職安の業務統計の有効求人倍率はこのところ1.2倍台で極めて安定しているように見受けられます。
しかしその一方で、大手の電機、自動車、化学などの企業で、国際的な人員削減、そのうちのある程度は国内での削減といったニュースが入ってきます。
最近は、技術革新が急テンポで、特にAIの活用が所謂事務職の大幅な削減につながるのではないかといった意見も多く聞かれますが、その現実化は、今後次第に見えて来るのではないでしょうか。
その一方では、エッセンシャルワーカーなどを中心に、極端な人手不足が起きているようで、特に訪問介護などは、人手不足による事業所閉鎖が相次ぐといった話も聞かれます。
バスの運転手が不足して路線バスの運行を間引きする、不採算路線を廃止するので高齢者にとっては不便になる場合が多いといった地域のニュースも良く聞かれます。
産業構造が、多様な技術革新によって急速に変化し、一方では、高齢化問題なども含めて社会の在り方が変わっていくという時代が、今まさに進展しているのでしょう。
技術革新が、生産現場などの省力化を進め、雇用が縮小し、失業時代が来るというかつての懸念は、技術革新が新しい産業を生むという実体経験によってどちらかというとあまり心配されなくなったのは大変良かったと思うところです。
しかし、これからの問題は、今後一層進歩するであろう産業社会の技術進歩の雇用に与える影響がプラスかマイナスかという問題も含めて、技術進歩の影響(恩恵)を受けにくいエッセンシャルワーカーといった雇用の分野との間で、雇用のミスマッチが、ますます深刻になるのではないかという問題です。
現状で、深刻な問題は、エッセンシャルワーカーの仕事は,人間が人間の世話をするという面が大きいので、人間でなければ出来ない事がほとんどでしょう。産業社会での高度設備を使えば人間が不要になるという「省力化」が働かない分野なのです。
例えば身体介護といった仕事の場合には、相手は人間ですから、そこには人間関係が必然的に発生します。そして人間関係という分野は、ホモサピエンスが発生して30万年の間、基本的に進歩の無い、言い換えれば生産性の上がらない分野なのです。
これを雇用・賃金の単純理論から言えば「同じことをやっていたのでは賃金は同じ」という事になるのです。そして、結果的にそれは、「訪問介護サービスの賃金は上がらない」という現実、そして人手不足につながるのでしょう。
勿論、雇用のミスマッチは、賃金制度・賃金水準だけで解決する問題ではありません。しかしこの問題の解決のための、多分最大の「必要条件」の1つでしょう。
今回は、雇用のミスマッチ問題の最も基本的な「必要条件」の1つについての問題提起をしてみました。