田中雄二の「映画の王様」

映画のことなら何でも書く

『偽書「東日流外三郡誌」事件』

2022-02-21 13:57:49 | ブックレビュー

『偽書「東日流外三郡誌」事件』斉藤光政(新人物文庫)
(2011.6.14.)

 著者は東奥日報の記者。源義経=ジンギスカン説のように、青森に独立王朝があったという“偽物語”が広がった様子を追った実録もの。事件を解明していくところは、推理小説を読むような面白さがある。

 しかし、歴史にロマンを感じる、歴史にはこうあってほしいと思う理想像など、理由は多々あれど、なぜこうも簡単に、多くの人がだまされてしまうのかという疑問は残る。

 全体的にはスクープをものにした記者の自慢話と取れなくもないが、同じ東北人として、ところどころに”犯人"への愛憎をにじませるところに、ちょっとした救いがある。

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

『城盗り秀吉』(山田智彦)

2022-02-21 11:51:52 | ブックレビュー

『城盗り秀吉』(講談社文庫)
(2004.9.20.)

 この場合の“城盗り”は力攻めではなく、調略で城を奪うというもの。秀吉という人物は、天下人となるまでは、下賎の身から出世していく一種のすごろく人生で、庶民にとっては憧れであり、手本にもなる。なにより出世していく様が面白い。

 だが、後半生は、朝鮮出兵、身内や家臣を切腹させるなど愚行が多く、その一生を描くと矛盾だらけになる。人間は向上を望むが、身分不相応まで出世すると逆に破滅するという典型がここにあると思うとちょっと悲しいものもある。

 この小説は、秀吉の前半生から中盤、いわゆる旬の時代を、山の民という架空の存在をからめながら描いたもので、そんな矛盾をあまり感じずに読むことができた。まずまずの面白さ。

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする