守田です。(20111027 17:30)
今回の除染プロジェクトへの参加では、福島の方々に大変、お世話になりましたが、その一人に、プロジェクトメンバーとして初めから除染活動に参加してきた荒木田岳(あらきだたける)さんという方がおられます。福島大学行政政策学類准教授です。その荒木田さんが、現在発売中の『週刊朝日』(11月4日号)に表題の投稿をされました。
僕は現地で発売前のゲラをいただいて読んだのですが、とても胸を打たれたので、「明日に向けて」の転載をお願いしました。『週刊朝日』にはごめんなさいかもしれませんが、ともあれまずは荒木田さんの文章をご紹介します。From Fという、福島大学の研究者に「いま福島で起きていること」を語ってもらう連載の4回目です。
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除染するほど、「住めない」と思う
荒木田岳(あらきだたける)
5月から福島大の同僚や京都精華大などの先生たち、市民の方々と一緒に福島県内の除染に取り組んでいます。最初は、通学路や子どものいる家から作業を始めました。
政府は「除染をすれば住めるようになる」と宣伝していますが、それは実際に除染活動をしたことのない人の、机上の空論です。現場で作業している実感からすれば、除染にかかわるたびに、「こんなところに人が住んでいていいのか」と思います。
原発から約60キロ離れた福島市内ですら、毎時150マイクロシーベルトなんて数字が出るところがあります。信じられますか?今日もその道を子どもたちが通学しているんです。
30マイクロくらいの場所はすぐ見つかります。先日除染した市内の民家では、毎時2マイクロシーベルトを超えていました。つまり、家の中にいるだけで年20ミリシーベルト近くを外部被曝する。これに内部被曝も加味したらどうなるのか。しかもそんな家でも、政府は特定避難推奨地点に指定していません。
そしてどんなに頑張って除染しても、放射線量はなかなか下がりません。下がっても雨が降ったら元の木阿弥(もくあみ)です。一回除染して「はい、きれいになりました」という話じゃないんです。
今、私の妻子は県外に避難していますが、電話するたび子どもたちが「いつ福島に帰れるの」と聞きます。故郷ですからね。でも私には、今の福島市での子育てはとても考えられません。
そんな私が除染にかかわっているのは、「今しかできない作業」があり、それによって50年後、100年後に違いが出てくると思うからです。多くの人が去った後の福島や、原発なき後の地域政策を想像しつつ、淡々と作業をしています。歴史家としての自分がそうさせるのでしょう。
結局、福島の実情は、突き詰めると、元気の出ない、先の見えない話になってしまいます。でもそれが現実です。人々は絶望の中で、今この瞬間も被曝し続けながら暮らしています。こうして見殺しにされ、忘れられようとしているわが町・福島の姿を伝えたいのです。そうすれば、まだこの歴史を変えられるかもしれない。今ならまだ・・・・・。
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みなさま。どのように思われたでしょうか。ちなみに荒木田さんは、『週刊朝日』の誌面にご自分の写真も載せています。勇気を持って、はっきりと自分の素性を表にだして発言されています。しかし僕が「とても胸を打たれました」とお伝えすると、「福島市内では「風評被害を作っているのはあんただ」というような話にされてしまいます」との答えが返ってきました・・・。
僕は荒木田さんの文章は事実を正確に伝え、その中で「今しかできない作業」に取り組んでいる、人間としての、そして歴史学者としての、誠意がこもった素晴らしいものだと思います。それを短い中にきちんと納めていることも素晴らしい。表題は、編集者の方がつけられたのだそうですが、文意と荒木田さんの思いを見事にくみとったものだと思います。
その荒木田さんが、福島の今後のこととして、「あずまおろし」が吹き始めることを憂いをもった顔で僕に教えてくれました。これは福島市西部から山形県米沢市南部にかけて連なる吾妻連峰から吹き下ろしてくる風のことで、毎年、雪が降る季節になると猛烈に吹く風です。それも正面から受けると自転車が進めないほど強いと解説されるほどです。
しかも、雨の多い10月までの気候と違い、福島はこれから乾燥していくのだそうです。乾燥した状態で、非常に強い風が吹く。「そのことで放射能が舞い上げられてより拡散するのではないか。それが心配です」と荒木田さん。気象庁より今年は冬の到来が遅いことが発表されていますが、しかし僕が訪れた10月20日、吾妻山は初冠雪を迎えています。
荒木田さんは誰よりも、福島の今を憂いている。そして「見殺しにされ、忘れられようとしているわが町・福島の姿を伝えたい」とこうした文章を書いている。しかしそれが「風評被害を作っているのはあんだた」と言われてしまう現実があります。僕はその中で発言している荒木田さんを応援していきたい。荒木田さんと共に、「するほど「住めない」と思う」除染に、今後も携っていこうと思います。ただし次回は、作業被曝に対する防御の工夫をもっと凝らして。
荒木田さんの文章に共感された方は、どうか私までメッセージをお送りください。荒木田さんにお届けしたいです。今、私たち福島の外にいるものができるのは、福島の苦しみをシェアし、そこでの「もがき」に寄り添っていくことだと思うのです。「元気のでない、先の見えない話になってしまう」この時期を共にすることが大切だと思います。
同時に僕は思うのです。この中からきっと何か大事な知恵と経験が生まれてくるのではないかと。その意味で福島はけして同情の対象なのではなく、新たな知恵が生まれる場、世界が学ぶべき対象にもなりうるのではないかとも。これまで幾度も人類が大きな苦しみの中からこそ、新たな知恵を紡ぎだしてきたように。僕はできればその誕生に立ち会いたい、そのための何かのお手伝いをしたいと思うのです。
続く