守田です。(20111218 23:30)
12月16日に、野田首相により、福島第一原発の冷温停止宣言がなされました。
僕はこの宣言が、アメリカの意向を受けて、危機を隠し、危機感を解体するた
めに出されようとしていると指摘しましたが、宣言がなされて以降、同様の
指摘がさまざまな人々によってなされています。
注目すべきものとしては、国会に設置された「東京電力福島第1原発事故調査
委員会」の黒川清委員長(元日本学術会議会長)が、「納得いかない」と批判
したことです。黒川さんは、日本の医療制度の現状を憂いて、積極的な発言を
繰り返してきた方であり、僕が属していた同志社大学社会的共通資本研究セン
ターが主催した医療シンポでも発言していただいたことがあります。
http://www.nikkansports.com/general/news/f-gn-tp0-20111218-878286.html
一方、冷温停止宣言が現実的な危機そのものから目をそらしてしまうことにな
ることが問題で、何がそこにある危機かをはっきりさせることだ大事だという
指摘もあちこちからあがりだしています。この点について、「明日に向けて」
のコメントに対して、京都精華大学の細川弘明さんが、次のような点が現実に
ある深刻なのではないかと指摘を行ってくださったので、僕なりに解釈しなが
らご紹介したいと思います。
細川さんが指摘してくださったのは以下の4点です。
1)いまの状態を仮に「冷温停止のような状態」と呼ぶにせよ、その状態をは
たして持続的に維持できるのか? ──設置した循環冷却系は1年以上もつのか?
2)「循環冷却」にもかかわらず増え続ける汚染水の処理が間に合うのか。
3)すでに200人Svというとんでもないレベル(ゴフマンのリスク評価を適用す
れば80人前後の増癌死、ICRPの係数ですら10人の増癌死)に達している作業者の
集団被曝量を、あと10年繰り返すことができるのか?
4)SFP(使用済み燃料プール)はどうなっているのか?
細川さんは同時に、ニューヨークタイムズにもこうした点を掘り下げた記事が
載ったことを紹介してくださいました。英語ページですがアドレスを記しておき
ます。
http://www.nytimes.com/2011/12/15/world/asia/japan-set-to-declare-control-over-damaged-nuclear-reactors.html?_r=1
このニューヨークタイムズや、細川さんからの指摘などを参考に問題をまとめて
みると、まず冷温停止状態が維持できるのかどうかという点では、再び大規模な
地震や津波がきたら、急ごしらえの冷却システムが崩壊して、振り出しに戻って
しまうことが最も大きな危機としてあげられます。
そもそも4号機などは繰り返し建屋自体の崩壊が懸念されてきており、応急措置
が繰り返されているものの、大地震は非常に大きな脅威です。これまで繰り返し
大きな余震にもさらされていることでも、ダメージが蓄積されていることが懸念
されます。その意味で福島原発はいつなんどき、危機的な状態に舞い戻るか分か
らない状態にあります。
またこれも細川さんの指摘にあったことですが、今の冷却システムは、応急措置
としてビニール配管などで作り上げてきたものであり、少なくとも金属配管に
直す必要があります。またそれとても、もともとの設計にないものですから、耐
震性など大きな不安が残ります。
2点目は汚染水の問題です。処理は間に合うのか・・・とても無理だというのが
現実だと思います。この間も繰り返し海への流出が起きています。しかも経産省
・保安員は、「緊急事態」を理由に、この間、法的には流出量は「ゼロ」と扱って
きたことがこの間、明らかになっています。
この点でも細川さんは、「現状ではタンク増設が間に合わず、海への放流が「既定
路線」として準備進められているようだ」という点も指摘してくださいました。
これは項をあらためて紹介したいと思いますが、こうした点からも、今後も、汚染
水の流出が続く可能性があり、深刻な海洋汚染がさらに広がる可能性が大です。
3点目は被曝労働の問題です。すでにゴフマンの指摘で80人、ICRP基準でも
10人がガンで亡くなるといわれるだけの被曝が発生しています。内部被曝の脅威に
ついては、ゴフマンよりも厳しく考えるべきだという指摘もあり、今はその当否に
は触れませんが、いずれにせよ、現時点でも被曝は深刻で、それが一体いつまで
続くのかという問題があります。
4点目は「原子炉の冷却」のみが語られていて、使用済み燃料プールのことが触れら
れていないけれども、ここでもきわめて危険な状態が続いています。
冷温停止宣言は、こうした危機から目をそらすものだと僕は思いますが、実はその
ことで、当事者自体が真っ先に目をそらしてしまう可能性があることもまた、危機
の実相ではないかともいえると思います。なぜならこれまでの「安全神話」も同じ
構造にあったからです。
安全と宣言し続けないと、原子力行政は進められなかった。しかしそのことで、実
に政府も東電も、深刻な事故がおこったときの対策を怠り、いつしか自縄自縛に
陥って、自らが安全宣言の虜になってきてしまいました。そのもとで、「想定」
を越えた危険性の指摘が常に退けられてきた。それと同じことは容易に発生します。
この構造がなんら反省されておらず、まだ誰一人、法的にも道義的にも責任を
とってないからです。
こうした危機を越えるために必要なのは、市民の側のウォッチです。
連携しあって努力を継続し、強化していきましょう!
