守田です。(20111209 15:00)
すでにお伝えしてきたように、このところ東電と経産は、原発生き残りに論点を絞りきった「攻勢」を行っています。その一つの機軸をなすのが、1号機において、かなりの確率で事実と思われる地震による配管破断⇒メルトダウンという事実を隠蔽し、地震後の津波による全電源喪失をメルトダウンの原因とすることにあります。
なぜこのような手を取るのかというと、地震が原因であった場合、今、稼働中の原発を含め、日本のすべての原発の設計基準に問題があったことになり、どの原発も動かすことができなくなるからです。まさにそのために何としても、メルトダウンの原因を津波に限定し、防波堤の設置や、高台への予備電源の配置などで、対策が成り立ったことにして、今、停止中の原発の再稼動も可能にしようとしています。
その際にの一つの手が、吉田所長を英雄に持ち上げつつ入院辞任とし、被曝の可能性をちらつかせながら、一方で、想定を超える津波への対策を怠った罪や、事故発生時に、「非常用冷却装置の稼働を誤認」したという責任を吉田所長にかぶせ、双方への東電としての責任追求を回避することであることを暴露してきましたが、さらに、後続の発表を見ている中で、この「非常用冷却装置」の問題自身に、地震による破断の可能性の隠蔽の重要なポイントがあること、そのため、吉田所長の誤認が強調されている可能性が見えてきました。
この問題を把握するために、まず、この点を報道している東京新聞の記事をお読みください。
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冷却装置作動と誤認 原発事故 聞き取り調査公開
東京新聞 2011年12月6日
6日に公開された保安院の調査文書。1号機の冷却装置が作動していると「誤認」していたことを示す記述もある。
福島第一原発の事故当時、現場の東京電力緊急対策本部が、大津波の襲来後も1号機の非常用冷却装置(IC)は作動し続けていると誤認していたことが六日、経済産業省原子力安全・保安院が情報公開した保安調査の文書で分かった。現場の状況を正しく認識できていなかったことで、事故対応に遅れが出た可能性もある。
保安院は八月四、五の両日、福島第一原発で、吉田昌郎(まさお)所長(当時)らから聞き取り調査を実施。保安院はこれまで内容を明らかにしてこなかったが、今回、本紙が保安院に対して行った情報公開請求で分かった。
調査報告書によると、1号機中央制御室にいた東電の現場社員らは、三月十一日、地震発生後に自動起動したICを、原子炉の温度が急速に下がりすぎるとしていったん手動で停止。午後六時すぎ、一時的にバッテリーが復活したのを受け再起動させたが、「IC内の水が不足し、原子炉蒸気が通る配管が破断する恐れがある」と考え直し、その七分後に停止させた。
ICの設計書から水は十分あると判断し起動したのは、その後三時間たってから。中央制御室の「ICの表示ランプが弱々しくなりこのタイミングを逃すと二度と弁が開けられない」と追い詰められての判断だった。
しかし、所長らが詰めていた免震重要棟にある緊急対策本部と、1号機中央制御室との間は、地震後にPHSやトランシーバーなどが使えず、固定電話一回線しか通じないため、なかなか連絡がつかない状況だった。
原子炉の水位計の情報も間違っていたため、所長らは、実際には弁の開閉を繰り返し、多くの時間でICが停止していたのに、ずっと起動して冷却が続いていると認識していたという。
また、全電源喪失という事態を受け、緊急対策本部が電源車を集めることが必要と判断したのは、大津波襲来から二時間以上たった午後六時ごろだったことも判明した。早く判断し、手配できていれば、事故対応が違った可能性もある。
http://www.tokyo-np.co.jp/article/feature/nucerror/list/CK2011120602000190.html
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いかがでしょうか。要点をつかむことができたでしょうか。僕にはおそらくこれを書いている記者さん自身、内容を十分に把握できていないように思えるのですが。そもそも記者さんが「非常用冷却装置」の何たるかを理解しているように感じられない記事です。
