田中雄二の「映画の王様」

映画のことなら何でも書く

『ラーゲリより愛を込めて』

2022-11-08 18:28:23 | 新作映画を見てみた

『ラーゲリより愛を込めて』(2022.11.8.東宝試写室)

(ネタバレあり)

 第2次世界大戦終結後の1945年。ソ連軍によってシベリアの強制収容所(ラーゲリ)に抑留された日本人捕虜たちは、極寒の地で、わずかな食糧のみでの重労働を強いられ、命を落とす者が続出した。

 そんな中、山本幡男(二宮和也)は、日本にいる妻・モジミ(北川景子)や子どもたちの下へ必ず帰れると信じ、周囲の人々を励まし続ける。やがて、山本の仲間思いの行動と力強い信念は、多くの捕虜たちの心に希望の火を灯していくが、彼自身は病に倒れる。
 
 実在の日本人捕虜を主人公にした辺見じゅんのノンフィクション小説『収容所(ラーゲリ)から来た遺書』を基に、瀬々敬久監督が映画化。ラーゲリでの山本の捕虜仲間を松坂桃李、中島健人、桐谷健太、安田顕らが演じる。

 現在のウクライナ情勢を考えると、複雑な思いがする話。映画自体は普通の出来という感じだが、何かの場面やディテールからの連想で、別のことを思い出させられて、ふと涙が出たりする。年の性か、最近こういうことが増えた。

 今回も、映画を見ながら、いろいろな過去の映画などのことが思い浮かんできた。

 理不尽なシベリア抑留については、子どもの頃に見たアニメ「巨人の星」での、元巨人軍監督・水原茂のエピソードで初めて知った。くしくも、この映画にも収容所内での野球のシーンがあった。

 極限状態の中でも(だからこそ)人は楽しみを見付けるという意味では、加東大介原作の『南の島に雪が降る』(65)の軍隊芝居にも通じるものがあると感じた。

 劇中、山本が口ずさみ、やがて捕虜たちの間にも広がっていく歌が、なぜか「いとしのクレメンタイン」。これが市川崑の『ビルマの竪琴』(56・85)「埴生の宿」的な役割を果たす。全体の語り部が副主人公(松坂)という点も『ビルマの竪琴』と同じで、「一緒に日本に帰ろう」というせりふもあった。

 また、ラストの処理は、戦友たちから預かった遺書を、全国の遺族へ届け続けた男(渥美清)を描いた『あゝ声なき友よ』(72)や、最後に、死んだ戦友の代わりに彼の故郷を訪ねる男が登場するウィリアム・サローヤンの『人間喜劇』を思い出した。

 これだけいろいろなことを思い出すということは、この映画が豊かだった証しなのか。ただ、作り手たちが、こうしたものを意識したのかどうかは分からない。全くの当て推量かもしれないが、ちょっと確かめてみたい気もする。


『プラチナデータ』(13)
映画俳優・二宮和也の“プラチナデータ”
https://tvfan.kyodo.co.jp/feature-interview/column/34544
 
『母と暮せば』(15)
https://tvfan.kyodo.co.jp/feature-interview/column/week-movie-c/1028258

『検察側の罪人』(18)
https://tvfan.kyodo.co.jp/feature-interview/column/week-movie-c/1161362
原田眞人監督インタビュー
https://tvfan.kyodo.co.jp/feature-interview/interview/1178462

 

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「荏原オデヲン座」意地でも3本揃える わが初恋の映画館2

2022-11-08 14:33:33 | 違いのわかる映画館

 ところで、荏原オデオン座は、田中小実昌のエッセー『コミマサ・シネノート』(78)の「映画館の水飲所」にも登場する。

 「~前は、荏原オデオン座にいくときは、近くの踏切のそばの店で、よくいなり寿司を買った。~この荏原オデオン座のいいところは、水道の蛇口にコップがぶらさがっているところだ。だから好きなだけ水が飲める。水なしの弁当というのはつらい。~ところが、東京周辺の映画館は、水飲所はあっても、ほんのわずか、くちびるを湿すぐらいしか水がでないとか、まるっきり水がでないとかいったのばかりなのだ。(中略)その点、荏原オデオン座は、水道の蛇口にマジメにコップがぶらさがっていて、表彰されていい」(原文ママ)。

