでの日々を描いたフランス・ドイツの合作映画。撮影はNASAならぬESA(欧州宇宙機関)の全面協力の下、ドイツ、ロシア、カザフスタンの宇宙関連施設で行われたとのこと。

 この映画、アメリカ=ハリウッドが描く宇宙飛行士=ヒーロー物とは大きく違う。何より、宇宙に行くまでの話であり、ヒロインは自己主張が強く、身勝手なところもあり、なかなか感情移入しづらいのだ。

 その分、クルーの仲間のアメリカ人(マット・ディロン)とロシア人(アレクセイ・ファティーフ)、ドイツ人の元夫(ラース・アイデンガー)や世話係(サンドラ・ヒュラー)が好人物に見えてくる。このあたり、アリス・ウィンクール監督は、いささか人物描写のバランスを間違えたのではないかと思った。

 ただ、ラストクレジットに登場する歴代の女性宇宙飛行士たちの写真を見ると、この映画のヒロインであるサラを、彼女たちの代表、あるいは代弁者として描こうとした意図はうかがえる。

 坂本龍一の音楽は出しゃばらず、邪魔にならなず、好感が持てた。この点は、ハリウッド映画も見習うべきではないかと感じた。

 【付記】エバ・グリーンは『雨の訪問者』(70)などに出ていたマルレーヌ・ジョベールの娘なんだな。

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