●判決全文 ⇒ 名古屋高等裁判所 判決全文
平成25年1月16日判決 名古屋高等裁判所
平成23年(行コ)第64号 処分取消請求控訴事件
(原審・岐阜地方裁判所平成23年(行ウ)第5号)
主 文
1 原判決を次のとおり変更する。
2 原判決主文第1項のA市水道事業及び下水道事業管理者が平成22年
10月29日付けで控訴人に対してした下水料金5456円を徴収す
る旨の処分のうち,1260円を超える部分を取り消す。
3 被控訴人のその余の請求を棄却する。
4 訴訟費用は,第1,2審を通じてこれを5分し,その1を被控訴人の
負担とし,その余を控訴人の負担とする。
第3 当裁判所の判断
1 当裁判所は,被控訴人の請求を,本件処分のうち1260円を超える部分の
取消しを求める限度で認容し,その余の請求を棄却すべきものと判断する。そ
の理由は,以下のとおりである。
2 争点(本件放流量認定基準の適法性)について
(1) 本件条例は,定額の基本料金に放流した汚水量に応じて定まる従量料金
を加算して下水道使用料を算出している(本件条例21条1項1号,3項)
ところ,従量料金の算出の基礎となる放流する汚水量の認定については,水
道水を使用した場合は使用した水道水量,井戸水等を使用した場合には原則
として計測に基づく井戸水の使用水量をもって放流量とみなし(本件条例2
1条2項1号,2号),例外的に井戸水の使用水量が計測できない場合は管
理者の認定する水量をもって放流量とみなすこととして(同項3号),汚水
放流量の認定は水道や井戸水等の実際の使用水量によることを原則とし,使
用水量を計測できない場合に例外的に放流量の認定基準によることとし,本
件施行規程16条の2においてその認定基準を定めている。
そして,下水道法20条は,下水道使用料について,利用者負担の考え方
に基づき,下水道使用料が使用の態様に応じて妥当なものであることを求め
(2項1号),特定の使用者に対する不当な差別的取扱いを禁じている(同
項4号)から,本件条例の定める下水料金は,使用者の排水する汚水の量及
び水質その他使用者の使用の態様に応じたものであることを要し,汚水の質
等に特段の差異のない限りは,原則として,使用者の排出する汚水量に比例
して定められることを要するのであり,同一の使用態様であるにもかかわら
ず,合理的な理由もなく,その額が異なることとなるような下水料金の算定
方法を定め,同算定方法に従って使用者に対して下水料金を賦課することは,
下水道法の上記原則に違反し違法というべきである。
そうすると,本件条例に基づく下水料金のうち従量料金の算定に関する本
件放流量認定基準についても,井戸水使用者の使用態様に応じて妥当なもの
であること,すなわち,原則として,計測によらずに放流量を認定する場合
においても,それが計測による場合の放流量と同程度の放流量を認定するも
のであることが必要であるというべきであり,本件放流量認定基準が,計測
による場合の放流量と対比して合理的に許容される相当な範囲を逸脱し(認
定による推定ということに伴う一定程度の誤差はもとより許容されると解す
る。),同基準によって認定された放水量が計測に基づく井戸水の使用水量
をもって放水量とされている場合から推定される汚水量を相当程度上回ると
きには,その結果として,本件放流量認定基準に基づく井戸水の使用量をも
って放流量として算出された下水料金を賦課される使用者が,計測に基づく
井戸水の使用量をもって放流量として算定された下水料金を賦課される使用
者に比して,放水量に比例しない,より多額の下水料金を負担することとな
るのであるから,下水道法20条2項1号,4号に反して違法というべきで
あり,それに基づき放流量を算出して下水道使用料を徴収する本件処分は,
法律又は条例の定めによらないものとして違法となるというべきである。
そこで,以下,本件放流量認定基準が,下水道法20条2項1号及び4号
に照らして,適法であるか否かについて検討する。
(2) 認定事実
・・・
それぞれの使用量は,併用世帯を含めて,別紙1のとおりである。
・・・
本件放流量認定基準との比較並びにA市全域の認定基準に対する低減割合
(認定基準の放流量と比較して,これを下回る割合。以下,同じ。)は,
別紙2のとおりである
・・・
井戸水使用量と認定基準との差及び同基準に対する
低減割合をまとめると,別紙3のとおりである。
別紙 /「水道水・井戸水世帯の使用量」 「井戸水世帯の使用量と認定基準との比較表」 その他の資料
(3) 本件放流量認定基準の適法性に関する判断
ア・・・・・
(イ)・・・・同認定基準の定め方に問題があることを示しているといえる。
(ウ)・・・・本件放流量認定基準の合理性には,既に平成22年の相当前から問題があったというべきである。
・・・
イ・・・
ところで,計測器設置の井戸水世帯について,計測器で計測された井戸
水使用量をもって放流量とされており,その井戸水使用量も判明している
のであるから,計測器が設置されていない井戸水世帯の井戸水使用量は,
それにより難いとする特段の事情の認められない本件においては,同じ井
戸水世帯として,計測器設置の井戸水世帯の井戸水使用量から推定するこ
とができるものというべきであり,そして,計測器が設置されていない井
戸水世帯の放流量は,上記のようにして推定された井戸水使用量と同一で
あるというべきである。
そうすると,本件放流量認定基準が定める放流量が,計測器設置の井戸
水世帯の井戸水使用量と上記のとおり乖離し,これを上回っていることは,
本件放流量認定基準の適用を受ける井戸水世帯について,控訴人において,