さらに、この報道に続いて、9日の毎日新聞の報道で、この装置が働いていれば、メルトダウンは防げたのではないかとの指摘が出されたことが報道されています。これを出したのは、原子力安全基盤機構(JNES)。経産省管轄の独立行政法人で、要するに保安院などの天下り先です。ここが8日にこの声明を出している。東電の発表が2日にあり、その内容がいきわたったころあいを狙っての発表でしょう。情報を小出しにするために、わざわざ東電ではないところから発表させたのだと思われます。
さらに、これに続いて、今度は吉田所長の病気が食道がんであることが報道されています。はじめに記者会見で「それなりの被曝をした」と語り、続いて病気辞任を発表するものの、プライバシーを理由に、病気内容を伏せました。このため、当然にも被曝のためではないかとの憶測が産まれました。
これに対して、被曝ではないと否定しながら、その間に東電が想定外の津波の可能性を握りつぶしてしまったこという情報だしつつ、それを吉田所長が前職のときに行ったことだとさらりとだし、さらに「冷却装置の停止も知らなかった」と発表したときにはもう本人を入院させてしまい、さらに今になって食道ガンであることが明らかにされたわけです。
こうなると、「津波への想定がきちんとしていたら、事故にはならなかったのに」「冷却装置の停止に気づいてきちんと動かしていれば、事故にはならなかったのに」という思いが、情報の受け取り手の側に残ります。しかしその責任が、吉田所長に集中しているのをみると、「吉田さんは頑張ったのだし、ガンなのだから追求するのはかわいそうだ」となります。実際にも入院してしまっているのだからマスコミも取材ができない。
そうなると「食道ガンと言っているけれど、やはり本当は違うのでは」とか「吉田所長に全部を押し付けているのではないか」とか、そんな憶測が飛び交うことにもなる。それらも十分に考慮しつつ、東電としては「津波でこんなことになってしまいましたが、次からはしっかり備えるので大丈夫です」というストーリーを生き残らせようとしているのだと思います。
しかし吉田所長ももちろん東電の幹部であり、ベントなどで多くの人々を直接被曝させた張本人の一人で、本来、刑事犯として告訴の対象になる人物ですから、自ら他の幹部と、十分に打ち合わせをして、この一連の流れの中にのっているのだと思われます。何より吉田所長も、長年東電の中核を担ってきたのですから、危険や多くの下請け労働者の被曝を知りつつ、原発を動かしてきた人物だということを忘れてはなりません。
それではこの主張に孕まれた矛盾、隠蔽されているものは何かというと、そもそものICのもっている機能についてです。この機器はたびたび非常用冷却装置と書かれています。まったくの間違いとは言えませんが、非常用復水器と書いたほうが正しい。役目は温度を下げるよりも、圧力を抑制することの方が大きいからです。それで温度も下がるので冷却の一面もある。
もう少し詳しく言うと、この装置は、原子力圧力容器の中で温度が上昇し、中にある水が蒸発し始めて、蒸気を発生させ、容器の圧力が上がることに対し、その蒸気の圧力そのもので、復水器に蒸気を誘導し、そこにある水の中で蒸気を吹かせて、水に戻すことを目的としたものなのです。蒸気は水に戻ると体積が一気に小さくなり、圧力が下がることを利用しています。蒸気が水に戻ると温度も下がるので、冷却効果も持ちます。水蒸気の圧力を利用しているので、電源がなくても稼動できることに特徴があります。
これは「古い装置」だそうで1号機にしかついていません。それだけにここが一つの焦点になるのですが、問題はこの復水器が自動運転したことに対して、運転員がそれをすぐに止めてしまったことにあります。これがミステリーなのです。何せメルトダウンが迫っているというのに、なぜ運転員は装置をとめてしまったのでしょうか。
これに対する東電の発表が記事の中に書かれています。「地震発生後に自動起動したICを、原子炉の温度が急速に下がりすぎるとしていったん手動で停止」したと。・・・ここに大きな矛盾がある。メルトダウンに向かおうとする原子炉を、なぜ「急激に下がりすぎる」と恐れる必要があったのか。むしろ急激に冷やさなければいけないのではなかったのか。
