田中雄二の「映画の王様」

映画のことなら何でも書く

『八月の鯨』

2019-07-25 09:03:42 | 映画いろいろ
『八月の鯨』(87)(2013.1.14.岩波ホール)


 米メイン州の小さな島で暮らす老姉妹のひと夏の日々を淡々と描く。監督はイギリス人のリンゼー・アンダーソン。
 
 この映画、まずは何の予備知識も持たずに見る方がいい。まるで一級の舞台劇を思わせるような、5人の老優たちによる“演技を超えた演技”と、泰西名画のような、光と影、空と海、そして花や草木の美しさを映したカメラワークに、素直に酔いしれればいい。
 
 そして、見終わった後で、リリアン・ギッシュ(撮影当時93歳)とは、ベティ・デイビス(79歳)とは、アン・サザーン(78歳)とは、ビンセント・プライス(76歳)とは、ハリー・ケリー・ジュニア(66歳)とは、一体どんな俳優であったのかを調べてみるのもいい。
 
 すると、実際の年齢差を逆転させて妹を演じたギッシュはサイレント時代からの大女優であり、姉役のデイビスもまた、演技派、個性派として鳴らし、アカデミー主演賞を2度受賞した大女優であったことが分かる。
 
 また、サザーンは可憐な娘役としてミュージカルを中心に活躍し、プライスはインテリながらホラー映画に出演し続け、マイケル・ジャクソンの「スリラー」などの大仰なナレーターとしても有名で、名優の息子のケリーはジョン・フォード作品を中心に活躍した名脇役だったことが分かる。
 
 彼らの歴史を知った上で、監督のアンダーソンが、それぞれの役になぜ彼らを配したのかを推理し、彼らの人生と役柄を重ね合わせてみると、この映画に対する思いはさらに深みを増すはずだ。特にデイビスについては、『何がジェーンに起こったか?』(62)でのジョーン・クロフォードとの醜悪な姉妹役と、この映画の姉妹役との違いを思うと感慨深いものがある。
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『何がジェーンに起こったか?』

2019-07-25 07:12:57 | 1950年代小型パンフレット
『何がジェーンに起こったか?』(62)(1968.7.28.日曜洋画劇場)

 
 子役スターの“ベビー・ジェーン”として一世を風靡したジェーン(ベティ・デイビス)と、実力派の女優として成功した姉のブランチ(ジョーン・クロフォード)。だが、姉が事故で下半身不随になって以来、姉妹は人目を避けながら2人きりで暮らしていた。やがて、精神に異常をきたしたジェーンは、ブランチを監禁して精神的に追い詰めていく。
 
 監督は男性映画の名匠ロバート・アルドリッチだが、意外や彼はこの映画や『ふるえて眠れ』(64)『甘い抱擁』(68)のような“女の怖さ”を描いた映画も撮っている。特にこの映画は、ビリー・ワイルダー監督の『サンセット大通り』(50)におけるグロリア・スワンソン同様、過去の大女優への冷徹で皮肉なまなざしが目立つ。
 
 この映画を初めて見たのは、小学校低学年の夏休み。淀川長治先生の『日曜洋画劇場』でだった。続いて同じ枠でオリバー・リード主演の『吸血狼男』(61)も見た記憶があるから、「夏の恐怖映画特集」というくくりだったのかもしれない。
 
 モノクロ画面の中で展開する2人の老婆同士の陰惨な闘いの理由は当然小学生には理解不能だったが、食事のシーンで、ブランチが皿のふたを取ると、小鳥やネズミの死骸が現れるシーンがショッキングだったことと、砂浜でアイスクリームを待ったジェーンが、警官と野次馬に囲まれながら踊るラストシーンだけはよく覚えている。そしてそれらのシーンの異様さがトラウマになって、いまだにきちんとは見直せずにいる。
 
 後に、2人がかつての大女優だったことを知った時は、よくこんな役を引き受けたなあと思ったものだが、今、自分が当時の2人とそう変わらない年齢になってみると、彼女たちがこの映画に出た時の気持ちが何となく分かる気もするのだ。そこには老いに対する葛藤や戸惑い、抗い、開き直り、女優としての意地など、さまざまな思いが交錯していたのではないかと。
 
 この後、クロフォードは女優としては振るわなくなるが、デイビスは映画に出続け、最後に、まるでご褒美のような、『八月の鯨』(87)という素晴らしい映画を手にするのだ。
 
ベティ・デイビス『月光の女』
 
ジョーン・クロフォード『大砂塵』
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『ライオン・キング』ジョン・ファブロー監督にインタビュー