本件放流量認定基準を適用して,実際の放流量を上回る放流量を認定する
ことにより,実際の放流量に比例しない従量料金を算定し,これを下水料
金の一部として賦課していることになるところ,このような賦課は,少な
くとも4人ないし6人世帯という多人数世帯については,同世帯に関する
本件放流量認定基準の定める放流量が計測器設置の井戸水世帯の井戸水使
用量から15%以上という相当に大きな乖離が存在することにつき,これ
を認定制度上のやむを得ない乖離であって,不合理なものでないことの立
証のない本件においては(この点については,後記ウの説示参照),下水
道法20条2項1号に違反するものというべきであり,したがってまた,
本件放流量認定基準のうち,少なくとも4人ないし6人世帯に関する部分
は,平成20年当時,そもそも,許容される合理的な格差の範囲を逸脱し,
同号に違反するものであった。
また,井戸水世帯のうちの4人ないし6人世帯の放流量に関する上記の
ような格差が生じている事態は,本件放流量認定基準の適用を受ける井戸
水世帯と本件放流量認定基準の適用を受けない井戸水世帯との間で,世帯
人員が同一の場合同一の放流量となり,同一の従量料金が算定されるべき
であるのに,前者が後者より15%以上多い放流量を認定され,それに相
応してより多くの従量料金を賦課されていることを意味するのであるから,
本件放流量認定基準の適用を受ける井戸水世帯(使用者)にとって,この
ような事態は,不当に不利益な差別的な取扱いに当たるというべきであり,
同項4号に違反するものであり,したがってまた,本件放流量認定基準の
うち,少なくとも4人ないし6人世帯に関する部分は,平成20年当時,
そもそも,許容される合理的な格差の範囲を逸脱し,同号にも違反するも
のであった。
なお,控訴人全域における井戸水世帯のうち,計測器により計測してい
る戸数は21.1%(3419/16,183)にとどまり,上記使用量は,これを前
提にするものであるが,控訴人自身が,計測器の設置を進めてきた結果の
数字が上記のとおりのものであり,実際の井戸水の放流量は,設置された
計測器により判断するほかないのであるから,計測器により計測した井戸
水使用量の上記割合をもって,控訴人全域における井戸水世帯の井戸水使
用量の傾向を示すものではないということはできない。
ウ (ア) 控訴人は,本件放流量認定基準を見直すと下水料金の収益が減少す
るため,下水道事業の運営維持のため下水料金を値上げする必要が生じ
る旨主張する。
なるほど,下水事業の維持のために,一定の収益を確保することは必
要なことであるが,下水料金の値上げを回避するために,実際の放流量
との差異がもはや合理的とはいえない本件放流量認定基準をそのままに
してこれを適用すれば,同認定基準の適用を受ける井戸水使用者の犠牲
の下に収益を確保する結果となるのであり,下水道法20条2項4号が
定める特定の使用者に対し不当な差別的取扱いをするものというべきで
あるから,下水料金の値上げをする必要が生じるとしても,これをもっ
て,上記下水道法の定めに反しないということにはならない。
したがって,控訴人の上記主張は採用できない。
(イ) なお,前記認定のとおり,本件放流量認定基準は,平成8年の水道
水世帯の水道使用量に準拠して平成9年に設定され,平成10年から施
行されたものであるが,当時は,井戸水世帯についての計測器の設置が
促進されていなかったことが窺われるから,上記のとおり水道使用量に
準拠して,井戸水世帯の井戸水使用量,ひいては,放流量を定めること
としたことは,他により合理的に井戸水世帯の井戸水使用量を算定又は
特定する手だてが見あたらない以上,不相当とはいえない。
しかし,設定した当時は不相当とはいえなかった本件放流量認定基準
の定める井戸水世帯の放流量については,前記のとおり,平成22年当
時においては,実際の放流量と比較して相当大きな乖離が生じていて,
これを適用して井戸水世帯の放流量を認定することは下水道法20条2
項1号及び4号に反する事態となっているのであるから,本件放流量認
定基準がその設定当初不相当なものでなかったことをもって,上記事態
を正当化することはできない。
エ 以上によれば,4人ないし6人の井戸水世帯について,本件放流量認定
基準を適用して放流量を認定し,認定した放流量に従って従量料金を算出
することは,下水道法20条2項1号及び4号に反して違法というべきで
ある。
しかし,本件条例に基づき控訴人が使用者に対して賦課する下水料金は,
一般汚水については,すべての使用者に一律に課される基本料金800円
と汚水の放流量に従って算定される従量料金との合計額に100分の10
5を乗じた額とされている(本件条例21条1項1号,3項)から,本件
放流量認定基準とそれを適用して得られる従量料金の算定が下水道法の規
定に違反して違法があったとしても,当然に使用者に対して基本料金を賦
課することも違法となるものではないというべきである。
したがって,控訴人が4人の井戸水世帯である被控訴人に対してした本
件処分については,そのうち従量料金分部分についてこれを違法として取
消し,基本料金部分1260円(800円に1.05を乗じた額の1.5
か月分)については,これを適法として認容すべきである。
第4 結論
以上によれば,原判決は,一部相当でないから,これを変更することとし,主
文のとおり判決する。
名古屋高等裁判所民事第3部
裁判長裁判官 長 門 栄 吉
裁判官 内 田 計 一
裁判官 山 崎 秀 尚
|