1983.3.17.『遠野物語』『おこんじょうるり』
『遠野物語』
柳田国男の原作は、民族説話集であり、この映画で描かれた時代とは何の関係もないらしい。ということは、スタッフ(監督・ 村野鐵太郎、脚本・ 高山由紀子)は、昔話を近現代(明治末期)に置いてみることによって、“近現代の遠野物語”を作ることを試みたのだろう。
しかも、これが今現在の遠野を舞台にして描かれたなら、全くの夢物語で終わってしまい、日本版のロミオとジュリエットのような男女の純愛話がしらけてしまったかもしれないが、時代を明治にすることで、違和感を少なくしている。
そして、幻想的な伝説や、江波杏子演じる巫女の姿、あるいは仲代達矢の琵琶法師の世界と、階級差、貧富の差、戦争が引き起こす現実の悲劇を交差させることで、ただのファンタジックな純愛ものの域からも脱している。
加えて、撮影が素晴らしい。駆け巡る白馬、満開の桜…。思えば、この映画で描かれた世界は、良きにつけ悪しきにつけ、何から何まで欧米化、近代化された今の日本が忘れてしまった、本来の日本の姿なのかもしれない。そこには、祈る、信じる、愛するといった、いちずな姿があった。
とはいえ、この映画の場合は、どうこう言うよりも、映像から得た感動を素直に受け止めるべきものなのかもしれないとも感じた。
原陽子、隆大介、役所広司は無名塾の出身。親方の仲代も出ているから、悪く取れば、七光りともなるのだろうが、実際、彼らはそれぞれ好演しているのだから、悪く言う筋合いはない。ここは素直に、彼らの才能を見い出した仲代の眼力に拍手を送ろう。
『おこんじょうるり』
併映は、えらく評価の高い人形劇(監督・岡本忠成)。確かに、心温まるストーリー(人間=老婆と動物=キツネとのふれあい)であり、民族色にもたけた見事な人形アニメーションには違いない。
ただ、今改めて「素晴らしい映画」だと声を大にして言うほどのものかという気もする。別にこの映画をおとしめるつもりはないが、この映画の世界は、テレビの「日本昔ばなし」や昔からの人形劇に登場するストーリーとあまり変わりはない気がするのだ。
それが、今になって急に素晴らしいといわれ、芸術祭で大賞を取ってしまうとは、どうしたことなのだろう。お偉い人たちは、今までは、この手の話が持つ素晴らしさに気づかなかったのだろうか。
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