tnlabo’s blog   「付加価値」概念を基本に経済、経営、労働、環境等についての論評

人間が住む地球環境を、より豊かでより快適なものにするために付加価値をどう創りどう使うか。

企業は本格的高齢化への対応整備へ

2024年01月13日 13時01分12秒 | 労働問題

人生50年でした、年功賃金、55歳定年制プラス退職一時金という従業員処遇制度は終身雇用制度として設計されたのです、などと外国人に説明ていた時代は歴史上の話となりました。

世界屈指の平均寿命を記録し続け、平和(戦没者無し)で安定した社会を築く努力を重ねている日本の企業では、戦後平均寿命の伸びとともに雇用制度の改革に種々の努力をしてきました。

もともと日本企業の考え方は、欧米流の「必要なときに雇い、要らなくなったら解雇する」という hire and fire の考え方とは違って、わが社という人間集団に入ったものは生涯面倒を見るという理念に立っていたのです。

変化は2つの要因から起きることになりました。1つは平均寿命の延伸、もう一つは社会保障制度の進展とその財政事情です。

定年制度は60歳に伸び、雇用努力義務は65歳という事になり、それでも間に合わない、というので、65歳雇用義務、雇用確保努力義務が70歳という事になっています。

こうした変更は、財源に不安のある公的年金制度との整合性を取るために決められているわけで、長期不況に悩まされて来た企業にとってみれば、雇用についての義務や確保努力を課せられるという負担の面を強く感じさせてきたようです。

ところがこのところ、企業サイドからの定年制、定年再雇用制度、それに伴う賃金制度の改革などの動きについての報道が多くなってきました。

目立つのは定年再雇用の際の賃金水準を、従来より高く設定するとか、job wage 対応にするといったものです。

こうした動きが出てきたという事は、企業が定年延長、再雇用などを行政から押し付けられてするのではなく、企業として、熟練労働力の有効活用、従業員に雇用安定意識を持ってもらい、高齢になっても安心して慣れ親しんだ職場で得意な職務に専念して貰えるというメリットに注目した結果であるように感じられます。

このブログでもすでに触れているところですが、定年再雇用などで、ベテラン従業員を閑職に異動し大幅に賃金水準を引き下げることがい一般化すような状態は、折角職場で鍛え上げた職務遂行能力の活用を年齢が来たからやめるという愚行だとみてきました。

これは勿論当該従業員にとっても極めて不本意なもので、そうしたモラール低下も考えれば、企業全体のパフォーマンスの低下でもあることは明らかでしょう。

そうした意味では、企業としても、長い年月をかけて育ててきたコストを十分回収しないで終わるという極めて勿体ない事をしていると言えるでしょう。

ところで、政府は「働き方改革」で、日本的経営を欧米流の職務中心方式に変えようと熱心ですが、企業の方は、新卒一括採用を辞めない様に、人間集団としての企業の在り方をやめませんから、企業として人を育て、育てた成果を確り回収するという人材の育成/活用計画のバランス管理は、高齢化時代を背景に、更に重要になるわけです。そしてこれは伝統的な人間中心日本艇経営の理念に通じるもののようです。

これは大きく見れば平均寿命の延伸、職業人生の長期化の中で、企業にも、従業員にも最適な雇用人事システムの模索の本格的な動きに通じるものでもあるわけです。

高齢社会のさなる進展は当分続きそうです。今後もこうした企業の動きに注目していきたいと思っています。


有史以来の変な春闘、現実に気付く事が大切

2024年01月02日 13時01分25秒 | 労働問題

能登半島地震で被災された皆様には心よりお見舞い申し上げます。自然は時に苛酷です。でも、皆様の復興の努力には必ず答えてくれることを願っています。

 

新春早々、日本経済の行く先を左右すると言われている今年の春闘についての経営側からのメッセージが報道されています。

経団連の十倉会長は、賃上げへの熱量と意気込みは去年に負けない、結果も必ず昨年以上となってついてくると思うという趣旨の発言を新春インタビューで述べています。

経済同友会の新浪代表幹事は、昨年暮れの連合の2035年までに最低賃金1600円以上を目指すという方針を意識してでしょう、最低賃金が2000円を越えるような経済を目指すと新春インタビューで発言しています。

もともと春藤は、英語ではspring offensiveと言われていて、経営側にとってはspring deffesiveですねなどと言われていたものですが、今年は攻守所を変えて、経営側からの賃上げへの積極的な意見が聞かれます。

労働側の要求に対抗して、経営側は過剰な賃上げないならないために防御態勢というのが世界共通で、日本も以前はそうだったのですが、この所は、経営側が積極的に賃上げをすべきと発言しています。

昨年もそうでしたが、主要企業などで、組合の要求に対し、満額回答というケースが多くみられますが、これは、企業の財務・収益といった見地から満額回答をしても問題ないという経営側の判断を示していると言えます。

今年は労働側の慎ましい要求基準に対して、経営側が積極的に賃上げをしようという意思表示という様相で、元日早々経営側発言が、賃上げは必要、昨年より高い結果を期待する、といった国際的に見ればまさに異常な労使の賃上げに対する意識の状況という事になっています。

何故こんなことになっているのでしょうか。理由は、経営側が、日本経済、日本企業の立場として、多少とも積極的な賃金水準の是正をした方が、日本経済にとっても、自社の経営にとってもいいのではないかという意識を持っているからでしょう。

その意味では、日本経済にとっての賃金水準のあるべき姿に、今の賃金水準は達していないという、経済分析、経営分析について、経営側の方がより速く、より正確に現状を把握しているという事でしょう。

一方、労働側は、長期不況の中で経営側と一緒に苦労してきた中で、無理な要求なしないという意識が強く、その感覚に未だ支配されているというように感じられます。

欧米労組の様に、労働側の代表として出来るだけ高い賃金を実現する事が役割で、経営者はそれを払った上で利益を出すことが役割といった労使関係とは違うようです。これは欧米の労働組織が産業別、職種別なのに対し日本は企業別という要素が大きいのでしょう。

つまり、日本経済、企業経営の現状は賃金水準を引き上げ、日本中の世帯がより大きい購買力を持ち、消費需要の積極的な拡大を必要としているという事に経営者の多くが気づいて来たという事に他ならないのです。

