『歌え!ロレッタ愛のために』(1981.11.20.銀座文化)
主人公のロレッタ・リンのことは、この映画を見るまでは全く知らなかった。日本ではあまり知られていないのではないだろうか。
ところで、アメリカはチャンスの国だとよくいわれる。だからアメリカ人は、例えば、一介のトラック運転手の息子から、大リーグのスタープレーヤーとなったロサンゼルス・ドジャースのスティーブ・ガービーの話などをとても好むという。『ロッキー』(76)のような映画が大うけしたのも、そんな国民性を一端を表しているのだろう。
この映画も、貧しい炭鉱夫の娘としてして生まれたロレッタが、カントリー音楽の女王と呼ばれるまでになるストーリーだが、よくある苦労ものや根性ものにはなっていない。それは、ロレッタが歌手になる道程が、苦労なくとんとん拍子にいったように描かれているからだろう。
例えば、初めて大きなショーに出演する時のロレッタと夫の会話に、それを象徴するような面白いやりとりがあった。ロレッタ「私、まだ下積みを経験していないのに…」、夫「後からすればいいさ」という具合に。
そして、その言葉通りに、というわけでもあるまいが、ロレッタは絶頂期に体を壊す。13歳で結婚し、出産。その後、歌手としての名声は得たが、あまりにも早過ぎた歩みのおかげで、精神と肉体のバランスが崩れても何の不思議もない。いや、そうなって当然だろう。
やがて、ロレッタは見事にカムバックするのだが、それは夫の助けなしにはできなかった。この夫婦の二人三脚ぶりが、実にほのぼのとしていてとてもいい。
荒くれ者で、遊び人だった男が、妻となったロレッタのために世話をする姿はけなげに見えるし、やがて起きる妻のヒモ的な立場に悩むとところなどは、迫るものがあった。トミー・リー・ジョーンズの好演である。
また、ロレッタの家族の一人一人がとてもいい。特にザ・バンドのレボン・ヘルムが演じた父親役が絶品だった。それにしても、洋の東西を問わず、貧乏人の子だくさんというのはあるのだなあと思った。
そして、ロレッタを演じたのが、『キャリー』(76)のシシー・スペイセク。13歳の世間知らずの娘が成長していく姿を見事に体現し、歌手になってからは、どんどんときれいになっていき(メークのせいもあるが)、本物のロレッタそっくりに歌も歌った。これぞまさしく女優である。アカデミー主演女優賞を受賞したのもうなずける。