明日に向けて

福島原発事故・・・ゆっくりと、長く、大量に続く放射能漏れの中で、私たちはいかに生きればよいのか。共に考えましょう。

明日に向けて(366)これからの医療に問われること(医療の社会配分の増加を)・・・その2

2011年12月27日 23時30分00秒 | 明日に向けて(301)~(400)
守田です。(20111227 23:30)

明日に向けて(365)より、「これからの医療に問われること」と題した連載
を始めましたが、昨夜記事を配信した後に、毎日新聞の「診療報酬改定 配
分こそが重要だ」という記事を読んで、あまりの見識の低さにうんざりして
しまいました。社説を書いている方が、あまりに日本の医療の現状に関する
基礎的な認識がないことが見えてしまったからです。(すいません。紹介は
割愛します)

さらにうんざりすることは、こうした点は、医療者や、医療改革を志す人々
によって行われているシンポジウムなどで、繰り返し、マスコミへの丁寧な
解説が行われてきているにもかかわらず、そうしたシンポが行われた直後は
明らかに論調が変わるものの、論説委員が変わるたびにもとの木阿弥になっ
てしまい、論調が戻ってしまうことが繰り返されている点です。

僕もそうしたシンポを同志社大学社会的共通資本研究センターの一員として
担ったことがあります。そのときもマスコミ各社から参加した論説員の方た
ちが、「なるほどよく分かりました。医療の現状を訴えます」と言って、た
しかにそのときはいい記事や論説を書いてくださったのですが、それがちっ
とも定着していかない。


ともあれ基礎的なことをここでおさえたいと思います。日本の医療がどのよ
うな状態にあるのか。客観的なデータを見るには、OECD諸国との比較が
頼りになります。この点で、使えるのは毎年更新されているOECDヘルス
データです。ネットで2011年版の仮訳を見つけたので、それを参照していき
ましょう。

OECDヘルスデータ2011(仮訳) 世界の中でみる日本の状況
http://www.oecd.emb-japan.go.jp/Briefing%20note%20-%20Japan_2011.pdf

まず日本の医療支出は多いのか。同データには次のように書かれています。
「日本の2008年の総保健医療支出の対GDP比は8.5%であり、2009年のOE
CD平均の9.5%を1%下回る」。1%とは非常に大きな値です。日本は医療支
出が非常におさえられた国なのです。

一人当たりの保健医療支出の伸びはどうか。
「日本の一人当たり保健医療支出は2000 年から2008 年の間に実質ベースで
2.4%増加しているが、これも2000 年から2009 年の間のOECD 平均の4.0%を
下回っている」。ここでも平均を1.6%も下回っている。医療支出の伸びの面
でも抑制されているのが現実です。

では保健医療支出が少ないことは、どういう現実を生み出しているのか。
「日本は、他のほとんどのOECD 加盟国より人口当たり医師数が少ない。2008
年において、日本の人口千人当たり医師数は2.2 人であり、OECD 平均の3.1
人を大きく下回る。日本の人口当たり医師数が他国と比較して少ない要因の
一つは、政府が医学部入学定員を制限していることにある」。

毎日新聞社説にも、「もちろん医療体制を充実させることは必要だ。救急医
療や産科などは相変わらず医師不足で、地方の医療機関や診療科の閉鎖も起
きている」と書いてあるのですが、足りないのは何も救急医療は産科だけで
はありません。人口当たりの医師数がOECDの中でほぼ最低の国なのです。
平均3.1人に対して、2.2人です。ようするに三分の二なのです。

看護師数はOECD平均8.4人に対して、9.5人とわずかにうわまわっていま
すが、医師数が圧倒的に足りない分、日本の看護師の仕事は相対的にハード
です。医師の少なさが、看護師にも重くのしかかっているのです。またアメ
リカには豊富な医療ボランティアスタッフがほとんどいないのも日本の特徴
です。

一方、このデータには、医師数の足りない日本が、MRIなどの放射線を使っ
た検査機器だけは突出して持っていることも述べています。MRIの人口当
たりの台数はOECD平均の4倍。これは世界の医療界の中でも、日本が医療
被曝に対する観点が甘いことを反映するものでもあり、興味深いデータなの
ですが、今はこの論点は脇においておきましょう。

問題は、医師数がOECD平均の三分の二にしか満たない日本が、健康上で
はどのような位置を獲得しているかです。これについては三点が紹介されて
います。

「2009 年において、日本はOECD 加盟国で最も長い平均寿命を謳歌しており、
全人口で83.0 歳となっている。~過去数十年間の日本の著しい平均寿命の伸
びは、男女ともに今では全OECD 加盟国中最も低くなった循環器系疾患による
死亡率の低下に起因している」。

「日本の乳児死亡率もまた、過去数十年間に劇的に低下した。日本は2009 年
で出生千人当たり死亡数がOECD 平均4.4 を大きく下回る2.4 であり、OECD加
盟国の中でアイスランドの1.8 に次ぐ2番目に低い国々の一つとなっている。」

「肥満率は、国によって大きく差はあるものの、過去数十年間でOECD 加盟国
において増加している。身長と体重の実測に基づく成人における肥満率は、
日本の3.9%、韓国の3.8%(2009年)から最大の米国の33.8%まで大きな差が
ある。測定データのあるOECD 加盟14 ヶ国の平均(2009 年)は21.0%となっ
ている。」

この三点目の内容、日本がOECD諸国の中では韓国と並んで、ダントツに
スリム率の高い国であることは、医療面よりも食生活の影響などが大きいので
医療の反映とはいいにくいところがありますが、平均寿命がトップであること、
これが循環器系疾患による死亡率低下によって支えられていることや、乳児死
亡率もアイスランドに続いて低いこと、つまり産科医療、小児科医療がきわめ
優秀であることがここから見て取ることができます。