経済学者をトップに据えた日銀も、より多くの経営者が、それに気づいてくれることを願っているのでしょう。

その実現のためには、経営側には、国内のサプライチェーン(下請け構造)における付加価値の配分に公正を期する事も要請されます。これは経営側の重要な課題で、得にd最低賃金の引き上げのためには必須の課題でしょう。


賃金雑感-労働とおカネの接点- 

2023年12月28日 17時41分50秒 | 労働問題

今年から来年にかけて、来春闘と中心に、賃金に関わる議論が活発になりそうです。

普通なら、金融政策で金利水準や金利や通貨の量的調節、それに絡んで国債発行の問題などが専門の日本銀行さえも、来年の賃上げがどうなるかに強い関心を持っているのです。

このブログは、実は賃金というのは大変大事で、経済社会の安定的な発展の基本的部分に深く関係していると考えています。

経済社会は基本的に、人間とカネの関係、そのバランスで動いているというのは、昔から経済学者の研究のベースになっていたようです。

経済原論では、生産の3要素として、土地、労働、資本と教えてくれましたが、今は土地は資本の中に含まれ、産業活動は「人間と資本」で成り立っていると言われます。

このブログでは企業というのは「人間が資本を使って付加価値の生産をするシステム」と定義しています。

そして企業などが作った付加価値の総合計がGDPで、国民経済はその付加価値を生産要素である人間(労働)と資本に分配し、翌年の生産の準備をするという事になっているのです。

付加価値が順調に増えれば労働に分配される分も順調に増えて行くわけです。

付加価値が労働に分配される具体的な形が「賃金」ですから、「賃金」は「おカネと労働の接点」なのです。

2つある生産要素の接点が賃金なのですから、こんな重要なポイントはありません。つまり賃金決定の在り方を見ていれば、生産活動、経済活動がどうなるかという事は一番よくわかるという事になります。

先ず、分配が賃金の方に寄りすぎると資本が不足して生産が増えない。資本により過ぎると生産は増えても需要が無いから生産物が売れない。インフレとデフレの原因です。

賃金の配分が不公平になりますと、格差社会になって社会に不満が生まれ、社会が混乱したり劣化したりします。

では、政府は何をするのかと言いますと、人間への分配と資本への分配の夫々から税金を取って、政府への分配とし、それを使って、その国の経済活動が順調にいくように、適切なルールを作って、国全体としての調節をするのが役割でしょう。

大方の経済問題は、これらのプレーヤー(政・労・使)の行動が自分の利害を優先して、全体の調和に失敗するのが原因です。

複数の失敗が重複すると、解決はなかなか難しいことになります。日本経済の現状は、政府、労働、使用者の3者がそれぞれ失敗したことによるように思われますが、政府の失敗が最も大きいようです。

問題解決のために、金融専門の日銀が、学者の総裁を迎え、客観的な目で見て頂こうという事のようですが、今回は日銀が「賃金」に注目している事が示しますように、「賃金決定」がやっぱり重要な日本経済復活の鍵という事になるのでしょう。


連合、最低賃金を2035年1600円超に

2023年12月23日 15時01分42秒 | 労働問題
来春闘で、連合が今春の要求の定昇込み5%に「定昇込み5%以上」と「以上」を付けただけの要求を掲げたところ、金属労協が今年の6000円要求を10000円に、基幹労連が今年の3500円要求を12000円に引き上げて、来春闘に向けての強力な賃上げ意欲を示しました。

労組のナショナルセンターである連合としては些かモデストに過ぎる要求基準という雰囲気になってしまったかなという感じを受けていたところに、今度は連合が、今年時給1000円という目標を達成した最低賃金について、2035年までに1600円以上に引き上げるという目標を固めたという報道がありました。

連合の意識としては大企業の賃上げで中小企業との賃金格差が拡大しないよう、最低賃金の引き上げで格差是正をという意識が強いと思われますが、12年で6割上げるというのは年率4%です。長期計画も長期に過ぎる感じです。その間何が起きるか・・・。

ところで、今年は4%の最低賃金の上昇が実現して1000円乗せになったわけですが、この所の最低賃金の急激な引き上げは、厚労省主導のもので、審議会では公益委員が厚労省の方針を示し、当然労働側は引き上げに賛成、使用者側はが反対しても2対1で多数決というケースが多いようです。

一方厚労省はこの夏に2030年代半ばに最低賃金を1500円にするという目標を掲げていますから、連合の目標は政府と連合の合意でほぼ達成でしょう。

それはそれでいいにしても、問題が2つほど残るという気がします。
1つは、これで格差是正が目に見えて進むかという問題、2つは、最賃引き上げで、非正規労働者の問題は解決するのかです。

賃金格差問題の発生は、基本的には、企業の非正規労働者の多用によるものです。雇用構造からみても、格差拡大に発する種々の社会問題から見ても、正規労働者として働いて家計を支えるべき人が、正規雇用者になれないという問題こそが主因でしょう。

嘗ての円高不況の中でコスト削減のための窮余の一策だったはずの非正規雇用の増加が円安になってももとにもどらないという経営者の行動を正していくのは、連合の大きな役割ではないでしょうか。(連合は正規雇用者の組織といった意識はもうないはずです)

これは連合自身が、経営者と話し合わなければならない問題でしょう。
非正規雇用4割という現実が、如何に格差問題を含む社会問題に大きなひずみを齎しているかを説き、労使の徹底した真剣な取り組みによって解決すべき問題ではないでしょうか。

最低賃金引き上げで政府・労働の協力も結構かもしれませんが、雇用構造の是正といったより構造的、本質的な問題についても、ナショナルセンターとしての連合の、経営者の在り方につての積極的発言が大いに期待されるところではないでしょいうか。

連合は時代認識に遅れをとるな

2023年12月07日 16時05分19秒 | 労働問題
11月28日に、「金属労協、ベア10,000円以上の要求へ」を書きました。これは正式決定になりましたが、今春闘の6000円を大きく上回る要求基準です。

連合の場合は、今年の「定昇込み5%」に「以上」を付けただけのモデストなものですが、この来春闘についての要求基準の判断の差はどこから来るのでしょうか。

金属産業は輸出企業が多く、円安で潤っているから要求基準を引き上げても良いが、連合は全産業をカバーする組織だからそうはいかないといった説明で済むのでしょうか。

労働組合のナショナルセンターの役割というのは、あらゆる産業、あらゆる企業、あらゆる職務についている人々(労働者)がそれぞれに社会の中で果たす役割に相応しい処遇を受けられるよう配慮するという事ではないでしょうか。

