『ベルファスト』(2022.2.25.オンライン試写)
ケネス・ブラナーが、自身の幼少期の体験を投影して描いた自伝的作品。出身地である北アイルランドのベルファストを舞台に、宗教間の対立に翻弄される町の様子や、家族や周囲の人々とのふれあいの中で成長していく主人公の少年の姿などを、モノクロ映像で描く。
ベルファストで生まれ育った9歳の少年バディ(ジュード・ヒル)は、家族と友達に囲まれ、映画や音楽を楽しみ、充実した毎日を過ごしていた。だが、1969年8月15日、プロテスタントの武装集団がカトリック住民への攻撃を始め、穏やかだった日々は突如悪夢へと変わってしまう。
住民の多くが顔なじみで、一つの家族のようだったベルファストは、この日を境に分断され、暴力と隣り合わせの日々を送るバディの家族も、故郷を離れるか否かの決断を迫られる。
監督のブラナーはもちろん、父親役のジェイミー・ドーナンと祖父役のキアラン・ハインズ、音楽のバン・モリソンもベルファストの出身。母親役のカトリーナ・バルフもアイルランドのダブリン出身だ。だから、彼らにとってこの映画の物語は“自分たちの話”なのだろう。その彼らが皆素晴らしい演技を見せる。
ブラナーは「私の愛した場所、愛した人たちの物語だ」と述べているが、これは例えば、イギリス関係でいえば、ジョン・フォードの『わが谷は緑なりき』(41)やビートルズの「イン・マイ・ライフ」の歌詞とも通じるところがあると感じた。
ブラナーの分身であるバディ少年に、祖母(ジュディ・デンチ)がフランク・キャプラ監督の『失はれた地平線』(37)の思い出を語りながら、「おまえは本当に映画が好きなのね」と、彼の未来を予測するようなシーンがあったが、この映画にはいろんな映画のタイトルや場面が登場する。
テレビで見た「宇宙大作戦=スタートレック」(66)「サンダーバード」(65・66)、『リバティ・バランスを射った男』(62)と『真昼の決闘』(52)、家族と一緒に映画館で見た『恐竜100万年』(66)と『チキチキ・バンバン』(68)など。
ブラナーは、自分と同い年だから、映画やアポロ11号の月着陸などの思い出が重なるところがある。それがこの映画を甘酸っぱく感じさせる要因の一つになっているのかもしれない。