実はこの点は5月から明らかになっていることで、そのときに東電は、マニュアルの存在を持ち出しているのです。圧力容器の激しい温度変化による劣化を避けるために、1時間に55度以上の温度変化をさせないように作動させるというのがそれで、運転員はそれに従ったと述べたのですが、今回の事故報告でもこの見解がそのまま採用されています。
これがおかしい。なぜならこのマニュアルは通常運転のときのものだからです。例えば自動車に乗るときに、暖機運転をしてから走り出したほうが、長い目でみたときにエンジンが良く持ちます。これと同じように、温度を急激に下げることを繰り返すと、長い目で見た場合に、圧力容器に劣化が生じやすくなるので、原発を止めるときに、徐々に温度を下げることが決まっているのです。なので緊急時は当然、無視される規定です。事実、スプリンクラーを軸とした非常炉心用冷却装置は、何百度にもなった炉心に、いきなり水を浴びせかける用に作られています。まったなしで冷やさなければならないときに、ゆっくり冷やさないと、素材の劣化が早まる・・・などと言っている余裕など、当然にもありえないのです。
ところがこの理屈が、運転員が非常用復水器を止めたことの理由として、今回も出されている。これは明らかなウソです。あまりに常識に反している。津波から逃げようとする車が、赤信号で停止するようなもので、緊急に炉心を冷やそうとするなら誰がどう考えたって、平常時のそんなマニュアルに従うはずがない。
つまり、他の理由があって運転員は、非常用復水器を止めたのです。そしてそこから類推されるものこそ、地震の影響なのです。この点で京都大学原子炉実験所の小出さんは、復水器そのものが地震で壊れていて、動かすことで冷却材がなくなってしまうために、動かせなかったのではないかという説を唱えています。一方で元原子炉設計士でサイエンスライターの田中三彦さんは、その可能性も踏まえつつ、いずれにせよ原子炉に通じる配管のどこか地震で破断して、どんどん炉心の冷却水が抜け始め、そもそも炉内の圧力が抜けていった。
そのため、この機器の積極的な意味が失われていたことも含め、この点を東電が明らかにしなければ、事故の真相が明らかにならないと指摘しています。
どちらも、共通するのは、地震による機器の故障で、この装置が動かせなかったか、動かす意味がなくなってしまったという点です。僕自身は、より田中さんの解析が妥当なように思えますが、今はその点よりも、事故解析の大きな焦点が、運転員によるこの装置の手動停止にあることを確認しておきたいと思います。
東電はこの論点をずらしたい。そのため、なぜ運転員が装置を止めたかではなく、装置が止まっていることを、吉田所長が把握できていなかったことの方をハイライトしているのです。もちろん、吉田所長を救う手立てもしっかり埋め込んでいます。当時、連絡のための回線がつぶれてしまい、なかなか現場と連絡がつかなかったのだという内容です。こうなれば、事態を把握できればなんとなかったけれど、できなかった。では次のために、しっかりとした連絡網を整備しようという話につなげることができます。
しかし確からしいことはそうではありません。地震で原発が壊れてしまったのです。そしてその事実こそ、日本の原発のすべてを廃炉にしなければならない一つの根拠なのです。何せ地震の想定が間違っているのですから。今後も大地震があれば、同じように壊れる可能性が大なのですから。
こうした視座を再度、しっかりと固めながら、東電の、原発生き残りのための事故解析へのウォッチを続けます。
なお今回の分析は、6月に行われた田中三彦さんの解析を参考にしています。
興味のある方は、以下の記事もご参照ください。
明日に向けて(171)(176)地震による配管破断の可能性と、東電シミュレーション批判(田中さん談)
・・・田中さんの発言の全体は(176)に載っています。
http://blog.goo.ne.jp/tomorrow_2011/e/b3708b03147d12b3864f0c8fc3819642
http://blog.goo.ne.jp/tomorrow_2011/e/f1914e7352792c89767a9c7585ee4a00