余り指摘したくはない事ですが、金属産業の中でも正規、非正規という身分の違いで教育訓練の機会にも恵まれず、低賃金に甘んじる人達もいます。
その多くは連合の傘下ではないという事で済ませていいのでしょうか。

企業側の配慮で正規転換といったケースもありますが、経営者に任すべき事ではないでしょう。アベノミクスの第1の矢で、円レートが正常化(円安実現)したとき、円高で増えた非正規の正規化運動を連合がリードしたでしょうか。連合は正規中心だからという批判もありました。

労働経済全体の問題としては、技術革新で生産性が上がる産業と対個人ザービス(介護などのエッセンシャルワーカー)といった生産性の上がりにくい産業、職種もあります。

この問題は、生産性の上げやすい部門から生産性の上げにくい部門に付加価値を移転し、社会的にバランスの取れた賃金水準、賃金構造にしなければ社会の安定はありません。

こうした問題は、もちろん政府の税制・社会保障制度、中心の問題ですが、労組のナショナルセンターとしての連合が、賃金水準をベースに発言し行動できるところは大きいはずです。

さらに大きな問題もあります、アベノミクスによる円安、また、今回の円安といった円安の中で、国際的に見た日本の賃金水準は大幅に下がっているのです。

他方、輸出関連企業は円安差益を得、輸入関連企業は政府の手厚い助成金などがありましたが、労働者の賃金水準に関しては、特段の配慮はありませんでした。

賃金は、連合の要求基準設定に任されていたとしか見えません。そして、連合は、円安による国際的実質賃金水準の低下には何も手を打ってこなかったのではないでしょうか。

円高の時は経営者が徹底して人件費削減に努力しました、円安の時は労働組合が人件費(賃金水準)引き上げに本気で努力をしなければならないのです。

それを怠ると、国民の購買力は落ち、家計消費は伸びず、消費不足で経済成長は停滞(自家製デフレ)を招来することになるのです。

プラザ合意、リーマンショックによる円高の時代から、国際情勢の変化の中で、この十数年、円安の時代に流れが変わった日本で、連合はその認識に後れを取ったようです。
労働者は勿論、大多数の国民は、連合のこれからの対応に期待しています。

金属労協、ベア10,000円以上の要求へ

2023年11月28日 12時00分26秒 | 労働問題
金属労協(JMC)が来春闘で、今春闘の6,000円を大幅に上回るベア10,000円の要求で最終調整をしていると今朝の朝日新聞が伝えています。

報道では、金属労協の要求としても過去最高のという事ですが、国際関係をベースにした日本の労働組合組織の動きだけに、そして自動車、電気、基幹など金属関連の産業の労働組合をカバーする協議会組織で、日本の金属産業の主要企業の殆どの組合が参加にいる組織であるだけに来春闘への影響が注目されるところです。

金属労協は、1964年、日本経済が高度成長華やかな頃、日本の金属産業が発展し輸出産業としても世界に注目され始めた頃、IMF(International Metal Federation )の日本委員会(IMF・Japan Committee)として発足したもので、これで日本の金属産業労組も世界主要国の金属産業労組の仲間入りをしたという誇り高い組織です。

春闘華やかなりし頃は鉄鋼労連を中心に、日本の春闘をリードした組織という事も出来ましょう。

世界の産業構造は時代と共に変化し、今は自動車、半導体といったことになって来たようですが、世界の産業構造、貿易構造は、矢張り金属産業が主体という事は大きく変わってはいないようです。

金属労協は、国際的にも、国内的にも主要な産業として、世界経済の発展、変容をリードする産業の労働組合の連帯組織の一員として、今日も重要な役割を持つ組織であると同時に、どちらかというと、常に、国際関係を重視し、民主的労使関係、合理的な活動を主導する労働組合組織と評価される側面を持つという伝統を持っています。

その金属労協がこのところ、連合傘下の組合の組織ではありますが、連合と些か違う春闘を目指しているという事は、国際的により広い視野で見た場合、日本の春闘はこうあるべきではないかという提案をしていると解釈できるような気もするところです。

卑近な例では、アメリカのUAWがビッグ3に対して一斉スト迄打つ労使交渉を展開、アメリカの中間層の復活の方向への意思を示したように、世界的に停滞していた労働運動が、ここにきて動き始めたと感じられる状況もあります。

日本は停滞する労働運動の最右翼かもしれませんが、日本社会も格差化が進み、中間層の縮小が言われる中で、所得水準の国際ランキングは落ちるばかりですが、その中で、賃金水準の停滞、それに加えてアメリカの金利政策によって強いらえた円安が重なり、金属産業の国際競争力は、「開発ではなくコストダウン」で強化されるという状態です。

上記のIMFは、今は「インダストリオール」と名称変更しているそうですが、その主要メンバーとしての金属労協としては、多少とも、国際的に見て合理性のある春闘をリードしなければならないという意識もあるのではないかと思量するところです。

今朝の報道を見て、日本経済は世界に繋がっているのですから、春闘も世界的な視野で見る必要もあるのではないかという事も感じさせられたところです。

正社員の賃金制度と定年再雇用賃金

2023年11月23日 15時56分19秒 | 労働問題
最近ではかなり制度改善が進んできているようですが、高齢化社会が進むにつれて、財政不如意の政府の立場からすれば、社会保障、特に年金財政なども考え、いわゆる正社員の人達に出来るだけ長く働いてもらいたいという事になるようです。

高齢者の就業継続を奨励するという事は、政府の立場を別にしても大変結構なことだと思います。もともと日本人は働くことを善しとし、昔からILOの統計では、高齢者の就業率は世界でも断トツに高いことが知られていました。

ですから、企業に70歳までの雇用義務を要請しても特に驚きません。本人が働きたければ、働いて社会に貢献することは、本人にとっても社会にとってもともに結構なことなのです。

政府は、働く人と辞める人に対して年金の制度設計をすれば、より多くの人が、定年再雇用で、働き慣れた所て、健康が許せば75歳ぐらいまで働きたいと思うのではないでしょうか。

