大御所脚本家の橋田壽賀子が亡くなった。彼女の代表作といえば、「となりの芝生」「おしん」「渡る世間は鬼ばかり」などが挙がるのだろうが、正直なところこれらは苦手だ。とは言え、好きなドラマもある。
渥美清が毎回違う役をやる「泣いてたまるか」というドラマシリーズの中に、橋田が脚本を書いた「日本で一番もてない男」(67)という回があった。(1989.1.1.)
もてないサラリーマンの八田万作(渥美)は、社内のマドンナ的存在の絢子(佐藤オリエ)を妻に迎えるが、「こんな美人がなぜ俺のところに嫁に来た。過去に男がいたのではないか」と疑心暗鬼に陥り、猜疑心に悩まされるという話。ちょっと『アパートの鍵貸します』(60)をほうふつとさせるところもある。
最後に、絢子は、もてて母を苦労させた父親に対する反感から、自分だけを見てくれるであろうもてない万作に目を付けたと打ち明け、「私はあなたがもてない男だから好きなの」と告白する。
で、美しい佐藤オリエにこう言われたら、万作のように単純に喜んでしまうのかもしれないが、よく考えたら、これは随分屈折した皮肉な心情だし、見方によっては、相当意地が悪いとも思える。女性の本音や独自の視点、という意味では、橋田脚本さすがに鋭いと言うべきか。
「泣いてたまるか」(作詞・関沢新一、作曲・木下忠司)
https://www.youtube.com/watch?v=chf7mSgCUYw
「おんな太閤記」(81)
男性=武将が中心の戦国時代を、豊臣秀吉(西田敏行)の正室・ねね(北政所=佐久間良子)の視点で描いたユニークな大河ドラマ。
ねねを「おかか」と呼ぶ秀吉に象徴されるように、彼らを囲む、秀吉の母・なか(大政所=赤木春恵)、弟・小一郎秀長(中村雅俊)、姉・とも(長山藍子)、妹・朝日姫(泉ピン子)によるホームドラマとしての要素も強い。
中でも、秀長が重要なキャラクターとして登場したのはこのドラマが初めてで、彼の兄の片腕としての存在感、「兄者」という呼び方、ひそかにねねに寄せる思慕などは、後に『秀吉』(96)で高嶋政伸が演じたキャラクターにも引き継がれた。橋田壽賀子に先見の明あり。
橋田ドラマのテーマ曲と言えば、作曲は坂田晃一
https://www.youtube.com/watch?v=G1vyvz_WOHo