『荒野のホームズ、西へ行く/On the Wrong Track』スティーヴ・ホッケンスミス(ハヤカワ・ポケット・ミステリ)
(2010.2.16.)
西部劇、ミステリー、鉄道 まさに男が好む三役揃い踏みの快作。映像化したら面白いものになると思わせる快調なテンポと旺盛なサービス精神に酔った。前作の『荒野のホームズ』も読んでみなくては。
『鉄道探偵ハッチ/PLUGGED NICKEL=贋五セント玉』『草原の狙撃-鉄道探偵ハッチ/Red Cent』ロバート・キャンベル(文春文庫)
(2010.2.26.)
先に読んだ『荒野のホームズ、西へ行く』でも、アメリカの鉄道探偵という存在が面白く描かれていたが、鉄道探偵と言っても、これは犯人の緻密なトリックを暴く時刻表ミステリーではない。アメリカの中西部を走る列車を舞台にしたローカル小説といった趣がある。
この小説の主人公のハッチも、「もはや鉄道も自分も時代遅れの存在」と嘆くが、小説全体の流れも古風な感じでとても80年代を描いたものとは思えない。けれどもそこがいかにも探偵小説という感じがしていいのだ。
さて、探偵小説と言えば、1940年代のハリウッドを舞台にした「私立探偵トビー・ピータース(Toby Peters)」シリーズや、崩壊寸前のソ連を舞台にした「ポルフィーリ・ロストニコフ主任捜査官(Porfiry Rostnikov)」シリーズ、「刑事エイヴ・リーバーマン(Abe Lieberman)」シリーズなどで活躍したスチュアート・M・カミンスキーが昨年亡くなっていたことを遅まきながら知った。
トビー・ピータースものの短編「ルイス・ヴァンスを射った男」(The Man Who Shot Lewis Vance)と「枯れ行く花」(Busted Blossoms)を久しぶりに再読してみたが、面白かった。もちろん前者は『リバティ・バランスを射った男』、後者は『散り行く花』をもじったタイトル。というわけで殺人事件に巻き込まれるのはジョン・ウェインとD・W・グリフィスとなる。
「私立探偵トビー・ピータース」シリーズは、和田誠のイラストと翻訳(2作目まで)で、『ロビン・フッドに鉛の玉を(Bullet for A Star)』、『虹の彼方の殺人(Murder On The Yellow Brick Road)』、『我輩はカモじゃない(You Bet Your Life)』、『ハワード・ヒューズ事件(The Howard Hughes Affair)』、『吸血鬼に手を出すな(Never Cross A Vampire)』の5冊が日本でも出版されている。
事件に巻き込まれるのは、順にエロール・フリン、ジュディ・ガーランド、マルクス兄弟、ハワード・ヒューズ、ベラ・ルゴシとなる。カミンスキーは全部で24本のシリーズを書き、中には長編化された「ルイス・ヴァンスを射った男」もあるという。誰か翻訳してくれないものだろうか。