年金設計問題は政府の問題ですが、企業の方では、定年を境に処遇をどうするか、特に定年再雇用者の賃金システムを適切に設計する必要が出て来ます。

今回の問題は、いわゆる正社員の場合ですが、正社員の場合は、多くは職能資格制度で、年功的な部分も持つ賃金システムをお使いではないでしょうか。
春闘の賃上げでも、連合の要求は定昇込み5%以上といった形です。定昇(定期昇給)というのは1年たったら賃金が上がるシステムで、要求自体に年功部分が入っています。

その定昇分は2%という事になっていますが、定昇2%というのは、若い時は定昇率が高く定年近くにはずっと低くなるという「上に凸」の上昇カーブの平均という概念で、若い時の賃金は割安、定年近くでは賃金は割高という形で、結婚、子供の養育という生活費を考慮した賃金制度です。(このシステムの評価はここでの問題ではありません)

日本の賃金制度は、定年までの勤続(いわゆる終身雇用)を前提に、「定年までの生涯賃金プラス退職金」で、従業員の働きと総額人件費がバランスするという前提で成り立っていたわけです。

その結果定年時の賃金は、企業にとっては割高なのです。
ですから定年再雇用の際、定年時の賃金で再雇用することは企業にとって過剰負担になります。
定年再雇用で賃金が定年時の賃金の5割~7割ぐらいに引き下げられるという慣行は、定年時で仕事と賃金の決済は完了、定年以降は新規蒔き直しという、考え方になるのです。

定年再雇用で賃金が下がるので、閑職に異動して賃下げなどという配慮もあるようですが、ベテランの域に達した仕事の継続が最も効率的というケースが多いのではないでしょうか。

その場合、日本人のメンタリティーとして皆一律何%引き下げという形もあるようですが、最近、その職務に応じたジョブ型賃金(職務給)の活用が進められているようです。
定年再雇用が長期化する程、その合理性が見えてくるのではないかと考えます。

大事なことは、長年社内で培った従業員の能力を、企業としてはより長く徹底活用する事、従業員にとっては、最も得意な仕事で思う存分企業に、社会の貢献できるというwin=winの関係を、定年再雇用の中で徹底して生かしていく事ではないかと考ええるところです。

(蛇足)同じ仕事をしていて、定年前と後で賃金が違うのは「同一労働・同一賃金」に反するといった判例もあるようですが、これは過渡期に生じ一過性のものでしょう。

人手不足問題を考える

2023年11月08日 16時46分45秒 | 労働問題
先日の日曜日、NHKも日曜討論で、労働力不足問題を取り上げていました。
現に、介護人材の不足は深刻ですし、タクシー会社では車はあっても運転手がいないといった状況のようです。
番組でも新藤再生相を始め専門家の方達から、楽観、悲観いろいろな意見が出て考えさせるものでした。

確かに少子化、高齢化は進みますし、日本経済はこれから成長しなければならないのですから労働力は必要でしょう。技能実習制度という形で労働力を確保している産業も少なくありません。
恐らくこれからも、人手不足は続くでしょう。

それでも、このブログでは、人手不足の社会は、どちらかと言えば良い社会だと考えています。理由は、人手が不足しているという事は、人の価値が高くなる事だからです。

反対は、失業が深刻な社会でしょう。
それに較べれば、人手不足社会は、何と言っても前向きな社会でしょう。対応策も前向きに考えられる問題ではないでしょうか。

先ず、人手不足の問題をマクロ的に考えれば、日本の1人当たりGDPは世界の28位でしたか。日本より2割3割多いGDPを1人の人が生産している国も結構あるわけです。

そうした国を参考に、一人あたりの生産性を上げていけば、基本的に人手が絶対的に不足する状態ではないわけです。解決策はあるはずです。
という事で、先ず、人手不足の理由を考えてみれば、大きく2つありそうです。
1つは、人手過剰の所と不足の所がある可能性で、雇用構造の見直しの必要
2つは、一人ひとりの生産性の向上、省力設備、技能の向上がおくれた事
そして解決のための手段は、雇用構造の見直しと社会的賃金構造の見直しでしょう。

些か単純化しましたが、基本はこうした政策の積極化でしょう。

一寸極端な発想ですが、アメリカの上院議員数は100人、日本の参議院議員数は248人、アメリカの人口は日本の3倍以上です。そして、日本が100人にしても日本が潰れると思っている人はいないでしょう。

生成AI の普及で、ホワイトカラーの余剰が増えるという現実もあります。公務員に週休3日制導入などという意見もあります。人手過剰のところもあるのです。

生産現場でも省力化、無人化は進みます。非正規従業員の訓練を徹底すれば、生産性は上がるでしょう。生産性上昇次第で人手不足は緩和されます。

積極的に人員構成を見直し余剰人員を発生させる努力、それを不足する部門で吸収する努力、企業構造、産業構造の発展進化する中で、企業の新規事業の開拓、スタートアップの積極化でエッセンシャルワーカと言われる生産性の上げにくい部門への労働移動を実現する努力、これらは皆前向きの努力です。

こうした動きを積極化するためには,企業内でも、社会全体でも、賃金の役割、賃金構造の在り方に、「価格機構」の働きをいかに生かすかが大事でしょう。
賃金水準が低ければ、人は集まらないという人手不足の側面に十分注目することが極めて重要です。「カネの問題ではない」などと言ってはいけないようです。

これは社会的賃金構造の変革です。その社会において労働力の不足する職種・職務については、充足する水準にまで賃金水準の引き上げが必要なのです。
これは最低、あるいは基本条件ではないでしょか。

政府に必要なことは、社会の動きとともに変化する雇用構造への要請に、社会的賃金構造がマッチするように、常にルール(規制)を見直し、「神の見えざる手」(価格機構)がこの面でも適切に機能するように考え、旧来の制度化や規制で邪魔しない事ではないでしょうか。

悲観論を丁寧に説明しても誰も喜ばない

2023年10月31日 17時44分38秒 | 労働問題
前3回にわたって、「賃上げ圧力の低い社会では生活は良くならない」ことを説明してきたつもりです。

「矢っ張りそうですね」とご理解いただいた方もおられますが、お読みいただいた方も、書いた私自身も、少しも面白くないと思います。

それならどうすればいいのか考えますと、「こうすれば良いでしょう」との提案が、実現可能かどうか別にしても、付け足されるべきだと気付きました。

アメリカやヨーロッパの労働組合は、先ず自分たちの生活を考えて、目いっぱいの要求をします。労使関係は元々敵対的なのです。
経営側と交渉してお互いの徹底的に突っ張って、最後に妥協したところがベストの結論というのが労使交渉の哲学です。

