●玄海原発:プルサーマルの足音/1 エネルギー政策 /佐賀
毎日新聞 2009年9月19日
全国で初めてプルサーマルを実施する九州電力玄海原発3号機の定期検査が8月から行われている。計画通り進めば、検査期間中の10月上旬に燃料を装荷し、同下旬には発電が始まる。着々と足音が近づく中、実施延期を求めて約42万人の署名が県に提出されるなど、安全性や経済性への疑問の声は日増しに強まっている。核燃料サイクルが足踏みする今、一歩を踏み出す意味は何か。パンフレットには書かれない実情を報告する。【関谷俊介】
◇クリーンな電気生むか
「県環境サポーター兼地球温暖化防止活動推進員」の委嘱式が2月7日、佐賀市内で開かれた。
サポーターは知事が委嘱し、環境に関する県民の意識高揚と実践活動の促進を図るため、助言や指導を行うのが役割とされる。
この日出席したのは、新規や継続中のサポーターら約50人。県地球温暖化対策課の吉岡克己課長(51)があいさつし、活動内容の説明が終わると、一人の男性が手を挙げた。
「国や県はプルサーマルを推進しているが、本当に原発は環境に優しいのか。検討して、課としては県と意見を変えてもいいのではないか」
質問に立ったのは、サポーター歴約5年の古賀和年さん(58)=鳥栖市。日ごろ、市民から投げかけられる疑問をぶつけたという。「国の政策に従い、事故時のリスクがある原子力に偏るのではなく、県は普及率全国1位の太陽光発電をもっと進めてほしい」という思いからだった。
一瞬、会場が静まり返った。吉岡課長は「原発に不安があるのは分かるが、火力に比べてもCO2の排出量は少ない」と述べ、その場を収めた。
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「原子力に関しては、合理性を欠いた情報が唯一なものとして垂れ流されている」。80年代に放射性廃棄物などを研究し、現在は持続可能なエネルギーに関する提言をしているNPO環境エネルギー政策研究所(東京都)の飯田哲也所長(50)はそう指摘する。
原発は運転中にCO2を出さないが、使用済み燃料を全国で年間約1000トン生み出し、万一の事故時には放射線放出の危険性もある。
09年度当初の特別会計の原子力関連予算は経済産業省、文部科学省で計約3300億円。一方、太陽光発電関連予算は、最大に見積もっても約700億円止まり。04年まで世界1位だった太陽光発電の累積導入量も、08年には3位まで後退した。
「エネルギー政策全体が原子力のために著しくゆがんでいる」と飯田所長。かつてメーカーと研究機関に勤務し、原子力と共に歩んだ元研究者の実感だ。=つづく
(連載の途中は略、リンク先を)
●玄海原発:プルサーマルの足音/7止 プルトニウム /佐賀
毎日新聞 2009年9月25日
◇「大量利用時代」の幕開け
「NO MOX」。5月10日、佐賀市内の公園に、市民約1500人が作った縦20メートル、横80メートルの人文字が浮かび上がった。ボランティアとして参加した佐賀市の主婦、溝西由宇子さん(63)は広島市で胎内被爆した。放射線被ばくを体験した立場から「再処理はやめてプルトニウムを取り出さないでほしい」と訴える。MOX燃料は使用済み燃料から取り出したプルトニウムで作られる。
08年末現在、日本の電力各社が保有する核分裂性(燃えやすい)プルトニウムは27・4トン=表。九州電力はプルサーマルを進める理由の一つに「必要以上のプルトニウムを持たないこと」を挙げる。
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九州大大学院の吉岡斉教授(56)=科学史=によると、国は1960年代、将来的なウラン資源不足の予測もあり、プルサーマルにも着目したが、計画が本格化したのはその30年ほど後。影響を与えたとされるのが、90年代初頭の世界情勢だ。
当時は冷戦終結直後。旧ソ連の崩壊に伴う核拡散の危機を感じ取った米国が、プルトニウム管理に乗り出した。
米国は原発用プルトニウムも兵器用核物質であるとの見解を示し、核不拡散に動いた。
日本もこうした動きに呼応し、「余剰プルトニウムは持たない」との国際公約を掲げ、英仏に預けていたプルトニウム削減が急務となった。
核・エネルギー問題情報センターの舘野淳事務局長(73)は、外交問題が科学技術政策に持ち込まれている、と感じている。「再処理技術の保持は『潜在的な核保有能力』ととらえられかねない。だから、プルサーマルでプルトニウム利用を形だけでも示そうとしている」。また、吉岡教授は「プルサーマルの主目的は資源の有効利用でなく、プルトニウムの削減だ」と断じる。
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プルトニウムをプルサーマルで使う一方、青森県の六ケ所再処理工場がフル稼働すれば、年間4トン強のプルトニウムが取り出される。電事連の計画が順調に進めば、フランスに次ぐプルサーマル大国となり、年間5・5~6・5トンのプルトニウムを使うようになる。
同時に、輸送時のテロ攻撃、工場での作業員の被ばくの懸念も増える。
舘野事務局長は「これからはトン単位で扱い、リスクは非常に高くなる」と、国内状況の変質を予測する。
放射性物質が半減するまで約2万4000年かかるプルトニウムを社会に取り込むことに、どれだけ理解が得られているのか。反対する専門家や市民団体が抱く疑問や不安を積み残したまま始まるプルサーマル。それは、一度踏み出せば簡単に後戻りできない「プルトニウム大量利用時代」の幕開けでもある。=おわり(この企画は関谷俊介が担当しました)
◇核分裂性プルトニウム保有量
関西電力 8.9
東京電力 7.9
日本原子力発電 3.3
中部電力 2.5
九州電力 2.1
四国電力 1.4
中国電力 0.8
東北電力 0.3
北海道電力 0.1
北陸電力 0.1
合計 27.4
※単位トン(08年末) |