要するに三分の二の医師数で、世界でトップの医療成績を上げているのが、
日本の医療の現状なのです。どうしてそんなことが可能なのか。大きな要因は、
日本の医療スタッフの献身性が世界の中でダントツに高いことにあります。同
時にそこにもの凄いしわ寄せがきていることが容易に理解できます。なぜって
平均の三分の二の医師数で、世界のトップの成績をあげているのですから。
そのことが産科、小児科から人手不足になっている要因なのです。

毎日新聞の論説委員がまったく理解してないのは、医療はそこに資金が投入さ
れれば、それが国民負担になるよりも、国民・住民の健康状態のアップとして
かえってくるものである点です。反対にこういうぎりぎりの状態で保たれてい
る医療体制が崩壊していくと、真っ先に困るのは国民・住民です。とくに産科
・小児科の崩壊は、私たちの未来そのものを暗くしてしまいます。

さらに今は、放射線の害との闘いがこれに加わっているのです。病気はさまざ
まな形で確実に増えてくる。病気だけではありません。多くの方の被曝のモニ
タリングや追跡調査も行わなければなりません。そのために医療スタッフの仕
事は不可避的に増えざるを得ない。だからこそ人員の拡充をしないと、医療の
未来はきわめて厳しいことになってしまいます。医師の養成にかかるのは、
ざっくりいって10年。10年後の被曝の影響を見据えて、今から医師を増やす必
要があるのです。放射線防護を考える上でも、これは極めて重要なポイントです。


それでは私たち市民サイドではどうしたらいいのでしょうか。ぜひみなさんに
していただきたいことは、医療サイドをそれぞれの立場から支えて欲しいと
いうことです。例えば救急医療を安易に使っていることはないでしょうか。
また、市民の側で、日本の医療の危機的な状態を把握し、医師やスタッフの充
実を求める市民の声を強めていくこと、それをつねに医療スタッフに伝え、
一緒になって、充実した医療制度を作り出していくことも重要です。

実際に市民の側のこうした取り組みがあって、地方病院の小児科が廃止を免れ
たり、疲弊しぬいた医師が、バーンアウトを免れたりした例も出ています。行
うべきは、市民サイドが、積極的に医療サイドに手を差し伸べることです。
できることはたくさんあります。まずは医療を受けたときに丁寧なお礼を述べ、
感謝を捧げましょう。ほとんどの医師や看護師は、その笑顔を支えに頑張って
います。

繰り返しますが、私たちが放射線被曝と社会的に闘っていくための基盤整備に
なります。医療に手厚い社会を作り出していきましょう!


********************

社説:診療報酬改定 配分こそが重要だ
毎日新聞 2011年12月26日 2時30分

0.004%増。このご時世に医療機関の増収は認めたくないが、日本医師会
や民主党内の声を無視するわけにもいかない。そんな苦悶(くもん)を表した
ような数字ではないか。「医療を維持していくという意思表示」。12年度
報酬改定を微増で決着させた小宮山洋子厚生労働相は成果を強調するが、診療
報酬を上げると保険料や患者の窓口負担も増える。物価も賃金も下がり、年金
も物価に連動して支給を減らす議論がされている中、医療側の収入を増やすこ
とが妥当なのか、割り切れなさが残る。

医療機関での検査や治療、処方される薬の値段を決める診療報酬の改定は2年
ごとに行われる。当初、日本医師会は次期改定見送りを厚労省に申し入れてい
た。東日本大震災に人材も財源も集中すべきだとの理由だったが、前回改定で
0.19%アップとなり経営が改善された医療機関は多い。マイナス改定され
るよりは現状維持を図っているのだと指摘する医療関係者は少なくなかった。

ところが、小宮山厚労相がプラス改定を公言したのを機に、医師会は次期改定
でアップを求める方針へ転換した。その後、事業仕分けで診療報酬の削減が打
ち出され、事態は紛糾する。結局、薬価を1.375%下げ、医師の人件費や
技術料に当たる「本体部分」を上げて差し引き0.004%増に落ち着いた。

もちろん医療体制を充実させることは必要だ。救急医療や産科などは相変わら
ず医師不足で、地方の医療機関や診療科の閉鎖も起きている。厚労省は報酬増
を救急、産科、小児科、外科など急性期医療を担う病院勤務医の負担軽減に充
てるほか、在宅医療、がんや認知症治療などの充実に回すという。在宅医療を
支える有床診療所や訪問看護ステーションの拡充は最優先すべき課題だ。

それは報酬全体を引き上げるのではなく、報酬の配分を変えることで対処でき
なかったのだろうか。比較的手厚く配分されてきた開業医側の反対は強いだろ
うが、消費増税の議論がされているさなか、さらに負担が増すことに納得でき
ない人は多いはずだ。今後は具体的な配分の論議に移る。数字上の微増にこだ
わるよりも、こちらの方が重要だ。

前回改定は民主党が政権交代を果たした直後だった。長らく自民党の支持母体
だった日本医師会は報酬改定に影響力を発揮することができず、それが開業医
から病院や勤務医へと傾斜配分できたことにつながった。現医師会執行部は民
主党支持を明確にし、政権への影響力は強まっている。国民にとって負担増に
見合った報酬配分ができるのか。安心できる医療体制を築くための筋の通った
論議を期待したい。
http://mainichi.jp/select/opinion/editorial/news/20111226k0000m070112000c.html
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