『生きる LIVING』(2022.11.2.角川シネマ有楽町.東京国際映画祭)
今年の東京国際映画祭のクロージング作品。黒澤明の名作『生きる』(52)が、第2次世界大戦後、1952年のイギリスを舞台にしてよみがえった。『生きる』の主人公・渡辺勘治(志村喬)にあたるウィリアムズ役にビル・ナイ。脚本はノーベル賞作家のカズオ・イシグロ。監督はオリバー・ハーマナス。エイミー・ルー・ウッド、アレックス・シャープほかの共演。とにかくナイが素晴らしい。
時代設定を、わざわざ『生きる』が作られた頃と時を同じくすることで、同時期の日英両国の比較が楽しめ、「イギリスにも渡辺勘治がいた!」と思わせてくれた。
設定や物語は、ほぼオリジナル通りだが、例えば、勘治が歌う「ゴンドラの唄」は、ウィリアムズが歌うスコットランド民謡「Oh Rowan Tree(ナナカマド)」に変わり、日本独特の通夜の席での、酔った同僚たちによる会話と回想は、列車内での、葬式帰りの同僚たちによる会話と回想に変わっている。
蒸気機関車での通勤風景もあり、ウィリアムズとルー・ウッドが演じるマーガレットが一緒に映画(『僕は戦争花嫁』(49))を見るシーンもあった。オリジナルとは、国や習慣が違うので、こうした改変はかえって面白く感じられ、興味深く映った。
ただ、オリジナルの小田切とよ(小田切みき)の役にあたるマーガレットを、玩具工場ではなく、パブ勤めにしたことで、あの「課長さんも何か作ってみたら」という名セリフが消え、ウィリアムズの変心が唐突に見えるところが、ちょっと残念だった。
とはいえ、全体的に見れば、『羅生門』(50)に対しての『暴行』(64)、『七人の侍』(54)に対しての『荒野の七人』(60)、『用心棒』(61)に対しての『荒野の用心棒』(64)に匹敵するような、立派なリメーク作が出来たといっても過言ではない。
特に、207分の『七人の侍』を128分の『荒野の七人』としたように、この映画も、143分の『生きる』を102分とした。その整理の仕方が、また素晴らしかった。
一時、ハリウッドでトム・ハンクス主演で『生きる』のリメーク作の製作決定が伝えられたが、あちらはどうなったのだろう。今となっては、この映画の方でよかった気もする。
『生きる』
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