人間中心でコンセンサス社会の日本では、企業は人間集団、我儘より皆の事を考えて一致したところがベストの結論なのです。
労使関係でも当然相手の事も考えます。これは素晴らしい事ですが、相手の方が上手だったり強かったりすると上手く行きません。

日本の高度成長期にはラッカープラン(労使で望ましい労働分配率を決めてそれに従って利益と人件費を配分する方式)なども流行り、利益と人件費は同じ率で伸びるようにする企業もありました。

しかし、不況になって利益は半分に減っても、人件費は半分には出来ないので、不況になると止める企業が多かったようで、今は見られないようです。

日本の労働組合は殆ど企業単位ですから、従業員にも会社が潰れたら元も子もないという意識があります。最後は経営側の意向で妥協といったことも多いでしょう。

連合にしても、日本経済を大事にしなければという気持ちは強いでしょう。ですから経済成長がゼロか僅かの時に大幅賃上げなどとは言いにくいでしょう。

この生真面目さが、かつては労使協調、低インフレで「ジャパンアズナンバーワン」を生みなしたが、残念ながら今は、経済の停滞を生んでいるのです。

この違いを生まれる原因は何でしょうか。
具体的に言えば、「定昇+実質経済成長率」という連合の賃上げ基準が、合理的な賃金決定基準ではないという国際経済環境に、今の日本はあるという事なのです。

今の日本は、恐らく来春闘で10%程度の賃上げをしてもビクともしないでしょう。
「とんでもない、そんな余力はない」といわれる経営者は多いと思います。従来の感覚を前提にすればそうでしょう。

しかし、もし「人件費上昇分は製品・サービス価格を上げて結構です」という産業界全体の雰囲気が出来ればそれは可能でしょう。
政府・日銀の言う「賃金上昇を伴うインフレ目標」では「サプライチェーンの賃上げによる賃金コストの「2%」は、賃金上昇の価格転嫁はその範囲でOKなのです。

2%というのはアメリカのFRBがゼロ金利にした時決めたもので、日本は日本の状況に応じて決めるべきなのです。そして、政・労・使が合意すればいいのです。

今、賃金は(家計調査によれば)殆ど上らず消費者物価の食料品、飲料、外食、宿泊費などは10%前後の上昇です。政府・日銀はそれを注視(放置)しているだけです。

その程度物価が上がってもインバウンドは増えるばかりです。しかもアジアの途上国からです。彼らの購買力は賃上げで上昇、日本の物価は円安で下がっているのです。
一方、日本人の購買力は、この所の円安で、国際的に見れば下がるばかりです。購買力と書きましたが、これは賃金と置き換えてもいいでしょう。

こうした状況の中で、日本の企業の支払う賃金水準の決定基準はどう「あるべきか」というのが、与えられている本当の問題なのです。(長くなるので次回にします)

財界は「5%以上」でも難色か?

2023年10月20日 14時56分17秒 | 労働問題
財界は「5%以上」でも難色か
連合が来春闘の地投げ要求を「5%以上」という事で正式に発表しました。

このブログの分析からすれば、昨年・今年の「賃上げ」は日本経済の行方の決定的な判断材料になるもの。岸田総理の減税政策よりずっと重要な経済的影響力を持っています。
しかし、残念ながら新聞の記事などは、それに比し随分小さいようです。

政府の減税政策は、経済状態の後追いのパッチワークですが、連合の賃上げ要求は日本経済全体の過半を占める家計の消費需要を左右し、日本経済のバイタリティーに決定的な役割を持つ日本経済の原動力を左右するものだからです。

それにしては連合は慎ましやかだと思いますが、日銀は大きな関心を持っているようです。
日銀は「賃上げを伴う物価上昇」が起きることが異次元金融緩和政策の転換の条件と言っていますから実質賃金低下では動きが取れないとの思いもあるのでしょう。

要求は、昨年の「5%」に「以上」が付いた「だけ」ですが、財界からはすでに懸念の声が上がっているようです。

特に中小企業の代表とも言うべき日本商工会議所は「物価上昇をカバーする賃
上げが望ましいと言いながら「以上」が付くことには難色を示すようです。

財界総本山の経団連は「物価上昇以上の賃上げに昨年同様取り組む姿勢」のようですが、昨年は、その意気込みも成果なしでした。

財界は、連合の要求を受けて立つ立場ですから、受け身になるのは当然かもしれませんが、経済界として、日本経済を活力ある成長経済に持っていくために如何なる賃上げが必要かという、日本経済を支える立場からの発言が聞きたいところです。

経団連の十倉会長の言葉からは、そうした雰囲気が感じられるところですが、具体的な説明がないのが残念です。

「望ましい」のは、連合の「以上」をつけた要求がそれなりの成果を上げ、昨年以上の賃上げ率が達成され、一方、物価の方は現状がピークになり、次第に落ち着き、結果的に実質賃金がプラスになって行くというプロセスが「巧く」起きてくれる可能性です。

しかしこれはかなり難しいことになりそうです。今の消費者物価の上昇は3%台ですが、エネルギー関係の補助金で1%下げていますから本当のインフレは4%台となり、賃上げが1%増えても実質賃金プラスは難しいでしょう。
政府は補助金を当面延長と言っていますが、補助金は一時的で持続可能ではありません。

一方食料品や日用品のような生活必需品の値上がりは10%前後に達し、10月からの一斉値上げでさらに上昇の可能性もあります。

最近の物価上昇の主因であるアメリカの金利引き合上げによる円安は、アメリカの都合でまだ続きそうです。結果、物価は上がり、家計調査で見ますと、この夏から家計は緊縮の生活防衛に戻り、平均消費性向は低下する様相が見えています。

日本人は耐乏生活で、良いものを安く作って、外国やインバウンドを喜ばせているというのがアベノミクス以来の日本という事なのです。円安対応の方法論が間違っているのです。

政労使と言いますが、政府が本気で考えているのは「選挙」で、経済政策は後追い中心、労使は共に受け身で、自分達が日本経済を創っていく気概を忘れているようです。

石油危機の時には経営者が日本を救おうと立ち上がりました。そして成功し「ジャパンアズナンバーワンの基礎を作りました。
その伝で言えば、いまは連合が賃上げで日本を救う立場でしょう。変動相場制下の賃金決定論の理論的支柱になってくれることを期待します。
<蛇足>
問題は日本全体が受け身になっている事でしょう。政府はアメリカの受け身、国民はその政府の政策に受け身で注文を付けるだけ。
これがあらゆる分野で世界ランキングを落としてきた衰亡日本の最大原因のようです。

来春闘、連合「5%以上」を要求の方針!?

