tnlabo’s blog   「付加価値」概念を基本に経済、経営、労働、環境等についての論評

人間が住む地球環境を、より豊かでより快適なものにするために付加価値をどう創りどう使うか。

マネー資本主義と消費不振、労働経済(実体経済)の視点から

2015年06月28日 20時55分49秒 | 経済
マネー資本主義と消費不振、労働経済(実体経済)の視点から
 前二回、此の所の物価超安定の原因について見て来ました。大きく2つに分ければ、貨幣供給をいくら増やしても物価が上がらない。賃金コストプッシュが起きないから物価が上がらないといった状況が見えています。
 
 これは別の視点ですが、マネー資本主義が繁栄する中で、格差社会化が急速に進んでいるという指摘があります。
 ピケティの言うように、格差社会かは、第二次大戦後の一時期を除いて、常に進行するものだといった運命論では身も蓋もありませんが、大事なのは、第二次大戦後の経済の成長期の分析ではないでしょうか。

 この時期の特徴は、多くの国々が、他国や植民地を収奪しなくても、真面目に働けば豊かな国になりうるという経済成長の本質を発見したことです。
 富の移転(収奪)で豊かになるのではなく、生産性を上げることで実体経済が成長拡大し、豊かで快適な社会をつくることが出来ることに気づき、実践した時期です。

 資源の無い日本が勤勉な労働で世界第二の経済大国になったことは、その典型ということが出来ましょう。今、アジアの国々では、この考え方が一般的です。

 この経済成長の概念の中心は「労働生産性」で、これは労働経済のメインテーマの一つです。そして生産性向上の成果をいかに(資本と労働に)分配するかという「労働分配率」が二つ目です。

 こうした人間の努力が生産性向上、豊かで快適な社会の実現に貢献するという概念が、折角形成されてきたところに、その成果をマネーゲームで自分の所に移転させようという「マネー資本主義」が生まれてきたのです。

 マネー資本主義は富を創りません。移転させるだけです。そして積みあがった富は、賃金などに分配されることはなく、より大きなマネーの獲得のために使われます。
 そこには労働分配率の概念はありません。マネーは巨額に積み上がるだけで、均霑しません。実体経済活動、労働経済の分野での活動では「トリクルダウン」が生じますが、マネー経済学では「富(マネー)」の蓄積の格差が発生するだけです。

 これでは、いくら金融を緩和しても、格差の拡大が起こるだけで、一般国民の所得は伸びず、消費も伸びず、実体経済の成長には繋がりません。実体経済・国民生活の向上の遅れ、格差拡大の背後にはマネー資本主義があり、これも物価の上がらない原因でしょう。

物価超安定の時代: デフレ傾向をもたらすもの

2015年06月28日 10時06分09秒 | 経済
物価超安定の時代: デフレ傾向をもたらすもの
 今、日本は低インフレです。安倍政権も日本銀行も、2パーセントインフレという目標を掲げていますが、今年の4月からは消費税増税の影響が消えて、3月までの2パーセント台から0.5パーセント近辺に下がりました。

 私は個人的にはベストの状態と思っていますが、理由は、放っておいても今後消費者物価はじりじり上がるでしょうから、あんまり急いで高くして、あとから引き締めなどといったギクシャクしたことにならないようにする方がいいと思っているからです。

 日本の物価は国際的にも高いものではなく、品質とのバランスで言えば割安でしょう。だから海外から観光客が沢山来てお土産も買って帰るのです。

 国際比較で物価が安ければそれ以下には下がりにくいものです。あとは安定か上がるしかありません。安倍さんは賃金コストプッシュイ・ンフレがいいと考え、賃上げを奨励します。日銀は、通貨供給を増やして物価を上げようとしています。

 今両方とも機能していません。金融緩和で上がるのは株ばかり。バブルで懲りて地価もあまり上がりません。労働組合は、経済がよく解っていますからインフレになる様な賃上げをしません。折しも原油・資源安、物価安定、経済安定、生活も安定です。

 こうした状態は、世界にも当てはまります。かつて生産性を越える賃上げでインフレやスタグフレーションに苦しんだ主要国では、その経験に懲りて、労働組合も大幅賃上げなどの要求をしません。
 しかも、組織化されない非正規労働(賃金水準は低い)が増えて、平均賃金は上がりませんから、賃金コストプッシュになりません。これは日本だけではないようです。

 つまりインフレの最大要因である生産性を越えた賃金上昇があまり見られなくなっているのです。

 加えて為替要因もあるようです。EUの場合はギリシャ問題はありますが、域内の赤字国の努力の結果、EUとしては大幅経常黒字となり、ユーロ高です。これはデフレ要因です。
 中国の人民元は過小評価といわれていますが、内実はかなりのインフレで、国際競争力は落ちて来ているようです。これらはすべて、反インフレ・デフレ要因です。
 アメリカもテーパリングでドル高になり、結果は同様です。

 今日のマネー経済の世界では、経済のパフォーマンスが良ければ通貨高になり、経済がデフレ基調になるという点も、物価の超安定に貢献しているということのようです。

 2パーセント・インフレターゲットというのは、かなり無理なようです。インフレでなければ頑張れない(追い風記録公認方式=インフレ活用方式)ではなく、デフレさえなければ正常な経済状態と考え、デフレを避ける方法(マネーゲームに翻弄される為替レートの弊害)の検討に注力する方がいいのではないでしょうか。

 物価というものの基本的な性格を、経済活動が順調に行われるという視点から考えてみれば、①プラスである事、つまりデフレではないこと、②上げ幅がなるべく小さいこと、の2つではないでしょうか。

 デフレが経済活動にいかにマイナスの影響を与えるかは、このブログの「 デフレ3悪」を見れば納得して頂けるのではないかと思います。
 こうした視点からインフレ目標を再検討する必要もあるのではないでしょうか。