●関西3空港の活用策をめぐりエスカレートする
大阪・橋下知事vs兵庫・井戸知事のバトル
週刊ダイヤモンド
戦略なき空港建設が日本社会に様々な軋みを生んでいる。
本来、国家的なインフラであるべき空港が、地域のハコモノ感覚で造られてしまい、その数98にのぼる。質ではなく量を追求した整備により、ハブ空港の不在や需要なき地方空港の林立、そして、狭いエリア内での乱立という負の現象が広がっている。
地域エゴのぶつかり合いで過剰整備となっている代表事例が、大阪、関西国際、神戸の関西3空港だ。互いに足を引っ張り合い、地盤沈下する悲劇を生んでいる。
この三つ巴の関係にどう終止符を打つか。国や地域で議論が重ねられているが、いがみ合いはエスカレートする一方だ。
最大の焦点は、伊丹(大阪)空港の存廃である。
関西3空港のあり方についての議論をリードするのは、大阪府の橋下徹知事だ。「関空・伊丹プロジェクト」なる将来戦略を昨年とりまとめ、地域主導によるストックの組み換えを主張、伊丹空港の将来的な廃止を明確に掲げた。
大阪府・橋本知事構想では リニアが来れば伊丹は廃港
橋下戦略のポイントは2点。
ひとつは、JR東海が計画中のリニア中央新幹線と3空港問題をセットで考えるという点だ。東京~大阪間のリニア開業と同時に伊丹廃港をという。需要の4割を占める羽田便がリニア開業によって消失し、伊丹空港の存在意義が自然に低下するとみるからだ。
2点目は、空港跡地の利活用を地域主導で行い、運用益と売却益を関空の財務改善と関空リニアの整備に充てる戦略だ。即時ではなく、中長期の地域戦略として伊丹空港の廃止を掲げたのだが、それでも、これまでタブー視されてきた議論に踏み込んだ。
これに猛反発したのが、伊丹空港の地元の井戸敏三兵庫県知事である。3空港を一元管理して運用を改善すれば、地域全体の需要は増えると、持論を展開。伊丹存続を強く主張した。そして、伊丹廃止によって関空の需要を高めようというのは、「負け犬の論理」だと橋下知事を一蹴した。両知事の間で激しいバトルが展開されるようになり、争いの渦は広がっていった。
兵庫県議会が3月23日に伊丹空港の存続を求める決議を採択した。その翌日、大阪府議会が「関空ハブ化実現のために、伊丹空港の中長期的な廃港を考える」との決議を可決し、橋下知事に同調した。
さらに、その翌日の25日に伊丹空港の地元、大阪府豊中市議会が「存続」、隣接地の大阪府箕面市議会が「廃止」という、相反する決議をそれぞれ可決した。タブーに踏み込んだ橋下知事の突破力により、伊丹空港の存続をめぐる議論が一気に過熱するようになったのである。
なぜ狭い関西圏に 3つの空港が乱立したか
それにしても、なぜ、狭い関西圏に空港が3つもできたのかと、不思議に思う人も多いだろう。様々な事情が絡み合い、もつれ合ってのことだ。ざっと経緯を説明したい。
1959年に開港した伊丹空港は長年、関西圏の拠点空港と位置付けられていた。国が設置管理する第1種空港(当時)で、利便性の良さを誇っていた。しかし、空港用地が住宅地に隣接し、騒音や安全性、そして、狭隘さ(311ヘクタール)という問題を抱えていた。
2本の滑走路(1828メートルと3000メートル)を持つものの、増え続ける需要に対応しにくくなっていた。将来の容量不足は明らかで、新たな拠点空港の設置が課題となった。当初、新空港の有力候補地として浮上したのが、神戸沖だった。
ところが、当時の神戸市は空港を迷惑施設ととらえ、建設に猛反対した。国はやむなく神戸沖を断念、泉南沖に新空港を建設することにした。大阪都心から38キロも離れ、交通の便に難のあるところだった。
関西国際空港の建設が開始された。海を埋め立て、1055ヘクタールもの空港島を造る巨大事業となった。1994年に1本目の滑走路(3500メートル)が完成し、開港となった。しかし、新空港の前途は明るいものではなかった。いくつもの課題が待ち構えていたからだ。
ひとつは、伊丹空港との関係だ。関空開港後に伊丹空港は廃止されると、多くの人がみていた。しかし、そうはならなかった。地元が伊丹廃港に反対し、存続をごり押ししたからだと、一般にいわれている。伊丹空港存続は地域エゴによるものとの見方である。事実はそうではない。
関西3空港の在り方をめぐる、ある提言
関空の開港にメドがついた頃、伊丹をどうするかが俎上にあがった。地元は当時、廃港論だったが、国(当時の運輸省)は航空需要の拡大や伊丹の利便性を考え、関空開港後も伊丹は必要と判断していた。それで、1990年に地元との間で存続協定が締結されたのだが、国は「地元から存続の陳情をしてほしい」と働き掛けて、あたかも地元の要求で伊丹を存続させたかのように装ったという。
その後、関空の2期工事が完了し、07年から2本目の滑走路(4000メートル)も、供用開始された。相前後して国は伊丹空港への規制を強める策に出た。長距離便や大型機の就航禁止などで、関空へのテコ入れを狙いとしている。結局、国は関空と伊丹の役割や将来像について明確なビジョンを示さずにきたのである。
関西の空港問題をさらに混迷させたのが、神戸市の行動である。
神戸沖への新空港建設を拒否した神戸市が突如、豹変し、市営空港の建設を最優先施策に掲げたのである。ポートアイランド沖に空港島(272ヘクタール)を造り、2500メートルの滑走路をもつ神戸空港を06年に開港させた。関空と伊丹の間に割って入ったのである。
しかし、神戸空港の利用は伸びず、需要予測の8割程度に低迷。JALが5月に撤退することが決定している。市営とはいえ、国の設置許可がなければ空港は造れない。つまり、関西に3空港が乱立する事態を生み出したのは、実は国である。
ところで、関西3空港の在り方をめぐる提言が、ある研究機関によってまとめられた。
それは、関空と神戸空港を海底トンネルで結び、合体させるという構想だ。23キロに及ぶ海底トンネルの総工費は約5200億円。両空港をリニア方式の地下鉄により、約15分で結ぶという。両空港を合体させて「大阪湾国際空港」を創設するという提案だ。
斬新な提案のように思えるが、じつは神戸空港が開港する以前から囁かれていた構想だ。この「大阪湾国際空港」と伊丹空港を一元管理するというもので、現状打破とは言い難い。
関西3空港をいったいどうするか。地域エゴや短期的な視点を廃し、利用者と中長期の2つの視点が不可欠だ。そして、何よりも関空へのアクセスの大幅改善が大前提となる。
(「週刊ダイヤモンド」委嘱記者 相川俊英) |