2023年10月18日 12時35分17秒 | 労働問題
来春闘、連合「5%以上」を要求の方針!?
最初に指摘しておきたい事:「連合が要求しなければ日本の賃金は上がりません。」

まだ組織決定ではないようですが、即座に感じたのは、これでは今迄の繰り返しになってしまうという危機感です。

解説には、昨年は「5%程度」でしたが、連合は「表現を強めた」と書いてありました。
連合は誰かに遠慮しているのでしょうか。マスコミでは17カ月連続で実質賃金低下と書かれています。国際的な日本の賃金は大幅に低下しています。

連合は労働者を代表する組織のはずです。殆どの日本の家計は労働者の賃金によって支えられているのです。当然賃上げは最大の関心事です。

政府は賃上げ奨励、昨年は経団連も賃上げ容認と言って、連合は3.8%の賃上げ獲得と自讃しましたが、その結果は17か月実質賃金マイナスの連続です。何かが間違っているのです。

今年は、加えて大幅円安の最中です、円レート149円は2年前に比べれば35%の円安で、ドル建てで見れば、日本の賃金水準は2年前に比べれば26%下がっているという事です。

連合の賃上げ要求は「定昇2%+ベア3%以上」という事ですが、円建ての賃金低下に較べればほんの僅かです。国際的に見て日本の賃金水準は下がる一方です。

日本は元々国際競争力で生きている国ですから、円安で強くなった国際競争力はどうなっているのかと言いますと、それは輸出関連部門の円高差益になって、増益の結果法人税収入は増え、企業と政府が潤っているのでしょう。

政府はそれと国債発行の収入で、輸入部門への補助金や、各種のバラマキです。
働く人々への分配は、連合の獲得力では、結果は17カ月連続の実質賃金マイナスという事に連合は気付いているのでしょうか。連合は勤労者家計を支えているのでしょうか

連合の誤解は、インフレを気にし過ぎている事でしょう。50年前、石油危機の時、当時の日経連が賃上げを抑えて、インフレを止めるべきだと主張したのは、インフレは日本の生命線である国際競争力の喪失に直結するという危機感からでしょう。

今は、国際化がさらに進み、インバウンドも含めて日本の競争力は目に見える形で実感出来ます。日本は為替レート110円でも国際競争力のあることはすでに実証されています。

いまの円レート149円が早晩110円に戻るというのなら為替レートの変動は一時的と片づけられるかもしれません。
しかし日銀短観にも見るように、企業は当面130円を想定していますし、アメリカ経済を見ても、円安は簡単には収まらないようです。

主要国がインフレを経験するたびに、日本の国際競争力は強くなります。
アベノミクスの時は、80円から120円への円レートの変化のかなりの部分を非正規労働の正規化や全体的な賃上げに使い、国際競争力の向上を労働分配にも使うという発想がなかったゆえに、10年近い消費低迷、ゼロ成長状態を招く結果になりました。

これからは世界の物価が上がれば日本の物価も上がります。国際経済の浸透はますます激しくなるでしょう。

連合は、賃金問題を、円建てのインフレ問題で考えるのではなく、日本の国際競争力とのバランスで考えるような感覚を持たなければ、日本の勤労者の家計の改善は進まず、日本の賃金水準の国際ランキングの上昇は望めないのではないでしょうか。

頑張るUAW、連合の来春闘は?

2023年10月14日 14時59分53秒 | 労働問題
先月の18日にアメリカで9月15日に始まったUAW(全米自動車労組)のストライキを取り上げました。
ストが始まってもう1カ月ですが、労使はともに譲らず、ストは続いているようです。

最大の争点は勿論賃上げで、UAWの要求はこれからの4年協定で今年は20%、来年以降は年5%で、累計39%(通常4年で40%と言われている)です。ビッグ3(GM、フォード、ステランティス)の方は4年で20~23%(今年8%、後3年は4%と推定)を提示しているようですがストは続いています。

UAWの要求根拠は昨年から年10%レベルのインフレで去年の分も入れて今年は20%、来年からはインフレは5%以下だろうというような計算と推測でき、ビッグ3の方は過去は別で、インフレはピークで8%、来年以降は3~4%という見方でしょう。

第三者の目から見れば、如何にもUAWの要求は、力ずくで大幅賃上げを勝ち取ろうという感じですが、労働組合としては、これまでの4年間いろいろと我慢して来たという思いは強いのでしょう。

アメリカ経済の好調もあり、アマゾンその他の組合結成の動きもあったりして、この際労組の力を取り戻そうという意気込みもあり、アメリカの労働運動の代表ともいえるUAWは頑張っているのでしょう。

しかし、要求の幅はいかにも大きすぎて、実現すれば、アメリカの自動車産業のコストは高過ぎて、国際競争に太刀打ちできないという事になるでしょう。

更には、こうした高賃上げが波及し、物価上昇を誘発すればFRBは金利を引き上げて円高、企業サイドにはますます不利になるといった読みもあるのでしょう。

問題は、アメリカ経済自体の国際収支の赤字体質、高コスト、インフレ体質といった恒常的な問題があるにもかかわらず、UAWは何とか無理な要求も押し通そうと、ビッグ3全てでストに入るという初めての総がかりともいうべきストを、その範囲も拡大させながら続けるという強硬さです。

どう決着するかは解りませんが、そこで考えてしまうのが、日本の労働組合の連合との対比です。

日本の労働組合は、今春闘で頑張って賃上げしたつもりが17カ月連続の実質賃金低下という惨状にあります。

しかも、日本は万年経常黒字国で、それでありながらこの所は大幅円安で、国際競争力は強化されるばかり、しかし実質賃金の低下で、消費需要は低迷、家計は改めて緊縮の動きを見せ、低賃金の非正規労働者が家計を支える貧困家庭は増加傾向、マクロ経済で見れば、消費需要の不足が低成長の元凶と言われる状態です。

