『モリコーネ 映画が恋した音楽家』(2022.11.20.オンライン試写)
ジュゼッペ・トルナトーレ監督が、師であり友でもある映画音楽の巨匠エンニオ・モリコーネに迫ったドキュメンタリー。これは大傑作だった。
ちなみに『ニュー・シネマ・パラダイス』(88)以降、『みんな元気』(90)『明日を夢見て』(95)『海の上のピアニスト』(98)『マレーナ』(00)『シチリア!シチリア!』(09)『鑑定士と顔のない依頼人』(13)と、トルナトーレの映画の音楽はモリコーネが担当している。
1961年のデビュー以来、生涯500作品以上もの映画やテレビの音楽を手掛けたモリコーネ。この映画は、彼へのインタビューというよりも“独白”を中心に、関係者の証言、作曲した映画の名場面、ワールドコンサートツアーの演奏などを織り込みながら、作曲の秘密を解き明かす一方で、パワフルでチャーミングな人間性にも迫っている。
この映画の素晴らしさは、もちろん、モリコーネの音楽自体に寄るところが一番だが、全編にトルナトーレのモリコーネへの素直な愛があふれ、編集のテンポも要素の選択もよく、その生い立ちから、仕事ぶり、悩みや屈折までを明らかにしていき、とても見応えがあった。157分という長尺ながら、全く飽きさせない。やるじゃないかトルナトーレ。
「映画音楽の作曲は好きではなかった。屈辱だった。正当な音楽や作曲から見れば邪道」と卑下し、やめたいというモリコーネを、映画(監督)の方が求めて、離さない。だから仕事が途切れない。やめられないという堂々めぐりを見ていると、やはり、彼は映画音楽の作曲者として天から選ばれた人だったのだと思わずにはいられない。
また、監督たちとのエピソードを聞いていると、ひょっとしたら、モリコーネの方が監督よりも映画を理解しているのではないかと思わされるところがあるのが面白い。
特に、セルジオ・レオーネ作品におけるモリコーネの音楽は、レオーネの思わせぶりで冗漫な演出を補って余りあるものがあり、名画だと錯覚させる効果を発揮したと思う。とはいえ、この映画を見て泣けてしまうのは、やはり『ウエスタン』(68)であり、『ワンス・アポン・ア・タイム・イン・アメリカ』(84)のところなのだけれど…。
ベルナルド・ベルトルッチやオリバー・ストーン、タビアーニ兄弟といった監督たちが、モリコーネが作曲した自分の映画の音楽を、尊敬と礼を込めて楽しそうに口ずさむ様子が、何だかほほ笑ましく見えた。
主な名場面は、『荒野の用心棒』(64)『夕陽のガンマン』(65)『続・夕陽のガンマン』(66)『ウエスタン』『シシリアン』(69)『殺人捜査』(70)『1900年』(76)『天国の日々』(78)『ワンス・アポン・ア・タイム・イン・アメリカ』『ミッション』(86)『アンタッチャブル』(87)『ニュー・シネマ・パラダイス』(88)『海の上のピアニスト』(98)『ヘイトフル・エイト』(15) …。
『夕陽のギャングたち』(71)と『カジュアリティーズ』 (89)が出てこなかったのが、ちょっと残念だった。
主な証言者は、トルナトーレ、クリント・イーストウッド、ベルトルッチ、クエンティン・タランティーノ、ウォン・カーウァイ、ストーン、ローランド・ジョフィ、タビアーニ兄弟、ダリオ・アルジェント、リナ・ウェルトミュラー、リリアーナ・カバーニ、ジョン・ウィリアムズ、ハンス・ジマー、クインシー・ジョーンズ、ブルース・スプリングスティーン、ジョーン・バエズ、パット・メセニー…。
映画音楽のマエストロ、エンニオ・モリコーネ
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