『激突!』よりも『ジョーズ』に近いか
美容師のレイチェル(カレン・ピストリアス)は、シングルマザーとして息子を育てている。この日も、息子を学校に送りながら、仕事に行かなくてはならないのに寝坊してしまう。その上、フリーウェイで大渋滞に遭い、電話で仕事のクビを宣告される。
仕方なく下道に降りると、交差点で信号が青になっても、前にいるピックアップトラックが動かない。イラついたレイチェルはクラクションを鳴らして、トラックを追い越す。
ところが、トラックが追ってきて、運転席の男(ラッセル・クロウ)が窓越しに話しかけてくる。男は先の一件を謝るが、レイチェルにも謝罪を要求する。レイチェルが拒絶すると、男は無謀なあおり運転でレイチェルを追い掛け始める。
原題は「UNHINGED=狂気、錯乱」。ぶくぶくに肥満したクロウがサイコ野郎を演じ、よくこんな役を引き受けたものだと思わせる。
ただ、レイチェルにも身勝手なところがあり、感情移入ができないところがミソ。何しろ、最初に煽ったのはこの女の方なのだから。それ故、これは単なる善悪の闘いではなく、もっと根深く、不条理な問題を描いていることが分かる。コロナ禍でイライラすることが多い今、いつ自分がこんなふうに、加害者や被害者になるかもしれないという怖さを感じた。
最初にこの話を知った時は、スピルバーグの『激突!』(71)を思い浮かべたのだが、実際に見てみると、もっと過激で病的なものだった。その意味では、どちらかと言えば、クロウ演じる男は『激突!』のトラック運転手よりも、『ジョーズ』(75)のサメの方が近いかもしれないと思った。