政府や企業サイドから賃上げも必要といった声も聞こえる中(賃上げ不足による消費不振で低迷する)年々の経済成長率を基準にした賃上げを生真面目に守り続けているのです。

較べてみますと、まさに、典型的な「やり過ぎ」と「やらな過ぎ」の日米労組といった感じではないでしょうか。

「やり過ぎ」のアメリカはかつてスタグフレーションに呻吟、労働組合も「やり過ぎ」を反省して何とか復活しました。

日本(連合)は、国際経済の環境変化の中で「やらな過ぎ」になり、アベノミクスも、岸田流「成長と分配の好循環」も起動せず、低迷を続けることになってしまっています。

そろそろここいらで「やらな過ぎ」を脱して、やるべき事はやるという所に上らないと、今の国際経済環境では、時代遅れの真面目さで、損ばかりすることになりそうな気がします。
来春闘に向けて連合がどんな賃金要求を打ち出すか、最大限の興味を持って見守っています。

政府・日銀に出来ることは何なのか

2023年10月10日 20時40分35秒 | 労働問題
政府・日銀に出来ることは何なのか
日銀が苦境に立っています。半分は金融政策の限界によるもの、半分は国際為替戦争についての戦略不足でしょう。

今の日本のインフレは、かなり特殊です。昨年までは、アベノミクス下で8年ほど、世界の物価は上り、日本の輸入価格もじりじり上ってきました(原油などは乱高下)。しかし日本では、「世論や労組からの賃上げ圧力は弱く」、家計は、常に防衛的で、支出を抑え「将来不安・老後不安に備えて貯蓄」という状況が続きました。

消費は伸びず、低成長が続き、値上げ出来る状態ではありませんでした。こうした「我慢の経済」の限界が2021年に来たのでしょう、平均消費性向が反発上昇、消費者物価指数の上昇が始まっています。

消費不況、ゼロ成長の中で輸入品と賃金は、じりじりとコストアップ、8年分をこの2年で取り返そうという「超長周期のコストインフレ」が2021年から起きたようです。

しかもその折、原油価格上昇、ロシアのウクライナ侵攻が起き、輸入物価が上昇、最低賃金が連年3%上昇(今年は4%)のコストプッシュ、他方、コロナ終息気配もあり節約疲れから平均消費性向が上向き、さらにとインバウンド増加で、これらはデマンドプル要因になり、生活必需品、それに外食、宿泊料などは急上昇、これが昨年来でしょう。

これに追い打ちをかけたのが昨年、今年の大幅円安による輸入品価格の急上昇、輸入インフレです。

今のインフレは複合要因ですが、賃金コストインフレは最低賃金部分を除いて極く一部です。今春闘でも、家計調査の世帯主定期収入は昨年比で減少です。

8年間のコスト上昇を纏めて取り返そうというインフレは、そろそろ終了だったはずです。
しかしこの所深刻化している大幅円安による新しい輸入インフレは、アメリカの金利政策次第です。
アメリカのインフレはすでに収まっていますが、FRBは異常な執念で、インフレの根を断とうというのでしょうか金利引き上げの観測は消えません。。

という事で最後に問題になるのは、アメリカの金利引き下げがいつ始まるかです。日本で何が起きようと、自国の都合しか頭にないFRBですから、これは大変です。

こうした現象からいくつかの視点が浮かび上がります。
先ず、日本がアベノミクス第1弾黒田バズーカで、円安(円レート80円→120円)の時輸入インフレを国内インフレに転嫁しなかったのはなぜか。これは労使の共犯です。

円高の時はあんなに必死に賃金を抑え、非正規増やして賃金コストを下げたのに、円安になっても連合は円安に見合う賃上げを要求せず、経営は非正規の正規化をせず、低賃金のままで、企業は利益と資本蓄積ばかりに目が行っていたようです。

結果は家計の購買力が伸びず消費不況でゼロ成長の連続です。政府は歳入が増えない中、赤字公債で財政政策、国民はこれでは将来の年金も危ないと貯蓄に懸命です。

一方、日銀は、おカネをジャブジャブにして景気回復へと異次元金融緩和継続です。
金融引締めは経済活動の抑制には効きますが、景気の刺激策には異次元記入緩和が限界です。黒田さんは異次元金融緩和で回復を待つだけでした。
しかし、8年周期のコストインフレも、それだけなら、そろそろ終わりだったでしょう。

新たな問題は、最後に加わってきた円安の影響です。これはインフレ心配のアメリカが金利を引き下げるまで続きます。
今日銀が直面しているのは、その結果の日米金利差による円安です。一見これは金融政策の問題で、賃金には関係ないように思われます。

しかし、日米金利差を齎したのは、日米の賃金決定の違いです。問題の基本は賃金問題に帰って来るのです。

金利差の問題と言っても、日銀に打つ手があるのでしょうか。やっぱり日銀は注視して待つ姿勢継続なのでしょう。そして、これは「来春闘の問題です」という事になるのでしょう。

結論は、問題解決の主役は「労使」であって、政府、日銀の打つ手は限られている」という事になるようです。
問題の本質は、「その意識が労使にあるか」ではないでしょうか。

「持続的賃上げ」のリーダーは連合のはずですが

2023年09月27日 15時02分16秒 | 労働問題
「持続的賃上げ」について前回は政府・日銀の「2%インフレ目標」と絡めて書きましたが、「続き希望」のクリックもあり、やっぱり賃上げの実行部隊である労使についても見てみたいと思います。先ずは労働サイドです。

昔、日本の春闘は「スプリング・オフェンシブ」などと英訳されていましたが、「オフェンス」は攻撃という事ですから主役は労働組合、日本ではその代表である連合でしょう。

今年の春闘での連合の要求基準は「定昇2%程度を含む5%」で、その内の3%は日本経済の成長に見合った分という事でした。
昨年までは2+2の4%で、今年は日本経済が活況を取り戻すからと1%プラスだったのでしょう。

