空野雑報

ソマリア中心のアフリカニュース翻訳・紹介がメイン(だった)。南アジア関係ニュースも時折。なお青字は引用。

輩出と排出

2007-02-13 13:08:24 | 国語
 屋上屋を架すの類かもしれないが,敢えて書いておこうかと思う。

「輩出する」は自動詞であって,正しい構文は「(場所・組織・社会などから,場所・組織・社会などに)[人が]輩出する」。「[人]を輩出する」は誤用。

 この誤用は,「[もの]を排出する」の排出と,音が同一であることから発したものと考えられる。「輩出」の使用頻度はどうしても少ないものと思われる。それで稀に使う人が,「排出」の構文を流用したのだろう。典型的な例というべき。

 以上のことは既にnet上にも書かれていることだが,不満がないわけではない。しっかりした実例の提示が,どうも見られないようなのだ(かるくgoogleを掛けてみた範囲だけども)。「○○で使っていた,だからよし」「××は誤用」…断じるだけでは些か不毛ではなかろうか。

 何にせよ,もはや「輩出する」の他動詞用法はそれなりの市民権を得たようで,こうした流れは止まる事はないだろうけれど,少し正しい(昔の)用法を挙げておくのも決して無駄ではないだろう。

 昔の先生方は正しく使う:
 然るに司馬遷の言ったように,彼の頃から土地を開発して富を成すものが輩出した。(宮崎市定,『宮崎市定全集1』岩波書店,1993年,49頁)
 殊に科挙官僚は三年に一度の殿試の度に,数百人の進士が輩出するが,…(宮崎市定,『宮崎市定全集1』岩波書店,1993年,262頁[=岩波全書『中国史』上下])
 したがって,リンネの分類法をもとに数多くのアマチュア植物学者たちが輩出し,その傾向は,動物学や昆虫学の分野にも波及したのである。(『害蟲記』博品社,1995年,227頁:訳者[藤野邦夫]あとがき:藤野氏は1935年生まれ)
「十九世紀後半はいわばサンスクリット語研究の黄金時代で,英国,フランス,ドイツ,オーストリア,オランダ,ロシア等に大家が輩出し,めざましい成果を挙げた」(渡辺照宏『仏教 第二版』岩波新書,22頁)

 勿論若い人でも正しく用いる:
「…鎌倉時代に入っていわゆる鎌倉新仏教と呼ばれる諸宗の宗祖がいずれも天台宗(を踏み台としてそこ)から輩出していったことは,可塑的柔軟性の証左でもあろう。」(泉武夫「美を促すもの-「最澄と天台の国宝」展によせて」,『UP』Sept 2005, No. 395, p.47上)。

 …実は誤用集もチェックしてあるのだが,こちらは敢えて挙げるまでもないだろう(ということにしておきたい)。
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1 コメント

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Unknown ()
2019-02-20 23:09:03
いよいよこの話を論文に使うかもしれない。
してみると、こうした蓄積というのは、まあ10年やってようやく陽の目を見るかどうか、というわけだ。
まあ、ちと悠長すぎるといわれるかもしれない。

が、さくさくやる だ け の人のって、あまり生産的でもないしなあ、どうも。
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