 ちなみに、今では衛生面から見ても考えられないことだが、この水飲所は自分も利用した。また、コミさんが“踏切のそばの店”と書いているのは、「I屋」という和菓子屋のことで、同級生のHの家だった。

 さて、ここでオデヲン座で見た映画のラインアップを振り返ってみよう。『チャップリンの独裁者』(40)『戦争と人間 完結篇』(73)という“戦争物”の二本立ては、感動したが、中学生にとってはちょっとヘビーだった。

 当時人気があったチャールズ・ブロンソンとアラン・ドロンの主演作『シンジケート』(73)『ビッグ・ガン』(72)

 ハマープロ製作のホラーとスパイアクションという英国映画3本立ての『新ドラキュラ/悪魔の儀式』(73)『国際殺人局K ナンバーのない男』(72)『呪われた墓』(73)の組み合わせはまあ順当なところか。

 “暗殺3本立て”の『007/ロシアより愛をこめて』(63)『ダラスの熱い日』(73)『ジャッカルの日』(73)は、新作に加えて「007」を持ってくるところが渋い。

 『ドーベルマン・ギャング』(72)『片腕ドラゴン』(72)『キートンのセブンチャンス』(25)『キートンの警官騒動』(25)は、オデオン座お得意の意味不明な組み合わせ。

 『帰って来たドラゴン』(74)『武道大連合・復讐のドラゴン』(72)『暗黒街のふたり』(73)『地獄から来た女ドラゴン』(72)『110番街交差点』(72)『キングボクサー/大逆転』(72)は、カンフー映画を目当てに見に行ったのだが、実は『暗黒街のふたり』と『110番街交差点』が一番面白く、こうした発見が3本立てを見る醍醐味だと気付かされた。

 

 『戦雲』(59)『ダーティハリー2』(73)『燃えよドラゴン』(73)(2回目)『赤い風船』(56)『パピヨン』(73)(2回目)『狼よさらば』(74)は、『戦雲』と『赤い風船』を持ってくるところに、意地でも3本揃えるというオデオン座の心意気を感じたものだ。

 そして、オデヲン座でのわがラストショーは、『スティング』(73)(2回目)『エアポート75』(74)(2回目) 『ジャガーノート』(74)という組み合わせだった。『大地震』(74)ではなく『スティング』を持ってきて、パニック映画特集にはしないところがオデヲン座の真骨頂だと思う。

 こうして振り返ってみると、自分とオデヲン座との蜜月は、中学時代のわずか2年に過ぎない。高校に入り、引越しをした後は、二度と訪れることはなかったからだ。初恋の相手との別れは実にあっけないものだった。映画の友だった山さんの消息も今は分からない。

 現在、オデヲン座の跡地はマンションとなり、往時をしのぶすべもないが、Wikipediaに「~同館の前の南北の通りを現在も『銀幕商店街』と呼ぶ~」という記載を発見した。久しぶりに故郷を訪れ、その真偽を確かめてみたい気もする。

 

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「荏原オデヲン座」意地でも3本揃える わが初恋の映画館1

2022-11-08 07:27:45 | 違いのわかる映画館

 1952(昭和27)年~87(昭和62)年の間に、東急池上線・荏原中延駅のほど近くにあった「荏原オデヲン座」は、東和興行が経営していた洋画の三番館“オデヲンチェーン”の一つ。ほかには、新宿、阿佐ヶ谷、荻窪、赤羽、十条、下北沢などにもあった。