12月16日に、野田首相により、福島第一原発の冷温停止宣言がなされました。
僕はこの宣言が、アメリカの意向を受けて、危機を隠し、危機感を解体するた
めに出されようとしていると指摘しましたが、宣言がなされて以降、同様の
指摘がさまざまな人々によってなされています。
注目すべきものとしては、国会に設置された「東京電力福島第1原発事故調査
委員会」の黒川清委員長(元日本学術会議会長)が、「納得いかない」と批判
したことです。黒川さんは、日本の医療制度の現状を憂いて、積極的な発言を
繰り返してきた方であり、僕が属していた同志社大学社会的共通資本研究セン
ターが主催した医療シンポでも発言していただいたことがあります。
http://www.nikkansports.com/general/news/f-gn-tp0-20111218-878286.html
一方、冷温停止宣言が現実的な危機そのものから目をそらしてしまうことにな
ることが問題で、何がそこにある危機かをはっきりさせることだ大事だという
指摘もあちこちからあがりだしています。この点について、「明日に向けて」
のコメントに対して、京都精華大学の細川弘明さんが、次のような点が現実に
ある深刻なのではないかと指摘を行ってくださったので、僕なりに解釈しなが
らご紹介したいと思います。
細川さんが指摘してくださったのは以下の4点です。
1)いまの状態を仮に「冷温停止のような状態」と呼ぶにせよ、その状態をは
たして持続的に維持できるのか? ──設置した循環冷却系は1年以上もつのか?
2)「循環冷却」にもかかわらず増え続ける汚染水の処理が間に合うのか。
3)すでに200人Svというとんでもないレベル(ゴフマンのリスク評価を適用す
れば80人前後の増癌死、ICRPの係数ですら10人の増癌死)に達している作業者の
集団被曝量を、あと10年繰り返すことができるのか?
4)SFP(使用済み燃料プール)はどうなっているのか?
細川さんは同時に、ニューヨークタイムズにもこうした点を掘り下げた記事が
載ったことを紹介してくださいました。英語ページですがアドレスを記しておき
ます。
http://www.nytimes.com/2011/12/15/world/asia/japan-set-to-declare-control-over-damaged-nuclear-reactors.html?_r=1
このニューヨークタイムズや、細川さんからの指摘などを参考に問題をまとめて
みると、まず冷温停止状態が維持できるのかどうかという点では、再び大規模な
地震や津波がきたら、急ごしらえの冷却システムが崩壊して、振り出しに戻って
しまうことが最も大きな危機としてあげられます。
そもそも4号機などは繰り返し建屋自体の崩壊が懸念されてきており、応急措置
が繰り返されているものの、大地震は非常に大きな脅威です。これまで繰り返し
大きな余震にもさらされていることでも、ダメージが蓄積されていることが懸念
されます。その意味で福島原発はいつなんどき、危機的な状態に舞い戻るか分か
らない状態にあります。
またこれも細川さんの指摘にあったことですが、今の冷却システムは、応急措置
としてビニール配管などで作り上げてきたものであり、少なくとも金属配管に
直す必要があります。またそれとても、もともとの設計にないものですから、耐
震性など大きな不安が残ります。
2点目は汚染水の問題です。処理は間に合うのか・・・とても無理だというのが
現実だと思います。この間も繰り返し海への流出が起きています。しかも経産省
・保安員は、「緊急事態」を理由に、この間、法的には流出量は「ゼロ」と扱って
きたことがこの間、明らかになっています。
この点でも細川さんは、「現状ではタンク増設が間に合わず、海への放流が「既定
路線」として準備進められているようだ」という点も指摘してくださいました。
これは項をあらためて紹介したいと思いますが、こうした点からも、今後も、汚染
水の流出が続く可能性があり、深刻な海洋汚染がさらに広がる可能性が大です。
3点目は被曝労働の問題です。すでにゴフマンの指摘で80人、ICRP基準でも
10人がガンで亡くなるといわれるだけの被曝が発生しています。内部被曝の脅威に
ついては、ゴフマンよりも厳しく考えるべきだという指摘もあり、今はその当否に
は触れませんが、いずれにせよ、現時点でも被曝は深刻で、それが一体いつまで
続くのかという問題があります。
4点目は「原子炉の冷却」のみが語られていて、使用済み燃料プールのことが触れら
れていないけれども、ここでもきわめて危険な状態が続いています。
冷温停止宣言は、こうした危機から目をそらすものだと僕は思いますが、実はその
ことで、当事者自体が真っ先に目をそらしてしまう可能性があることもまた、危機
の実相ではないかともいえると思います。なぜならこれまでの「安全神話」も同じ
構造にあったからです。
安全と宣言し続けないと、原子力行政は進められなかった。しかしそのことで、実
に政府も東電も、深刻な事故がおこったときの対策を怠り、いつしか自縄自縛に
陥って、自らが安全宣言の虜になってきてしまいました。そのもとで、「想定」
を越えた危険性の指摘が常に退けられてきた。それと同じことは容易に発生します。
この構造がなんら反省されておらず、まだ誰一人、法的にも道義的にも責任を
とってないからです。
こうした危機を越えるために必要なのは、市民の側のウォッチです。
連携しあって努力を継続し、強化していきましょう!