2019-07-24 11:10:00 | 仕事いろいろ
 
 ファブロー監督にとっては、今回が『ジャングル・ブック』(16)に続く“超実写版”の2作目となる。なので「実は、子供の頃、初めて見たディズニーのアニメ映画は『ジャングル・ブック』(67)だった。だからあなたの『ジャングル・ブック』を見た時には驚いた」と言ったら、「自分も初めて見たディズニーのアニメ『ジャングル・ブック』だった。けれども、あれは何度も繰り返して見るような映画ではなかったよね。だから自分たちが作り直した時には改変する余地があったけど、今回はそれがなかった」という答えが返ってきた。
 
 詳細は後ほど。
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『東京裁判』デジタル修復版

2019-07-23 09:16:23 | 映画いろいろ
 小林正樹監督の『東京裁判』がデジタル修復され、8月から公開される。この映画は、米国防総省が記録した膨大なフィルムに、同時代の歴史的な映像を交え、5年の歳月をかけて製作されたもの。
 
 当時、学生アルバイトとして東洋現像所(現イマジカ)で働いていたのだが、食堂で、白衣を着た一人の老女をたびたび見掛けた。その人こそがこの映画のネガ編集を担当した南とめさんだった。この膨大なフィルムを整理した人が自分の目の前にいたのだと思い、いたく感動したことを覚えている。また、フィルムの現像所で働く者の特権として、映画の前売り券がさらに安く買えたので、この映画もその流れで見たのだった。
 
 
『東京裁判』(83)(1983.6.14.新宿グランドオデヲン)

 見る前は、全編4時間余りのドキュメンタリー映画ということを考えると、果たして気力を充実させながら見続けられるのだろうか、という心配があった。ところが、見てみると、映像の持つ力や怖さを改めて思い知らされるようなすごい映画で、最初から最後まで圧倒されっ放しだった。まさしく真実だけが伝え得る迫真力が全編にあふれていたし、俳優ではない実際の人物たちが見せる人間性を感じさせながら、あくまでも客観的に裁判の本質を暴いていくのだ。
 
 今まで自分の中にあった東京裁判のイメージは、同じく戦後ドイツで行われたニュルンベルク裁判同様、単に、国をファシズムへ導いた者たちの罪を裁いただけのもの、だった。ところが、よく考えてみれば、勝戦国が敗戦国を裁くというのもおかしな話で、戦争に勝った方が正義という発想には矛盾がある。

 それは、日本が中国や朝鮮、東南アジアに対して行った侵略行為は許されざるものだったとしても、ではヨーロッパ諸国が行った植民地政策はどうなのか、あるいはアメリカが行った無差別な空襲や原爆投下などは、ファシズム打倒という名の正義の行為だったのか…。そんなことは答えるまでもない。戦争という行為自体に始めから正義などはない。だから、勝戦国が敗戦国を裁くという、この裁判自体に矛盾があるのだ。

 この映画は、その矛盾の核として、米ソの冷戦による利害関係を浮かび上がらせたり、天皇を政治的に利用しようとするアメリカの思惑などを露わにしていく。ここまで暴かれると、もはやこの裁判自体が茶番にしか見えなくなってくる。

 事実、「この裁判を見せしめとして、今後二度と悲劇を繰り返すべからず」と論じたマッカーサーが、朝鮮戦争での原爆使用論がもととなって解任されたり、日本の侵略を裁いたアメリカが、この後、朝鮮やベトナムで取った行動が、この裁判の曖昧さや矛盾を象徴しているとも言えるのではないか。しかしアメリカは、よくもこんな映像を大量に残していたものだと改めて思った。
 
All About おすすめ映画『東京裁判』
https://blog.goo.ne.jp/tanar61/e/37134669a73224544dd057443de07407
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『文学界』8月号『ヤクルト・スワローズ詩集』(村上春樹)

2019-07-22 19:47:21 | ブックレビュー

 『文学界』8月号に、村上春樹氏の連作短編『ウィズ・ザ・ビートルズ With the Beatles』と『ヤクルト・スワローズ詩集』が載っていた。

 

 自分は、氏の本の熱心な読者ではないが、ビートルズと野球となれば無視はできない。どちらも自伝的な要素を感じさせるものだったが、特に後者は、弱いチームを好きになってしまった自分自身への自虐とも誇りともとれる屈折した表現が面白かったし、自分も一番多く訪れているであろう球場は神宮なので、うなずけるところも多かった。ここで長嶋茂雄が通算2000本目の安打を浅野啓司から打った瞬間も見たのだ。