 荏原中延で生まれ、高校1年の夏までを過ごした自分にとって、ここは、「わが初恋の映画館」とも呼ぶべき、思い出深い場所だ。

 ここに関する最初の思い出は、グワルティエロ・ヤコペッティの“やらせ残酷ドキュメンタリー”『さらばアフリカ』(66)にまでさかのぼる。

 街中に貼られた、夕日をバックに、子シマウマがヘリコプターに吊り下げられ、ゾウにやりを刺す原住民が映っているポスターに子どもながら興味を引かれたのだ。

 そんな中、「今日見に行く」という親父に、「一緒に行きたい」とせがんだが、「これは大人しか見られない映画だから駄目だ」と怒られた。

 今から思えば、もちろんあの映画は、小学校に入学したばかりの子どもに見せられるものではないと分かるが、当時はとても理不尽に感じた覚えがある。

 小学校の高学年になると本格的に映画が好きになり、「ゴジラ」や「ガメラ」では満足しなくなってきた。

 そして、『大脱走』(63)『大空港』(70)『バラキ』(72)『アマゾネス』(73)『ゴッドファーザー』(72)といった、とんでもない組み合わせをするオデヲン座のポスターを見ながら、早くここで映画が見たいと思ったものだが、当時の子どもが映画館で映画を見る時には、小学生と中学生とでは大きな差があったのだ。

 中学生になってほぼ1年がたち、友だちと一緒ならば、という条件付きで、ついにオデヲン座通いが解禁になった。親にしてみれば近所の映画館なら安心だという思いもあったのだろう。

 記念すべきオデヲン座初見参は、1974年1月26日。この後“映画の友”として一緒に映画を見まくることになる山さんが一緒だった。同級生のSのお袋さんがもぎりをしていたので、入るのが少し恥ずかしかった覚えがある。

 『街の灯』(31)『最後の猿の惑星』(73)『ポセイドン・アドベンチャー』(72)という何のつながりもない組み合わせの3本立てだったが、逆にこれが良かった。

 チャップリンの至芸に泣き笑いし、Bomb(大失敗)映画の『最後の猿~』と、大傑作の『ポセイドン~』と同時に遭遇するという、オデヲン座ならではのごった煮の魅力を、いきなり知ることができたからだ。

 とにかく、たくさん映画が見たかった中学生にとって、電車賃もかからず、徒歩で行け、安価(確か学生500~600円ぐらいだったと記憶する)で、いっぺんに3本も見られるオデヲン座はまさにパラダイスだった。

 ただし、3本全て見るとなるとほとんど一日がかり。朝一番で入って、出る時、外はもう真っ暗だった。しかも見ている間は、売店でラスク(今のおしゃれれなものとは全くの別物)かあんパンを買う以外は何も食べられないという苦行のような面もあった。

 オデヲン座通いも度重なるとさすがに金がなくなる。ここは「オデヲン座Weekly」という映画の解説チラシをタダでくれたが、上映作のパンフレットも売っていたから、3冊全部買ったらえらいことになる。

 そんなことで山さんと悩んでいる時、同級生のYのことを思い出した。地主の息子であるYの家の塀には、オデヲン座のポスターが貼られていた。その謝礼としてYの家には招待券が配られていたのだ。

 そこで、あまり映画に興味がなかったYに、「映画館で映画を見るのは楽しいぞ」と盛んに吹き込み、映画雑誌を貸すなどして、ひたすら感化に励んだ。その結果、Yは立派な映画ファンとなった。

 オデヲン座は週替わりでポルノ映画も上映していたので、Yは親に“普通の映画”を見るということを懇々と説明しなければならなかったが、とうとう俺たちはYを取り込んで、招待券を手に、タダでオデヲン座に入ることに成功したのだ。(つづく)

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「BSシネマ」『きっと、うまくいく』

2022-11-08 06:22:35 | ブラウン管の映画館

『きっと、うまくいく』(09)

 エリート集団を養成するインド屈指の工科大学に入学した3人の男子学生。型破りの自由人ランチョー(アーミル・カーン)、機械より動物写真家を夢みるファルハーン、何でも神頼みの苦学生ラージューが、傲慢な学長と対立しながら巻き起こす騒動と、行方不明になったランチョーを捜す10年後の物語を、インド映画お得意の歌と踊りを交えて描く。

【インタビュー】『チェイス!』アーミル・カーン&アーチャールヤ監督
https://blog.goo.ne.jp/tanar61/e/9f4a1c99c0c6afecd5a4e1ac633b1fcd

【ほぼ週刊映画コラム】『チェイス!』
https://blog.goo.ne.jp/tanar61/e/6631f1073de7eb3904aa20c14cf5b7f5

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