まだ現役で元気なころだったから何十年も前になる。山陰路をドライブ中、島根県浜田市のさかな市場に立ち寄った。ドライブの頼りとして伴をするのは愛用の1冊の道路地図、今のようにGPSに助けられてなど思いもしない。立ち寄った訳は、道路地図に載っていた食事案内に、市場ならではという新鮮な海鮮丼が目に付いた。
漁港を眼下に眺めながら、紹介通りの新鮮な海鮮丼に満足した。階下には魚中心の土産物店もズラリ、試食も楽しめた。そんな中の1品で「赤てん」が気に入った。魚のすり身に唐辛子を練り込んで、パン粉をまぶして揚げた平べったいてんぷら。唐辛子が効き、歯ごたえのある庶民向きの品に引かれた何枚か購入した。
最近、その赤てんが「浜田のソウルフード」(その地域特有の料理)として紹介された記事を読んだ。戦後の食糧難の時代「ハムカツを作ってほしい」という要望から地元業者が考案したという。ハムは高価で入手困難、そこで魚市場ならではの発想で魚のすり身となった。ただ、ハムに似せるための工夫が唐辛子とは面白い。
何度か山陰をドライブするときは立ち寄って購入した。遠乗りをしなくなってからかなり経っていたある日、スーパーで家内が「赤てん」がケースに並んでいるのを見つけた。確かに浜田産の標示があり、見覚えのある板状に揚げた姿だった。久しぶりに浜田港を思い出しながら食した。たまにというか時々というか、今も取り寄せられており出会いを楽しみにしている。