 さて、氏とデーブ・ヒルトンのかかわりは知っていたが、名外野手だったジョン・スコットが出てきたのは懐かしかった。読みながら、豊田泰光の打撃練習は凄味があったなあ、1970年代初頭のアトムズには確か赤坂と溜池という選手がいたなあ、外野席はまだ芝生だったよなあ、中学校の近くにピッチャーの井原慎一郎が住んでいてサインをもらったなあ、弟がスワローズのファンクラブに入っていたなあ、応援団長はペンキ屋の岡田さんだった、高校時代の悪友のSがスワローズの熱狂的なファンだった、などとヤクルト球団を巡る脈略のないことを思い出したりもした。皆、遠い昔のことだ。

デーブ・ヒルトンについて
https://blog.goo.ne.jp/tanar61/e/66020ed9ad4ead1bbd13b3b9887754de

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『駅馬車<西部小説ベスト8>』(ハヤカワ文庫)

2019-07-22 11:44:51 | ブックレビュー
 
 昨日「ザ・シネマ」で『駅馬車』(39)をやっていた。実はこの映画には原作となったアーネスト・ヘイコックスの短編小説(訳・井上一夫)がある。ハヤカワ文庫の『駅馬車<西部小説ベスト8>』に、他の7編とともに所収されているが、以前読んだ時に、ジョン・フォード、あるいは脚色のダドリー・ニコルズは、この短編をよくぞあそこまで広げたものだと驚いた覚えがある。
 
他の7編は
「埃まみれの伝説(レジェンド)」:ハル・G・ロバーツ(訳・三田村裕)
町を去る決意をした保安官。最後の仕事は、殺人を犯した、彼が思いを寄せる未亡人の息子の始末だった。ちょっと『真昼の決闘』を思い出させる展開を見せる。
 
「あの世から来た男」:マッキンレー・カンター(訳・田中小実昌)
襲われて死んだと思われていた元保安官が町に戻ると、恋人は去り、街は荒れ果てていた。田中小実昌の翻訳にいま一つ乗れないものがあった。
 
「硝煙の街」:フランク・グルーバー(訳・三田村裕)
南北戦争を引きずる男たち。三角関係、友情、やるせない暴力の連鎖が描かれる。
 
「ビリイ・ザ・キッドの幽霊」:エドウィン・コール(訳・三田村裕)
ほら話(トール・テール)、英雄伝説として面白い。
 
「死人街道」:アーネスト・ヘイコックス(訳・三田村裕)
一人のガンマンの誕生。砂金を巡る追跡劇。
 
「無法者志願」:ER・バクリー(訳・三田村裕)
O・ヘンリー的な善意と皮肉に満ちたどんでん返し。
 
「ユマへの駅馬車」:マーヴィン・デヴリーズ(訳・田中小実昌)
ヘイコックスの「駅馬車」に勝るとも劣らない映像的な描写が秀逸。こちらは田中小実昌の翻訳がいい。
 
いずれも、映画では表現しきれない心理描写がなかなか良かったが、「駅馬車」の他は映画化されていないのではないか。
 
 ちなみに、原題の「Stagecoach」を「駅馬車」という邦題にしたのは、かの淀川長治先生とのこと。 『淀川長治の証言 20世紀映画のすべて』(97)という本でご一緒した際に、そのいきさつを熱く語ってくださった。「日曜洋画劇場」で淀川先生の解説付きでこの映画を見たのは1975年の12月28日のことだった。
 
ジョン・フォード生誕120年『駅馬車』
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『映画の森』「2019年7月の映画」

2019-07-21 07:36:08 | 映画の森

 共同通信社が発行する週刊誌『Kyoudo Weekly』(共同ウイークリー)7月22日号で、『映画の森』と題したコラムページに「7月の映画」として5本を紹介。独断と偏見による五つ星満点で評価した。

ほら話や寓話を聞いているような気分に
『ゴールデン・リバー』☆☆☆

ロバート・レッドフォードの俳優引退作
『さらば愛しきアウトロー』☆☆☆☆

ウッディの選択と自立を描くシリーズ最終章
『トイ・ストーリー4』☆☆☆☆

今度の舞台は雨が降り続く東京
『天気の子』 ☆☆☆

現実と空想世界が交差する二重構造
『マーウェン』☆☆☆

クリックすると拡大します↓
 

 

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【ほぼ週刊映画コラム】『天気の子』

2019-07-20 14:39:38 | ほぼ週刊映画コラム

エンタメOVOに連載中の
『ほぼ週刊映画コラム』
今週は
今度の舞台は雨が降り続く東京
『天気の子』

 

詳細はこちら↓
https://tvfan.kyodo.co.jp/feature-interview/column/week-movie-c/1195191

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2012.11.【違いのわかる映画館】vol.26(最終回) 下高井戸シネマ

2019-07-20 08:26:25 | 違いのわかる映画館

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2012.10.【違いのわかる映画館】vol.25 新橋文化劇場(2014.8.閉館)

2019-07-19 12:49:07 | 違いのわかる映画館

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