『松ヶ根乱射事件』(2007.1.18.DVD試写)
バカボンのおまわりさん
新作『松ヶ根乱射事件』公開に寄せて山下敦弘監督にインタビュー取材。何とも不思議な映画で、正直なところ個人的にはあまり好きになれなかったが、改めていろいろと話を聞いてしまうと、好き嫌いは別にして、人情というか、妙な感情が湧いてくるところが、この仕事のやっかいなところ。ラストのピストル乱射シーンは『天才バカボン』のおまわりさんのイメージなんだそうだ。
『天然コケッコー』(07)(2009.9.18.ムービープラス)
『松ケ根乱射事件』(07)公開時にインタビューしたとき「俳優の演技を1人でずっと見ていたい」と言っていた山下敦弘監督作。
この映画の舞台は島根の山奥の田舎町。ヒロインの右田そよ(夏帆)が通う分校に東京から転校生の大沢広海(岡田将生)がやってきて波紋を巻き起こすわけだが、シーンの長回し、引きの構図、田舎町、群像劇という点では『松ケ根乱射事件』と同じだ。
ただ、シュールだった『松ケ根乱射事件』と比べると、こちらは思春期の初恋物語としてきゅんとさせられるところもあるのだが、やはり整理不足と独りよがりなところがあるのは否めなかった。
『マイ・バック・ページ』(11)(2011.6.4.MOVIX亀有)
この映画の舞台となった1969~71年といえば、自分はまだ小学生。もちろん当時の全共闘運動の深部などは知るよしもないが、安田講堂陥落や朝霞事件については、ニュースとしては知っていた。たとえ小学生といえども、時代の空気は敏感に感じ取っていたと思う。
もちろん、原作者である川本三郎が朝霞事件に関係していたことはだいぶ後になってから知ることになるのだが…。そんな自分よりもさらに若い監督(山下敦弘)、脚本(向井康介)、キャストたちにとっては、まるで時代劇を作るような気分だったのではないだろうか。
ところが、この映画の場合は、あの時代を知らない世代が作ったことが逆に吉と出たと思う。何より、あの時代の当事者たちが語る暑苦しさや独り善がりの過度な思い入れを見せられずに済んだ気がする。
山下監督の登場人物たちへの思いを込めた長回しと、ラストの沢田(妻夫木聡)の涙と、「生きてりゃいいんだよ」のセリフが印象に残る。沢田は、多くの全共闘(団塊)世代とは違い、少なくとも自分のしたことに対して責任を取り、いまだに後ろめたさを感じながら心に負債を背負って生きている。そこにシンパシーを覚えるのだ。
【後記】妻夫木聡、松山ケインチ、山下敦弘監督によるティーチ・インを取材(6.8.アスミック・エース試写室)し、謎が解けた部分もあった。