この考え方は、政府・日銀の「2%インフレ目標」基づいている一見極めて妥当なものです。理由は、どちらも「名目賃金上昇率-実質国民経済生産性上昇率=物価上昇率」の公式を前提に「4-2=2」、「5-3=2」と置いたものでしょう。

今年の連合は、日本経済が元気になって実質経済成長率が実質3%(注)になるだろうから5%要求にしても物価上昇は「5-3=2%」、だから「+1%」は許されるとの考えでしょう。

こんな真面目な労働組合は多分世界中で連合だけでしょう。日本経済との整合性をきちんと考えて、賃上げ要求をしているのです。

何処の国でも「物価が上がった、それ賃上げ」というのが普通です。当然物価上昇以上の賃上げ要求で、その賃上げが賃金インフレを起こして、忽ち今の欧米の様に10%レベルのインフレになるのです。

連合が上述のような真面目な考え方を持ったのは、多分、第一次石油危機がきっかけです。原油輸入が止まりトイレットペーパー・洗剤パニック、急激なインフレが起き、物価上昇をカバーしようとして33%の賃上げを獲得しましたが、経済はゼロ成長で、賃金インフレを引き起こした経験です。日本は高インフレの国になり、忽ち国際競争力を失って破綻すると言われました。

アカデミアは「いくら賃上げを取っても経済成長がなければ生活は良くならない」と明言し、当時労働運動のリーダーだった鉄鋼労連中心に「経済整合性理論」が生まれ、日本経済の実態に整合した賃上げが望ましいという理論が労組の中でも支配的になったことが理由でしょう。

政府も頑張りました。原油供給国の「アラブ寄り」の政策を急に重視し、市井では「アラブ寄り」ではなく「アブラ(油)よりだ」などと言われました。

その意味では連合の考え方は極めて真面ですが、そのあと日本を襲った為替レートの大変動、「プラザ合意」、「リーマンショック」による大幅円高、そしてその揺り戻しである黒田バズーカによる大幅円安への対応について、政府・日銀の対応失敗の中で、連合も同じ固定相場制前提の「経済整合性理論」を墨守したことは残念というべきでしょう。(そして今の円安の中でも・・・)

一口で言いますと、「円高は賃上げと同じ効果を持ち、円安は賃下げと同じ効果を持つ」という「ドル建ての経済との整合性」を考慮しなければならないという点に尽きるでしょう。

これは今の国際化し、マネー経済化した世界経済の中では当然のことですが、その理論的構成がまだ十分できていない中で、現実の方がどんどん進んでいる事の結果でしょう。

このブログで指摘しているのは、円高の時は日本経済は「試行錯誤」を繰り返しながら必死で対応し切りましたが、円安の中ではアベノミクス、今日の「持続的賃上げ論」など、未だに試行錯誤の真っ只中でしかないう現状です。

連合が「円安は賃金引き下げと同じ効果を持つ」という変動相場制の中での現実をベースにし、来春闘に向けて如何なる賃金理論の下に如何なる賃金要求を打ち出すか、「持続的賃上げ」を超える賃金理論の下にいかなる「賃上げ要求」を打ち出すか、連合の「オフェンス」が日本経済の活性化を生み出す効果を見たいと思っています。
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(注)就業人口は短期的には余り変わりませんから、実質国民経済生産性上昇率と、実質経済成長率はほぼ等しいとしています。

日本経済の現状と賃金決定:「連合の出番」では !

2023年09月19日 14時11分05秒 | 労働問題
最近の生活必需品の価格上昇が著しい事は、統計で見ても、買い物に行っても多くの方がお気付きです。

10月からはまた数千種類の生活必需品の値上げが予定されていることはNHKの報道で拝見しましたが、そうした商品のメーカーも値上げしにくくなっているのではないでしょうか。既に総務省の「家計調査」などでは、家計の買い控えの様子が見えています。

政府もエネルギー関係の商品・サービスについては、補助金を出して値上げを抑えようとしていますが、短期的な円安対策ならいざ知らず、輸入価格の上昇が長引けば続けられない事は明白です。

国際的にインフレの中で、日本だけ物価安定というのがこれ迄でしたが、最近は財政赤字の拡大、円安の放置が顕著で、物価はじりじり上がり、実質消費の減退から低成長経済の常態化というアベノミクスの延長線上に戻りそうな気配です。

何処で間違ったかですが、間違ったなら、今までと違った事をやらなければなりません。それなら何をやるかです。

という事で、主要国がみんなインフレだったら、日本も思い切ってインフレにしてみたらどうでしょう。生活必需品の値上げが続いて、生活が苦しくなったら、消費支出を削るのではなくて、十分な賃上げをして消費を活発にするのです。

そんなことをしたら企業が潰れる、企業にそんな賃金支払能力はない、と言う前に、企業も値上げして利益を確保するのです。現にいま多くの企業がそれをやっています。

十分な賃上げがあれば、家計は節約せずに買い物を楽しみます。多少の値上げでも消費意欲は衰えず、「消費不振」解消は賃上げで可能です。

ある程度の物価上昇は続くでしょう。それはOKです。いま日本の物価は、円安のせいで、国際的にみて異常に低いのです。円安が収まり円レートが110円~120円になっても、「日本製」は国際競争力があり、インバウンドは盛況を続けるでしょう。

注意すべきは、欧米主要国以上のインフレにはしない事だけです。これは日本の労使は、十分に理解していると思っています。

50年前第一次石油危機の際33%の賃上げの結果の22%のインフレを反省した当時の経営者団体(日経連)は「翌年の賃上げは15%以下」と提言し、日本の労使は協調して13%という結果を出し、日本経済をインフレ→スタグフレーション転落から救いました。

来年の春闘では連合が「賃上げ15%以上(注)」を提言し、日本を消費不振の低成長経済から救うというのはどうでしょうか。

こうした提言が出来るのは連合だけですし、消費不振の解消には賃上げ以外の方法はないというのが現状です。つまり連合にしか出来ない事です。(野党結集のバックアップが 得られればベスト)
今回は、まさに「連合の出番」ではないかと思っています。
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(注)15%は50年前の日経連との語呂合わせです。「10%以上」でもいいでしょう。これは賃上げ(純粋ベースアップ)の平均値で、構造的な視点では、家計に責任を持つ非正規従業員の正規化(教育訓練を含む)を強力に要求する必要があるでしょう。